プレヤーデン学園の朝の風景⑤
教室までの廊下を一人歩く。
「……」
一人になるとやはり気になるのが周囲からの視線だ。
―訳有りの編入生。没落貴族って本当か?
―姉君の婚約者を寝取るような方ですものねぇ。
「……!」
聞き捨てならない発言だった。姉の婚約者とはつい最近出逢ったばかりのはずだ。寝取るも何も交わした会話もわずかである。
「……?」
ふと違和感を覚えた。そう、姉の婚約者は異国の貴い身分の青年のはずだ。初めてあったのは一か月くらいのはずだと、アマリアは思い返す。難癖かと思うも、アマリアはここは言葉を飲み込んでおいた。
―今日も男を従えていたわね。うまく使ったものね。
―気が強そうだしなぁ。ま、あれだけの美人だし、ヤローの気持ちもわからなくないけど。
今朝方の生徒会長とのやりとりもすでに知れ渡っているようだ。周りから見ればさぞ、エディに命じて会長から逃げ切ったと思われたことだろう。
他の学園の有名人ほどではない。だが、アマリアも未だ人目に晒されている。あからさまに嫌がらせをしたりはないにしろ、興味、そして悪意の眼差しはなくなったわけではない。
「……」
アマリアは振り返る。そして。
「ごきげんよう、皆様」
ここぞとばかりに極上の笑顔を見せた。心の中では辟易もし、辛くもある。それでもアマリアは堂々と在り続ける。
鬱屈とした環境の中でも、アマリアは屈しようとはしない。こうした日常もいつかは『彼』へとつながると信じて。
―今日も学園での一日が始まる。
急に短くなってしまった。