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正体不明の異常者

 レオンの案内のまま、林の奥へと踏み入れていく。

「……」

「……」

 まだ何があるかわからないからと、エディはアマリアの傍にいた。その間、何か言いたげな視線を送り続けている。

「……怪我、なくて良かったわ」

 その視線の意味が気にはなれど、今はエディの身のことを心配する。

「あんたも」

「私は、ほら。守っていただいたから」

「……うん。人、呼んでくれて助かった。ありがとう」

「いいえ……」

 エディはお礼は言っている。だが、それでもまだ何か言いたそうにしていた。それでもそのことには触れない。口を噤むエディに問うことなど出来そうになかった。

「レオン様もご無事で良かった」

 そして、レオン。まるで別人のようだった。それだけ彼は追い詰められていたのだろうか。そんなレオンは注意を受けていた。ガチムチと称された門番からである。

「……レオン様。御身がご無事で何よりではありますが、無茶はしないでいただきたい。こうしたことは我々警備の者にお任せください」

「はいはい、ごめんなさい。次からそうしますっと」

「くっ……。相手はご子息、相手はご子息……」

 言い聞かせる門番をよそに、レオンは足を速める。

「……?」

 林を抜けると開けた場所へと出た。朽ちたベンチや草木が生い茂ったその場所は、広場を彷彿させた。そしてそこに漂うのは異臭だった。やけに血生臭い。

「お、おい!」

「うわっ……」

 門番達はいち早く駆け寄っていく。

 横たわっていたのは、あのピンクの着ぐるみだった。頭部のみ外されていた。中身は成人男性、のようだった。辛うじて男性だとわかるくらいだった。それもそうだ。

 顔面を強く殴打され続けていたのだろう。顔中が腫れあがっていた。

「うう……」

 男性は腹部も押さえ続けている。やられたのは顔だけではない。

「なんてこと……」

 アマリアもその凄惨さに思わず目をそらしてしまった。これだけの惨いことをよくできたものだと、胸を痛める。

「ひとまず手当を―」

 着ぐるみの男性も被害者だと思ったのか。門番達は応急処置をしようとするが。

「いやいや、何やってんの」

 冷めた表情で声をかけてきたのはレオンだった。そして彼はこう告げる。

「そいつ、人さらいだよ。そんなやつよりさ。―いいよ、出ておいで」

 そう冷たく言い放ったあと、広場にある像の方に向かって彼は呼びかける。もう大丈夫だからと。

「……」

 怯えながら姿を現わしたのは学園の女子生徒だった。アマリアには覚えのある少女だった。市で出逢い、ちょっとした顔見知りとなっていた少女だった。一緒にいた友人とははぐれてしまったのだろうか。

「……ううう」

「あなた……。ええ、もう大丈夫よ」

 少女はアマリアのそばに寄った。そのまま怯えており、アマリアの背中に縋りついていた。少しでも安心させるように、アマリアは優しく語りかける。

「……ま、女の人の方が安心するってとこ?」

 横を素通りされたレオンは説明を続ける。

「この子が連れ去れされていたから、つい追いかけちゃった。やばくねって」

 ウサギの着ぐるみが抱えていたのは物ではない。この少女だったようだ。

「そしたら、さらにやばくて。この人の顔がぼっこぼこにされてんの。え、さらにやばいヤツがいんの?ってなって。この子、よく無事だったなって。……ねぇ?」

「……」

 少女はレオンと目を合わせようとしない。アマリアの背後に隠れてしまった。

「……まあ、なんで連れ去れたのって聞いたんだけどさ。運悪くこの着ぐるみの素顔を見てしまったからだって。……ねえ?」

「……」

「おーい」

「……!そ、そうです。と、ともだちとはぐれちゃって、さがしてて。それで、この方が着ぐるみを着用されているところを……、見てしまって……」

 レオンの問いに対して、少女は声を震わせながらも答える。

「……」

 アマリアは小声でおいで、と少女に伝える。そのまま少女の体を抱き寄せると、そっと背中を撫でた。荒かった少女の呼吸も落ち着く。

「ってことらしいっす」

 レオンは淡々とそう言う。そして薄く笑う。

「顔を見られたからって、連れ去った?でもさ、結局こうしてばれてるし」

 ははっと、彼は暗い表情で笑い続けていた。何がそんなに笑えるのか、それはレオン以外にわからない。

「―馬鹿じゃん。馬鹿じゃないの、こいつ」

 そして吐き捨てた。

「……ひとまず、まだ賊はいるということか。じきに応援がくると思うが」

 雰囲気にのまれそうになった。それはまずいと門番は気を引き締めなおす。

「まずは皆さまの保護が第一優先ですね。まあ、大丈夫でしょ。……ほら、頼りになる騎士様がおられるし」

 もう一人の門番は軽口を叩く。一同ぎょっとするが、レオンは笑う。いつもの笑い声だった。

「……ははっ!そうそ、オレがいるし大丈夫!って、職務放棄じゃないっすか?」

 レオン一人の笑い声が響く。重たい空気の中、増援の足音がした。やってきた警備兵達に門番らは事の経緯を説明している。片や捜索、片や生徒の保護へとあたることとなった。

「リリーちゃん!」

「あっ……」

 そう呼んで駆け寄ったのは、少女の親友だった。いてもたってもいられない、と少女リリーの捜索に加わっていたようだ。親友とはぐれたとのことだったが、こうして無事再会できて良かったと誰しもが安堵する。

