一つ星公演 ダミアン・アプトの建造記―底辺貴族の成り上がりー開幕。
「きゃっ!」
アマリアは乱暴に地面に放り出された。ウサギの姿はもうなかった。体の節々が痛い彼女は憤慨していた。生徒達にこのような無体を働いているのかとだ。そう、他の生徒にもそうしているはずだ。アマリアだけではないはずと。
地面に転がりながらもアマリアは見上げる。この劇場街の中でもひと際高い建物だった。傍らにある立て看板も確認しなくては、とアマリアは立ち上がる。
点灯しているランプは一つだった。一つである。この荘厳な建物とは釣り合いがとれていない。不自然なところはないかと、アマリアは門のところに触れてみる。
「あら……?」
不自然極まりなかった。質感が、こう軽かったのだ。押したら今でも倒れそうな―。
「なんと!」
アマリアはつい試そうとした。それがいけなかった。そのまま転倒し、建物は縦半分に割れてしまったのだ。アマリアは青ざめ、慌てふためいていた。
「け、怪我人は!?」
周囲に人自体がいなかった。巻き添え事故には至らず、アマリアは胸を撫でおろした。落ち着いたところでアマリアは目の前の建物をみる。
あの立派な建物はハリボテで出来たものだった。粉々に崩れ落ちたハリボテは消失していく。
本来の彼の、ダミアンの劇場が姿を現わした。簡素な木造の建造物だった。ところどころガタがきている。
「彼の本当の劇場。……助けなくては」
どれだけ学園で腫れもの扱いであろうと、針の筵になるなどあってはいけないとアマリアは思っていた。それは彼女自身、痛いほど思い知らされていることでもあったからだ。
生徒会が悪く思われているのは周知の事実である。生徒会役員の中で矛先を向けられているのは彼だ。両方に良い顔をしている彼。それもよくないことだが、一番気にくわない部分はおそらくそこではない。それは、彼のタイトルロールにも現れていた。
ロビーのランプはちかちかと点灯している。彩るものは何もなく、ソファが点在しているくらいだった。最低限な玄関口だった。アマリアはドアを押して開く。軋む嫌な音がした。
「……?」
さすが一つ星公演。観客が少なかった。先程の怖いもの見たさの生徒達の姿もない。それにしても少なすぎる。
他の公演に観客がとられているのではないか。それはアマリアの考え過ぎか。
それに、とアマリアは劇場の天井付近にて視線を彷徨わせる。いつもいるはずの某少年の姿がない。彼がいないことに果たして安心していいのだろうか。
開演のブザーがなる。迷っている場合ではない。アマリアは舞台へと近づいていく。
「―アマリア様!」
「え」
突然、聞こえてきたのはフィリーナの声だ。どこか焦った様子の彼女であったが、アマリアは応えることはできなかった。
最早アマリアは舞台の一部となっていたからだ。
―一つ星公演。『ダミアン・アプトの建造記―底辺貴族の成り上がり』。上演開始。