四つ星公演 レオンおにいさんの!たのしいたのしいさつりくしょー!!①
「って、その前に。『レオン君』の生い立ち!いってみよー!」
実にゆるい口調だった。レオンのナレーションと共に、セピア色の舞台へと変貌する。ナレーターという役割になっているのか、レオンの姿はない。
暖かそうな室内だ。暖炉を囲んで家族がくつろいでいた。ロッキングチェアに座って酒を嗜んでいる男性は父親だろうか。手に収まるサイズの四角い何かを持ち、指で触れていた。ソファに深く座った母親らしき女性は、赤子に声をかけながら抱いていた。見慣れないものが沢山あったが、裕福そうな家庭だ。珍しいものを集められるほどの資金力でもあるのかもしれない。
レオンの事を知るには良い機会だった。アマリアは身を潜めつつ、大人しく見守ることにした。
観客達も静かに観ていた。多少ではあるが緊張の糸が緩む。殺戮とうたうものだから、どれだけ残酷なものを見せられるのかと構えていたからだ。レオンの進行で舞台は進められていく。
「あの可愛い赤ちゃんは『キミシマレオン』君。赤ちゃんの頃はピュアピュアしてました。いやぁ、可愛い可愛い。まじ可愛い。親も金持ちで勝ち組じゃん。……って思うじゃん?」
「キミシマレオン。……キミシマ?」
レオンという部分は共通しているが、それ以外は違っている。レオンはおそらく名前なのだろうが、キミシマという慣れない語感にアマリアは戸惑う。観客達もきっとそうだろう。
「幸せな家庭だって思うじゃん?」
―ねえ、レオン。どうして泣き止んでくれないの。どうしていつも泣いてばかりなの。どうして困らせてばかりなの。どうしてどうしてどうして。
女性が声をかけていたのはあやす為ではない。
―全く、早くどうにかしてくれないか。お前は一体をやっているんだ。それでも母親なのか。……言い過ぎた。もう休ませてもらう。明日も早いんだ。
男性が目もくれないのも、お酒と手に持っている物に夢中なだけではない。目を背けたいからだ。
―ああああああ……。私は一人、一人なんだ……。レオン、ねえレオン……。お願い、泣かないでってばぁ……!
「はい!赤ちゃんは泣くのが仕事、正論なんだけど?それ今はなしで。あの人、ワンオペ育児でメンタルやられていたから。父親の方もほら、その頃事業やばない?ってなってたし。持ち直しはしたけど。……どうでもいっか」
場面に似つかわしくないほど、レオンの声は陽気だった。
「赤ちゃんは少年になって、空気の読める子になりました。クソ寒い家庭環境でもさ、健気にも親に振り向いてもらおうとしてましたっと」
意味なかったけど、と感情を伴わない声でナレーターは言った。
「それでもさ、レオン少年朗らかな明るい好青年へと成長していきました。周り全部が悪意で満ちていたわけじゃなかった。優しい人達だっていた。だからレオンは笑っていられたのかも」
学園のものとは異なるが、成長したレオンが着用しているのは制服だろう。友人達と笑いながら道を歩いていた。建物が崩れているなんてこともない。舗装された道路に見た事もない乗り物達。何もかもがそうだ。アマリアにとっては目新しいものばかりだった。
「ほんとね、よく笑う子だったよ。しょっちゅう笑ってた。冷え冷えの家の中でも、まだ懲りずないんだわ。馬鹿みたいに明るくしようとしてた。それでようやく良くなってきた。父親も母親も笑ってくれるようになったんだ」
務めて明るく振る舞うレオンは、学園で目にしてきたレオンそのものだった。
「俺は尚更笑うようになった。家族だけじゃなかった。ダチもそう。教師とかもそう。俺が笑って。ううん、笑わかせてきた。そうすれば大体うまくいったし」
周囲の人間が彼に求める。明るいレオンであることを望む。多くの人々が彼に群がる。その中心にいるのが笑顔のレオンだ。
「いつでも笑うようにしていた。今思えばそれってさ。―刷り込みだったのかな」
レオンのその声を皮切りに、穏やかな場面が続くかと思われたが、照明は暗くなっていく。
「進学校だったし、女子にもモテたし。恵まれすぎかなって思ってた。なんてね、ないない。そんなうまくいくわけない」
にこにこ笑うレオン。そんな彼を取り囲むように笑う人物達。彼らも笑っている。同じような笑顔だ。一律同じ表情だった。
「……うまい話とかもね。お馬鹿さんなレオンは丸め込まれちゃいました。そっからはもうね、転落人生!詳細とかは省きまーす。えぐすぎて規制かけられそうなんでー」
笑顔で話しかけてきたのは悪い大人だ。レオンも笑顔で応じる。
「……生ぬるくて、でもって気持ち悪い世界」
レオンが吐き捨てるように言いながら、登場した。彼一人が舞台の中心に立っていた。彼は演じるかのように語り出す。
「なにかがおかしかったのかな。最初から狂っていったのかな。俺がこうなったのも、ダチのせい?周りの大人達のせい?それとも親の」
誰が彼の人生の歯車を狂わせたか。レオンは観客達に語りかけた。場面は暗転する。