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彼とのこれから

「……」

 ろくに喋らないエディと二人、学園へと向かっていた。彼の目はすっかり冴えているようだ。それでもエディは沈黙のままだった。つられてアマリアも黙ってしまう。

 やはり誰かに見られ続けている気がする。アマリアは憂鬱になった。いっそ、自分が名乗り出て欲しいものだ。いや何を考えている、とアマリアは自重した。それはそれで末恐ろしいものだろうにと。

「……まあ、あの人の言う通りだろうね。この学園にいる限り、これが続くよ」

 沈黙を破ったのはエディの方だった。

「ええ、でしょうね」

 それが生徒達の楽しみだから。そして、夢の世界、劇場街とも関連づいていくから。

「……嫌になった?色々」

 エディにしては珍しく不安そうな顔をしていた。アマリアは目を見開く。だがそれも一瞬。相手を安心させるように笑顔を見せる。

「えっと、うざい?だったかしら?そう思う感情が強いわ」

「いや、うざいって……」

「それでも言ったでしょ、続けるって。私の方だってまだわからないばかりだから。このままにはしておけないわ」

「……言われたっけ?」

「あ……。その、今のは気にしないで。そう、このままでは終われないの」

 アマリアはエディにそう強く誓う。エディは頷く。

 遠くで予鈴のチャイムが鳴っている。本校舎はかなり遠くある。

「……うわ、間に合わね。一限目はどこかでゆっくりしようか、先輩」

「何を言ってるの、走るわよ!」

「……うわ」

 アマリアは張り切りながら、走り込む準備をしていた。エディはげんなりしきっていた。そんな彼に対し、アマリアは提案する。

「そうね、あなたを巻き込んだりはしないわ。あなたはゆっくりでもいいから、ちゃんと授業に参加するのよ?先生もきっと喜ばれるわ。それじゃ、私は行くわね」

 彼にしては早い登校だ、とエディの担任も感涙する事だろう。それに寝起きとあって、エディもまだ体が温まっていないだろう。

「はあ……。走るよ、走ればいいんだろ」

「そんな、無理を強いてはいないのよ?」

「……走らない方がないだろ、この流れは」

 アマリアが遠慮している間に、エディは彼女を追い抜くように走っていく。

「エディ!?」

「先に本校舎に着いた方が勝ち。日替わりランチのメインをもらえるということで」

「なんですって!」

 フライングに異議を申し立てようにも、エディはかなり先へと進んでいた。俊敏さに驚いている間にも距離を離されてしまう。

「あー、走るのしんど。だる」

「くっ……」

 気怠そうにしていても、それでもかなりの俊足だった。

「本当さ、先輩って無駄に元気だから。……一緒にいると疲れる事ばっか、振り回されてばっか」

「それは……。申し訳ないと思っているわ」

「……ううん、いいよ。先輩はそれでいい」

「え……」

「―ずっと付き合うから。朝だって、昼だって。日が暮れて夜になって。でもって、劇場街の時も。今はもうあんたと一緒にいられるからっ!」

 息苦しそうにしながらもそう叫ぶ。エディの声は晴れやかだった。

「……エディ」

 先行く今のエディにアマリアの顔を見えていないだろう。アマリアはこっそりと笑った。

「……先輩?」

 アマリアの声が聞こえなくなった。ペースを上げてしまったのかもしれない、と彼は速度を緩めようとする。

「―あら、いいの?私、勝ってしまうわよ?」

「げ、先輩……?」

 気が付けばアマリアが並んで走っていた。アマリアはしたり顔で笑う。

「ご存知かとは思うけど、私、諦めが悪いの」

「……よく、知ってるよ」

 本校舎が見えてきた。ここまできたらお互いは譲らない。そのままラストスパートをかけていく。

「あ……」

 胸元の朽ちた婚約指輪が音を鳴らした気がした。そう、彼女は諦めない。いつか、彼と会うためにも。


 これは劇を通して人々の心へと触れていく、そんな少女の物語。

 そうして辿り着く先には、きっと『彼』がいる。恋焦がれた『彼』がいると。

 少女にとってかけがえのない『彼』を取り戻していく、そんな物語。

お付き合いくださいまして、ありがとうございました。

ここらで一区切りとなります。


後書きは難しいですね。気が利いた事を言おうとしても、中々うまくいかないです。精進します。


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