表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/230

令嬢の迷いと決意

 案の定だった。学園内はレオンの話で盛り上がっていた。誰の仕業かはわかったので、得体の知れない不安は消えつつある。ならば、とレオンの話題で白熱していた。

 かといって、全員が全員ではない。ある生徒はレオンの名を出しただけで、卒倒したという。青白い顔をした生徒も減ったわけではない。

 学園内の空気は悪いままだった。


「……どうなっていくのかしら」

 夕暮れ時。アマリアは一人で帰り道を歩いていた。今朝方、エディを置いてアマリアは学園へと向かった。彼も結局登校をしてこなかった。

 フィリーナも学園では会えずじまいだった。劇場街でもそうだった。アマリアは支配者に連行されてそのままだった。彼女は一体どうしたのだろうか。

 一人で歩いているのはアマリアだけではないようだ。他にも一人、もしくは少数で歩いている生徒を目にする。レオンが元凶だと判明し、しかも学園の生徒だった。外部からの不審者でないのなら、という考えだろう。

 レオンと生徒会長との話し合いもなされなかった。彼は大人しくはしているようだが、目に見える確証が欲しいのも確かだった。

 誰とも決裂してしまっているレオン。彼は孤立状態だった。レオンの言葉は誰が信じられるというのだろうか。

 事態は本当に収束したのだろうか。

「……処断は我々に、ね。彼は知らない」

 会長ももちろん、ほとんどの生徒が知らないことだろう。あれは夢の中の出来事、だが現実にも影響を及ぼしている。―本当に下しているは誰なのか。彼らは知る由もない。

「私に何が出来たのかしら。……きっと、大事な時だった。どうして私は。ちゃんと声を掛けられなかったの」

 学園のことは生徒会が何らかの解決を見出すだろう。レオン本人も元々は人助けだったのだろう。これならあの支配者も動きだすこともないはずだ。これでいいはずだ。

「……ああ、だめね。こういう時は動くに限るわ。いっそ、確認しにいけばいいのよ。たまには役に立てばいいんだわ、あの街も」

 アマリアは決めた。今夜は劇場街に赴き、そしてレオンの劇場をこの目で確認することにしたのた。そこで彼の人となりを知ることができると考えた。こういう時こそ劇場街を利用してやる、と悪い笑顔をしてみせた。

 気持ちも多少浮上したところで、アマリアは空を見上げる。

「あら」

 顔なじみの黒い小鳥が飛んでいた。アマリアの頭上をくるくると回っていたが、山の方へと飛んでいく。アマリアは察した。おそらく彼女が呼んでいるのだと。

 

 新月寮を過ぎて山を越える。頂上にあるのは、旧劇場跡だ。

「―」 

 か細い歌声が聞こえてくる。アマリアを待っていたのはフィリーナだった。小鳥は飼い主の肩に止まると、指で撫でてもらっていた。

「まともに話せずじまいだったから、呼んでみた。来てくれてありがとう」

「ええ、こちらこそ」

 アマリアはそれとなく彼女の隣に立った。

 フィリーナが伝えたい内容は劇場街にまつわることだろう。ダミアンの公演の時、フィリーナは慌てて駆け寄ってきた。フィリーナがどうしてそうしたのか。そのことを語り出そうとしていた。

「わたしもね、舞台に乱入してみようとしたの」

「えっ」

 アマリアは仰天してしまうが、今はフィリーナの言葉の続きを待つ。

「アマリア様と同じ。居ても立ってもいられなくなったの。でも、だめだった。弾かれちゃった。なんかね、突き付けられたみたい」

―お前はこの舞台にはふさわしくないって。

 そんな、とアマリアが否定しようとする。だがフィリーナはそれを拒む。気休めに過ぎなかったからだ。

「……このままじゃいけないのにね。わたしがまだ歌えないから」

 そうしてフィリーナは自身の喉元に触れる。次に腹部だ。歌う訓練はしてきた。だが、心が追いついていなかった。幼少期から抑えつけてきたからこそだった。

「フィリーナ様、そんな……」

 アマリアは遮られたものの、続けようとする。フィリーナはむっとしていた。

「あのね、アマリア様。『そんな』禁止令出そうと思うの」

「いいえ、言わせていただくわ。……フィリーナ様は努力をされているわ。そして、確実に乗り越えていると思うの。だから焦らず、思い詰めずに―」

「うん。アマリア様こそ思い詰めないで」

―思い詰めないで。

 支配者のことはさておいて、エディがそう口にしていたことだった。

「私、それほどなのかしら」

「うん」

 フィリーナははっきりとそう言った。一歩踏み出したあと、アマリアに向けて振り返る。

「……本当はね、わたしも舞台に立てたらいいのに。そう思ってる。でもそれが出来ないから。だから、わたしなりにアマリア様の力になりたい」

「……フィリーナ様、嬉しいわ」

 こうしてフィリーナが向けてくれるのは、純粋な好意だった。共に舞台に立てなくても、アマリアには過ぎるほど嬉しいことだった。

「……あなたはそうだね」

「……?」

 フィリーナはぽつりと呟いた。アマリアには何が何だかだったが。

「それでね、わたしに出来ること考えてみたの。わたしが思いつく限りのこと、アマリア様に伝えたい」

 その言葉は流れた。フィリーナは提案する。

「ええ、有難いわ」

 アマリアも素直に喜んだ。情報提供ならフィリーナの負担にもなりにくいと思ったようだ。

「それでね、アマリア様。彼の劇場は今夜観にいくの?」

「ええ、そうね。私、まだ行ったことなかったから」

 アマリアはあの時のレオンのことを思い出す。彼が自分の劇場に来ないかと招いたことがあった。もしダミアンでなく、レオンの方に行っていたとしたら。それ以前にも―。

「アマリア様?」

「あ、いえ。お気になさらず。フィリーナ様はどうかしら」

「わたしも中にはまだ。でも、看板だけは確認しておいた。―ランプは二つ。遠目だからタイトルは自信ないけど」

 フィリーナは顎に手を添えながら、確実に思い出そうとしている。だが、断念したようだ。不覚、と口にした。

「うん。実際に行って確認してみよう!」

「ええ、そうしましょう」

「うんうん。はっきりとしているのはね―」


フィリーナの愛鳥は温室でお世話になってます。

制限により会える時間が減ったのでフィリーナの不満は募る一方です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