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プレヤーデン学園の朝の風景①


 クロエと合流し、寮生への声かけは終わった。そうして二人はダイニングルームへ。話の通り、寮生達が集っていた。しきりに朝の挨拶をしたあと、朝食をとることに。

「ああ、暖かいですね。有難いことです」

 アマリアが眩しそうに見つめていたのは、部屋の奥にある薪ストーブだった。現状寮の暖房を一手に担う、命綱ともいえた。食事を終えた寮生たちが群がっていた。

「だろだろー?お嬢が許可してくれたんだぜ!数年ぶりだぜ!」

 得意げにそう語るのは、顔を煤だらけにした先輩男子だった。クロエをお嬢と呼ぶ彼は、クロエと同郷で留学生だった。

「うん、この寒さならさすがにね。いつも使うのはアレなんだけど」

 苦笑するクロエをよそに彼は話を続ける。

「そうそう、ここだけの話。この寮に元々なかったのに、設置してくれたのはお嬢なんだよ。まあ、ほんとここだけの話なー?」

「なんと!」

 話によると、極秘裏にクロエが商会から横流し、もとい取り寄せたという。では、この暖かな室内環境はクロエによるものなのか。そして、ストーブを手入れしてくれたであろう彼にも恩義を感じた。

「ありがとうございます、先輩方」

「ううん、私はとくには。彼に言ってあげて。薪とかも割ってくれたのは、彼だから」

「いやいやー。いいって、いいって!」

 功労者の男子生徒は照れているようだ。他の寮生たちも囃し立てる。と同時にも微笑ましく見守っていた。彼がクロエに心酔しているのは目にみえてわかっていたからだ。

「いや、本当にいいって。寮のみんなの為ならいいんだよ。も、もちろん、お嬢の為なら!お嬢が嬉しいんなら、オレも嬉しいし」

「まあ」

 寒さに打ちひしがれても、心がぽかぽかするような話だ。寮内は今、和やかなムードに包まれていた。

「……まあ、お嬢がさ?こんなんじゃ足りない、もっとしっかりしてよ!って怒ってきても、それはそれで。ねえ?」

「ど、同意を求められましても」

 一瞬にして台無しとなった。クロエはクロエで人聞きが悪いな、と笑いながらは言う。それでも底冷えするようなものであった。彼はクロエの犬として、色々な意味で有名であった。

「アマリアさん、無理して相手しなくていいから。ほらほら、みんなは朝食食べたでしょ?準備しよ?」

 恍惚としている彼を放っておいて、クロエは寮生達に促す。彼らは渋々とストーブから離れた。遅れたアマリアとクロエは改めて朝食をとることにした。テーブルに並ぶのはいつものパンやサラダ、ベーコンが乗った目玉焼き。そして、野菜や鳥肉がごろりと煮込まれたスープ。アマリアは口にすると、その素朴ながらも絶品である味わに破顔する。香草なども使われているようだ。

「おいしい?」

「はい!」

 笑顔のクロエに対し、力強く返事した。

「そっか、よかった。アルブルモンドの郷土料理なの。みんなに温まってほしくて、料理長に相談したんだ」

「まあ。なんと素晴らしいことでしょう。実に体の芯から温まりますね」

「でしょ?良かったね、美味しいってー。うん、グッジョブ!」

 そう言ってクロエが声を掛けたのは、彼女の同郷の少年だった。未だ居座ろうとしている生徒達をぐいぐい押し出している最中だった。クロエに褒められたことにより、彼は満面の笑顔を見せる。彼が作ったようだ。何気に多才だった。

「……おはようございます」

 重たそうな瞼をこすりつつも、エディがやってきた。まだ覚醒しきれていないようだが、アマリアを発見すると近くまでやってきた。このエディもどこか得意そうだった。約束通りやってきたのだと主張している。

「おはよう、エディ君」

「お、おはよう。来たわね、エディ」

「……ん」

 さっきの出来事に赤面か、それかちゃんとやってきた彼を誉めるべきか。どう対応していいかわからなかったアマリアは、無難な答えで返した。エディも特に反応することもなく、空いていたアマリアの向かいの席に座る。

