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今宵も劇場街へー謎の着ぐるみ集団との出会いー

ぎらつく雰囲気。個性溢れる建物達は全て劇場だ。行き交うのは学園の生徒達。それを出迎えるのは愛らしいウサギの着ぐるみ達だ。アマリアはそこの眩さに目を細める。寝起きには堪えるものだ。寝起き。それは違うかとアマリアは苦笑した。

―ここは夢の中。けれど、現実ともいえる世界。劇場が連なる『劇場街』であった。

「……数日ぶりね」

 数日前に偵察で訪れたばかりだ。大きな動きは見られない。それは今夜にもいえたことだ。特に誰それが注目だといった話はないようだ。

「さてと」

 今日の訪れは意図したものではない。けれど、せっかく来たのだとアマリアは息を巻く。エディの姿は見当たらないが、情報収集でも始めることにした。


「はあ……」

 アマリアはとぼとぼ歩く。そう張り切ったはいいが、変わり映えのしない劇場街であった。自分のように騒がれないのは良いことだ。だが、進展もないのもよろしくない。彼女は矛盾する状況に憂鬱になりそうだった。

「いいえ、めげてられないわね」

 アマリアは顔を上げて、改めて周りを確認する。大半の生徒達は舞台に夢中になっている時だろう。となると、うろついているのは。

「ああ……」

 うさぎの着ぐるみ達だ。今夜はやけに数が多い気もするが、アマリアは近くにいたウサギに声をかける。―実は、アマリアにとっての天敵だったりもする。だが、昨日の敵は今日の友。前にもそう考えた気がしないでもないが、アマリアは下手に出ることにした。