「あの、皆様方。ありがとうございました。……レオン様も」

 ようやくレオンにも視線を向けた彼女は、彼に一礼する。

「いいっていいってー」

 大袈裟に手を振るレオンを見たのはその時だけ。それからはリリーは視線をそらす。再び頭を下げた彼女は親友のもとへと走り、そして勢いよく抱き着いた。

「んー、一件落着。じゃ、オレはこのへんで。エディ君もアマリア先輩も気をつけて帰りなよ。でもって、皆さんお疲れっす!」

 体を思いっきり伸ばしたレオンは、一人満月寮へと戻ろうとする。警備兵の一人が慌てて彼を追いかける。彼も大事な学園の生徒、ましてや満月寮の寮生だ。何かあっては困る。レオンも渋々と共に行動することにしたようだ。

 やってきた警備兵たちの話によると、市も予定より早く終わったとのことだ。このまま大人しく帰寮するしかないのだろう。アマリア達も反対する理由はない。従うことにした。

 まだ賊が潜んでいる可能性があると、警戒が解かれることはない。今は事態が治まるのを祈るばかりだ。

レオンの案内のまま、林の奥へと踏み入れていく。

「……」

「……」

 まだ何があるかわからないからと、エディはアマリアの傍にいた。その間、何か言いたげな視線を送り続けている。

「……怪我、なくて良かったわ」

 その視線の意味が気にはなれど、今はエディの身のことを心配する。

「あんたも」

「私は、ほら。守っていただいたから」

「……うん。人、呼んでくれて助かった。ありがとう」

「いいえ……」

 エディはお礼は言っている。だが、それでもまだ何か言いたそうにしていた。それでもそのことには触れない。口を噤むエディに問うことなど出来そうになかった。

「レオン様もご無事で良かった」

 そして、レオン。まるで別人のようだった。それだけ彼は追い詰められていたのだろうか。そんなレオンは注意を受けていた。ガチムチと称された門番からである。

「……レオン様。御身がご無事で何よりではありますが、無茶はしないでいただきたい。こうしたことは我々警備の者にお任せください」

「はいはい、ごめんなさい。次からそうしますっと」

「くっ……。相手はご子息、相手はご子息……」

 言い聞かせる門番をよそに、レオンは足を速める。

「……?」

 林を抜けると開けた場所へと出た。朽ちたベンチや草木が生い茂ったその場所は、広場を彷彿させた。そしてそこに漂うのは異臭だった。やけに血生臭い。

「お、おい!」

「うわっ……」

 門番達はいち早く駆け寄っていく。

 横たわっていたのは、あのピンクの着ぐるみだった。頭部のみ外されていた。中身は成人男性、のようだった。辛うじて男性だとわかるくらいだった。それもそうだ。

 顔面を強く殴打され続けていたのだろう。顔中が腫れあがっていた。

「うう……」

 男性は腹部も押さえ続けている。やられたのは顔だけではない。

「なんてこと……」

 アマリアもその凄惨さに思わず目をそらしてしまった。これだけの惨いことをよくできたものだと、胸を痛める。

「ひとまず手当を―」

 着ぐるみの男性も被害者だと思ったのか。門番達は応急処置をしようとするが。

「いやいや、何やってんの」

 冷めた表情で声をかけてきたのはレオンだった。そして彼はこう告げる。

「そいつ、人さらいだよ。そんなやつよりさ。―いいよ、出ておいで」

 そう冷たく言い放ったあと、広場にある像の方に向かって彼は呼びかける。もう大丈夫だからと。

「……」

 怯えながら姿を現わしたのは学園の女子生徒だった。アマリアには覚えのある少女だった。市で出逢い、ちょっとした顔見知りとなっていた少女だった。一緒にいた友人とははぐれてしまったのだろうか。