「いただきます。……ん」

 エディが口にしたのはスープだ。彼の故郷の料理、どこか懐かしさを覚えてくれるだろうか。

「どうかな、エディ君?」

「……うん、美味しい」

 エディは反応が薄かった。これが通常通りといえばそうなので、判断しにくいところだった。心なしか落胆してそうなクロエを見たあと、エディはスープを見つめた。黙々と口に運んでいる姿を見るに、口に合わないということはないようだ。ただ、反応は薄いままだった。


 身支度をし直したあと、あとは学園と向かうばかりとなった。

「エディ、エディ。もう、時間よ?」

「すう……」

 なのに、玄関口で眠りこけているのはエディだった。器用に立ったまま寝ている。

「エディ……」

 今日ならば間に合うかとアマリアは期待していた。一緒に登校できるとも思っていた。新月寮に来たエディだったが、寝坊癖は改善されたわけではなかった。大抵は一時間二時間の遅刻で済むが、ある日だと昼過ぎ、それこそ再会した日のように夕刻過ぎということもあった。

「といっても、担ぐのはもう……」

 エディが来たばかりの頃、見かねたアマリアがエディを担いで学園へと向かった時があった。周りの好奇の視線にさらされつつも、羞恥心と戦いながらもアマリアはエディを運んだ。だが、生徒会に目撃されてしまい、散々注意を受けてしまった。後日それを知ったエディは、眠りながらもアマリアのおんぶを回避する術を身に着けていた。エディが申し訳なさそうにしていたこともあり、アマリアは躊躇してしまうのだ。

「せめて、暖かい場所にいきましょう?」

 おんぶは厳禁、エディの腕を引っ張りながらダイニングルームへと誘導することにした。エディもされるがままだった。

「おっ、アマっちにエディちじゃん?おはよっ」

 悠々と寛いでいたのは、先輩であるスーザンだった。学園の恋愛事情に通じている、長めのストレートの髪と大き目な眼鏡が特徴的な女生徒だ。人を愛称で呼んだりする気さくさ、そして寮長の目をかいくぐってストーブを占拠するというしたたかさもある。

「おはようございます、スーザン先輩」

「ん?アマっちってば、お疲れ?眠り王子に難航していたん?」

「ね、眠り王子でしょうか」

「そ、眠り王子。すっかり定着してるよ?」

「眠り王子……」

 まごうことなくエディを指していた。。難航しているというのもその通りだった。悩めるアマリアに対し、スーザンは助言する。

「エディちの事はさ、そのへんでいいんじゃない?今まで進級できていたってことは、そこまで問題視されてないってことっしょ?―それこそさ、それが彼の『学園に来た理由』かもしれないじゃんか」

「それはそうですね……」

 この過剰睡眠がエディが学園に来た理由。それもなくはないだろうが、アマリアはそれだけではない気がしていた。

 それだけはないにしろ、現状はエディが過剰に眠る原因がわからずにいた。こうして彼を起こしつづけるのも負担なのだとしたら。

「……ん」

「エディ……?」

 アマリアは思わずエディの方を見た。彼がアマリアの手に触れたあと、そのまま繋ぎ合わせようとした。逡巡したあと、彼が掴んだのはアマリアの腕の部分だった。

「……うん。多分これならいける。ぎり意識保てそう。先導お願い」

「そうなの?」

 どういう根拠かはわからないが、エディはこの状態なら立ち、そして歩行可能のようだ。どこか嬉しそうにしている彼を見て、アマリアはそういうものなのか、と納得した。

「ええ、そういうことなのよ?きっと?」

 本人は頭にハテナを浮かべながらも、無理に納得した。―それは無理があるだろうに。

「おっほー!」

 そんな二人を見たスーザンが興奮しながらもそう叫んでいた。第三者である彼女がそうなのだから、今この場で突っ込める人材などいるはずがなかった。

「ささ、クロっちに見つかる前に行こうよー!アタシもこっそりついていくから!」

「こっそりなどと、そんな。それでしたら、一緒に参りませんか?」

「いいからいいから。アタシそこまで空気読めなくないし?」

「突然、空気とは一体―」

「もうっ、いいからいいから!」

 スーザンに背中を押されつつも、共に登校することになった。


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