まだ終わっていない
まばらだった拍手も、盛大なものへとなっていく。アマリアは息をきらしながら、その光景を眺めていた。観客達の表情はわからない。とはいえ、アマリアが迎えた結末には納得がいったという事だろう。
「うん、まあ、いいんじゃない?―結末はきみによって迎えられた」
それなりの拍手をしているのは支配者だ。彼としても悪くはない結末だったようだ。
「うん、いいと思う。生徒達も納得している。……何より、きみが苦しんでないから。うん、これでいい」
「あなた……」
支配者は地面に降り立ち、その場に留まる。フィリーナもフィリーナでこの人誰?といった目線を送る。今になって彼の存在に気がついたようだ。支配者は支配者で適当な会釈で返した。
舞台の幕が下りる。ここは乗り切ったようだ。
幕の内側に残されたのはアマリアとフィリーナ、そして支配者だ。本調子ではないフィリーナを座らせ、アマリアは側についていた。
「ねえ、聞いてもいいかしら。フィリーナ様はこの先どうなるの……?」
存在が消失しなかった事自体イレギュラーだ。勢い任せに進めてしまったが、今になってアマリアは不安になってしまった。
「アマリアは無計画ー!」
「ぐっ……」
支配者にそう口ずさまれるが、その通りだった。アマリアはぐうの音も出なかった。
「……まあ、心配ないよ。きみと同じ。入口を介すれば戻る事が出来るよ」
「そうなの、ありがとう」
こういう時に嘘はつかない男だ。その点はアマリアは信頼していた。ここは素直にお礼を言うことにした。
「べ、べつにこれくらいはね?まあ、きみもこれで少しはさ?」
「この流れでお願いがあるの。あのウサギの方々を呼んでくれないかしら。彼女を送ってあげて欲しいの」
「……うわぁ」
素直になってくれたか、と期待した自分が馬鹿みたいと支配者は拗ねる。と、同時にどうしてアマリアが送っていかないのか、という疑問も生じる。
「まあ、どうしてもって言うなら?まあ、もうちょっと可愛くおねだりしたり?……それか、ぼくにちゃんと理由を話してくれるか」
やはり妙に鋭い男だ、とアマリアは思った。ここで時間をかけるわけにはいかないアマリアは強硬手段をとることにする。
「あなたが乗り気じゃないならいいわ。一人二人捕まえて、脅してきましょう」
「……きみさ、なんか悪役が板についてない?」
「そうね。……暴れ足りないくらいよ」
「アマリア」
真剣な表情に対し、アマリアは軽く笑う。
「暴れ足りないのはさすがに冗談よ。ああ、それと私がひとっ走りしてくるから大丈夫。彼女一人くらい担げるもの」
そういったアマリアの腕をフィリーナは掴む。自分なら一人でも大丈夫だと訴えているようだ。
「あー、もう……!」
支配者は無言で指を鳴らす。やってきたのは着ぐるみ達だ。フィリーナを失礼のないように抱え上げ、そのまま入口までお連れする事になった。されるがままのフィリーナだったが、何か言いたげだった。
「……わかっているわ、フィリーナ様。あなたが誰を気にしておいでなのか」
「……。あのね、アマリア様。これはわたしがきっちりと片をつけないといけないこと。だから、あなたは無茶しないで」
「ありがとうございます。けれどフィリーナ様。―それではあなたは解放されないままよ」
「アマリア様!?」
「……アマリア」
そういったアマリアは走り出していった。まさか、と支配者も思い当たる。アマリアは劇場街へと飛び出していった。
「はあはあ……。あった」
それは地下へとつなぐ階段だ。以前劇場街で見かけたことがあった。街をさまよう婚約者を追いかけている時の事だ。目的の場所はフィリーナの劇場の裏にあった。フィリーナの劇場近くにある、読み通りだった。
階段を下りていくと、開かずの扉に行きつく。失礼、と言いつつもアマリアは扉を蹴破った。規模の小さな劇場だった。ロビーを通すこともなく、いきなり円形ステージへとつながっていた。
「―いるのでしょう、ロベリア様?」
アマリアは断りもなく劇場内へと足を踏み入れる。この舞台には客席は設けられておらず、中央の円形ステージの周囲を水で張り巡らされていた。―誰にも見られることのない公演。秘められた公演だ。
「ええ、構わないわ。無粋な野次がいないもの」
「―これはこれは、アマリア様ではありませんか」
ステージの中央に立つのは、黒衣にベールをまとった少女。ゆったりとした造作でベールをあげた彼女はロベリアだ。不敵な笑みを浮かべている。
入口の立て看板に点灯されたランプは一つ。そしてタイトルロールも欠かせない。
―一つ星公演。『ロベリア嬢の秘め事』。上演開始。