生徒会による抑制
本校舎に入ると人だかりができていた。生徒の目に留まりやすいところに掲示板がある。そこには多くの書類が貼られていた。
「なんと……」
それらを見たアマリアは絶句した。掲示物は生徒会によるものだった。ただでさえ不自由な学園をさらに不自由に。放課後の活動の制限など諸々の制約が掲げられていた。新月寮の生徒に限ったことではない。この学園の生徒。つまり、満月寮の生徒も対象になっているとのことだ。
リリー少女を連れ去ろうとした者の身元は確認された。外部からの人間だという。商人の振りをして市に乗じたと、取り調べの際に語った。すぐさま軍に引き渡されたという。
さらにアマリアの目に引いた一文はこちらだ。
「次回以降の月初の市は中止とする。……そんな」
アマリアは打ちひしがれる。学園が認可していたとはいえ、確かに外部の人間を招いたことが起因しているのかもしれない。それでもアマリアの脳裏には思い浮かぶ。楽しそうにしていた学園の生徒達の姿、多忙ながらも充実していたクロエの姿。アマリアも騒動が起こる前までははしゃいでいた。学園の数少ない娯楽がひとつ、奪われてしまったのだ。
「……おはよう、アマリア様」
「あら、おはよう。フィリーナ様。……フィリーナ様?」
アマリアは後ろから声を掛けられる。声の主はフィリーナだった。フィリーナだったのだが、やけに声が低い。そしてその声音のまま、物騒な発言を繰り出す。
「……あの会長、許すまじ。この怒り、どうしてくれよう」
「えっと……」
困惑しているアマリアをよそに、フィリーナは恨み言を話している。
「せっかく大爆睡していたのにね、叩き起こされた。……とんでもない早朝に。朝っぱらからドンドンガンガン。ドンドンガンガン……」
「なんと……。大変だったのね」
「本当そう。今さぼって寝たとしても、絶対夢見悪い。ドンドンガンガン……」
「ドンドンガンガン……」
余程の騒音で叩き起こされたそうだ。満月寮ならより模範たるよう要求されているのかもしれない。アマリアは失礼ながらも同情した。
「エドュアール様はいいなぁ。わたしもすやすや眠りたい」
「……静かだと思ったら」
フィリーナと共にエディを見る。彼は頑張ったのだ。宣言通り、学園に着いたので寝ていた。アマリアにより若干よりかかりながらも、すやすやと眠りに落ちていた。
「本当気持ち良さそう……。いいなぁ……」
「彼は良い夢を見ているのかしら」
二人がエディの寝顔を見て和んでいる間も、周囲の不満の声は上がったままだった。あまりにも厳しすぎると口々にしている。
「嫌な空気」
「ええ……」
フィリーナにも。そしてアマリアもそうだ。覚えのある険悪な雰囲気だった。そんなさなか、学園内に予鈴が鳴り響く。いつもより大きめの音量だった。生徒会の仕業だろう。思わず耳を塞ぎたくなるものだ。まるで急かされているかのようで、騒音の相まって気分が良いものではなかった。
「皆さん、朝礼が始まってしまいますよ。急がれた方が良いですよ」
「ちっ、生徒会かよ」
現れたのは銀縁眼鏡の少年だった。眼鏡越しに彼は瞳を伏せていた。そして苦しげに口を開く。
「……皆さんのお怒りはごもっともです。会長はただただ皆さんを思って、ここまでなさったのだと思います」
「……ありがた迷惑」
生徒の一人がはっきりという。それでも彼は否定をすることなく、話を続ける。
「ええ、お気持ちわかります。……ですので、僕が御力になれればと思います。いわば、―架け橋。会長と皆さんとの橋渡しになれればと」
多くの懐疑の目を向けられても、少年はたじろぐことはない。
「不満に思っていることは、どうぞお聞かせください。出来る限り、善処します。……ああ、そうですね。お昼休みにしましょう!」
今すぐにと詰めよられたが、もう朝礼の時間は迫っていた。生徒達は散り散りとなっていく。
「……」
彼はアマリアの揉め事の時も助け船を出してくれた。今回もそういうことなのだろうか。今はまだ彼の真意はわからなかった。