「ごきげんよう、愛らしい方」

「ようこそ、劇場街へ!ここは初めてかい?」

「……ごきげんよう?私、お尋ねしたいことがありまして」

「ようこそ、劇場街へ!ここは初めてかい?」

 そればかりをウサギは繰り返す。アマリアは返答することにした。いつかは変化が訪れるはずだと。

「いえ、初めてではありません。何度かは訪れております」

「ようこそ、劇場街へ!ここは初めて―」

 そうはならなかった。このウサギは諦めて、別のウサギに当たることにした。

「ごきげんよう、朗らかな方」

「やあ、初めてではないのかな?」

「なんと……!」

 ようやく会話が出来ると思った。

「お気に入りの講演は見つけたかな?お気に入り登録さえしておけば、次はあっという間だよ!」

「なんと!」

 しかも有力情報を得た。アマリアは食いつく。相手のウサギはたじろいだ気がした。アマリアはそれが気になりつつも、是非ともと教えてもらおうとする。

「失礼、強く出てしまいましたか。ですが、何とも有益な情報なのでしょう。それを何卒ご教授いただければと―」

「やあ、初めてではないのかな?お気に入りの講演は見つけたかな?お気に入り登録さえ―」

「……ああ!」

 それから懲りずにウサギ達に話しかけるも、約束されたセリフを話すのみだった。

「お気に入り登録とは何なのです……」

 そればかり気になるアマリアの前に、もう一体現れた。アマリアは目を光らせる。

「ごきげんよう、軽やかな方」

「楽しい時間は限られているんだ。時間は守らないといけないよ!」

「……」

「楽しい時間は限られているんだ。時間は守らないといけないよ!」

「……あなた」

 アマリアは目の前のウサギを見つめる。どこか観察しているようだ。

「た、楽しい時間は限られているんだ。時間は守らないといけない!」

「今、語尾間違えましたわね」

「た、楽しい時間は限られているんだ。時間は守らないといけない……よ!」

「あら、押し通しますか」

 アマリアは確信を持った。声自体も聞き覚えがある。以前に劇場街で出逢い、悪態をつかれながらも色々と教えてもらった記憶がある。

「ちっ、ばれたか」

 忌々しげに舌打ちしている。相変わらず態度はよくないものの、意思疎通を出来るのはこのウサギくらいかもしれない。アマリアはあくまでもにこやかに話しかける。

「ご機嫌いかがですか?」

「んー、あんまよくない」

「なんと……」

 先制パンチをくらったアマリアだったが、笑顔を保つ。

「まあ、色々とおありですね。よろしければ私に話してみては?」

「……話してみては、って言われても。まあ、いいけど」

「ええ、話しやすいところからどうぞ」

「ん」

 機嫌が悪いウサギが示したのは、他のウサギの着ぐるみ達だ。

「なんか、増えすぎなんだけど」

「確かにそうですね……。以前と比べて増えましたよね」

「ん。何でか知らないけど。突然増えるわ、同じ言葉ばかり繰り返すわ、何?怪現象か何か?」

「それは末恐ろしいですね」

「うん、コワい。『王様』も知らないみたいだけど」

「……王様ですって?」

 それこそ突然沸いた言葉だ。それなのにどうしてか。アマリアには誰を指すかわかってしまった。ウサギの着ぐるみ達以上の天敵である、某少年のことだ。

「そ、君の想像通りの人。まあ、あの子ら危害を加えたりしなければいいけど」

「それは……」

「さーて、こっちはこっちで持ち場に戻らないと。んじゃ」

「ええ、お話ありがとうございました」

「とりあえず、こっちこそ」

 体を伸ばしたウサギはそのまま去っていった。

「ええ、増えてるわね……」

 こうしてうろついているウサギ達が途端、得体の知れないものに。アマリアはそう思えてならなかった。

「あとは、劇場を見回って―」

「……」

 アマリアを覆う影。はっと彼女は見上げる。ウサギの着ぐるみを着た人物だった。見慣れた他の着ぐるみ達よりも、大きい。だからこそ、異なる存在なのではないかとアマリアは考えた。そう冷静に思考を巡らせてはいるが、鼓動ははやくなっていた。 

 突然だ。突然、気配も音もすることなく目の前に立っていたのだ。アマリアは息を飲み込みつつも、相手の出方を待つ。

「ぷっ……」

「!?」

 相手は噴き出していた。アマリアは何事かと警戒したままだったが、ウサギの着ぐるみを着た人物は笑いをこらえたまま、話しかける。

「どうしたの、そんなマジになっちゃって」

「……?」

 高めに作られた声だが、少年の声だった。そこに敵意も害する気持ちも感じ取れない。それでも得体の知れなさは残ったままだ。

「うーん、まだコワい顔している。―そんなのさ、ここには合わないって!」

「!」

 アマリアの視界に広がったのは花びらだった。それに目を奪われている内に、着ぐるみの少年は華麗な宙がえりをみせた。どこからともなく出した道具達。ジャグリングや玉乗りなど次々と繰り出されていく。いつの間にか他の着ぐるみ達も巻き込んで、連携して大技を決める。

 幼い頃、アマリアはサーカス団を観たことがあった。そのプロと遜色がないほど見事なものだった。

「……すごいわ」

 思わず拍手をしそうになった。それほどアマリアの心を華やがせる出来栄えだった。思わず警戒心を解いてしまいそうなほど。

「―我々にとっての褒章、それは皆様の笑顔です。小さな拍手ひとつでも、励みとなるのです。ってね」

「……はっ」

 アマリアはウサギの着ぐるみたちに取り囲まれていた。拍手待ちのようだ。これだけの内容なのだ、早くしろと圧をかけてきていた。内容が見事だったのも、アマリアが感動したのも事実だ。ここは素直に拍手をすることにした。

「引き続き楽しんでってね。―撤収!」

 着ぐるみの少年の号令と共に飛び去っていった。アマリアが声をかけるいとまもなくである。

「……謎だわ。見事だったけれど」

 思った以上に時間が経過していたようだ。あと回れるとなると、一つの劇場くらいだろう。

「『彼女』の劇場ね」

 ここ最近、アマリアが通い詰めている劇場である。アマリアは走りながら向かうことにした。

アマリアなりのリップサービスです。

彼女とウサギの着ぐるみたちは色々あって因縁があるのですが

謎の軍団は友好的です。謎です。

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