「……ううう」

「あなた……。ええ、もう大丈夫よ」

 少女はアマリアのそばに寄った。そのまま怯えており、アマリアの背中に縋りついていた。少しでも安心させるように、アマリアは優しく語りかける。

「……ま、女の人の方が安心するってとこ?」

 横を素通りされたレオンは説明を続ける。

「この子が連れ去れされていたから、つい追いかけちゃった。やばくねって」

 ウサギの着ぐるみが抱えていたのは物ではない。この少女だったようだ。

「そしたら、さらにやばくて。この人の顔がぼっこぼこにされてんの。え、さらにやばいヤツがいんの?ってなって。この子、よく無事だったなって。……ねぇ?」

「……」

 少女はレオンと目を合わせようとしない。アマリアの背後に隠れてしまった。

「……まあ、なんで連れ去れたのって聞いたんだけどさ。運悪くこの着ぐるみの素顔を見てしまったからだって。……ねえ?」

「……」

「おーい」

「……!そ、そうです。と、ともだちとはぐれちゃって、さがしてて。それで、この方が着ぐるみを着用されているところを……、見てしまって……」

 レオンの問いに対して、少女は声を震わせながらも答える。

「……」

 アマリアは小声でおいで、と少女に伝える。そのまま少女の体を抱き寄せると、そっと背中を撫でた。荒かった少女の呼吸も落ち着く。

「ってことらしいっす」

 レオンは淡々とそう言う。そして薄く笑う。

「顔を見られたからって、連れ去った?でもさ、結局こうしてばれてるし」

 ははっと、彼は暗い表情で笑い続けていた。何がそんなに笑えるのか、それはレオン以外にわからない。

「―馬鹿じゃん。馬鹿じゃないの、こいつ」

 そして吐き捨てた。

「……ひとまず、まだ賊はいるということか。じきに応援がくると思うが」

 雰囲気にのまれそうになった。それはまずいと門番は気を引き締めなおす。

「まずは皆さまの保護が第一優先ですね。まあ、大丈夫でしょ。……ほら、頼りになる騎士様がおられるし」

 もう一人の門番は軽口を叩く。一同ぎょっとするが、レオンは笑う。いつもの笑い声だった。

「……ははっ!そうそ、オレがいるし大丈夫!って、職務放棄じゃないっすか?」

 レオン一人の笑い声が響く。重たい空気の中、増援の足音がした。やってきた警備兵達に門番らは事の経緯を説明している。片や捜索、片や生徒の保護へとあたることとなった。

「リリーちゃん!」

「あっ……」

 そう呼んで駆け寄ったのは、少女の親友だった。いてもたってもいられない、と少女リリーの捜索に加わっていたようだ。親友とはぐれたとのことだったが、こうして無事再会できて良かったと誰しもが安堵する。

「あの、皆様方。ありがとうございました。……レオン様も」

 ようやくレオンにも視線を向けた彼女は、彼に一礼する。

「いいっていいってー」

 大袈裟に手を振るレオンを見たのはその時だけ。それからはリリーは視線をそらす。再び頭を下げた彼女は親友のもとへと走り、そして勢いよく抱き着いた。

「んー、一件落着。じゃ、オレはこのへんで。エディ君もアマリア先輩も気をつけて帰りなよ。でもって、皆さんお疲れっす!」

 体を思いっきり伸ばしたレオンは、一人満月寮へと戻ろうとする。警備兵の一人が慌てて彼を追いかける。彼も大事な学園の生徒、ましてや満月寮の寮生だ。何かあっては困る。レオンも渋々と共に行動することにしたようだ。

 やってきた警備兵たちの話によると、市も予定より早く終わったとのことだ。このまま大人しく帰寮するしかないのだろう。アマリア達も反対する理由はない。従うことにした。

 まだ賊が潜んでいる可能性があると、警戒が解かれることはない。今は事態が治まるのを祈るばかりだ。

「帰ろう、先輩」

「ええ、そうね。……そうね?」

 エディに促され、二人は自分達の寮へと帰ろうとした。二人だけでだった。

「待って待って、そこのお二人!自分らがお送りしますからー。ほら、危ないですし?」

 帰ろうとした二人だったが、門番に呼び止められた。

「ご心配なく。二人で帰れます」

「エディ……」

 エディは強く断言する。そんな彼を見てはらはらしているのがアマリアだ。何かあった時、自分はエディを守れるだろうか。ましてや足手まといになるのではないかとアマリアは不安になっていた。いくら体力があり余っている令嬢とはいえ、普通の少女であると彼女は痛感していたのだ。

「ああー、なるほど!こんな時でも二人っきりがいいってことですかー」

「なっ」

 門番の言葉に過剰に反応したのはエディだった。

「もう仕方ないですねー。自分達はこっそりついていきますから。お二人の邪魔しないようにしますから!」

「……」 

 頭部は覆われているので門番の顔はわからない。だが、さぞかし得意げな表情で言っていることだろう。うんざりしてきたエディはアマリアにそっと近づいた。

「……あいつ、撒く」

「えっ!?」

 とエディに言われた同時に、アマリアは抱き上げられた。そのまま走っていく。そんな二人を追いかけようとした兵達も遠ざかっていく。

「……」 

 エディとの距離が近い。決して意識などしていない。決してとアマリアは心の中でつぶやき続ける。やけに高鳴る心臓と共に、不安も襲い来る。

雲行きが怪しくなってきました

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