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二つ星公演 最高の令嬢、フィリーナ嬢 閉幕

「―わたくしは、完璧であり続ける。誰もが求める名門の令嬢として」

 舞台は最初の場へと転換した。暗闇の中、白鳥を模した格好のフィリーナが躍り続ける。鳥かごの乙女達もフィリーナを崇拝したままだ。

「……でもね、もう無理」

「!」

 踊り続けていた彼女だったが、その場で倒れ落ちてしまう。

「……わたしはもう演じられない。ずっと無理していた。ずっとおかしな目で見られ続けて、視線にさらされて。……もう、限界」

 フィリーナはそのまま瞳を閉じた。

「……わたしの物語はこれまで」

「フィリーナ様!」

 諦めきったフィリーナの周りに、異形の存在が取り囲んでいく。まさにフィリーナを飲み込もうとしていた。このまま飲み込まれ、そして消失。―その方が幸せなのではないか、と誰しもが思うだろう。舞台を見守り続けた観客達は少なくともそう思っていた。

「……させるわけ、ないでしょう!」

 だが、舞台の上の悪役は違った。取り込まれようとするフィリーナの救出に向かっていった。

「……何を」

 閉じた瞳をうっすらと開くフィリーナ。映ったのは悪役の必死な姿だ。

「これこそ勘違いしないで欲しいわね。……私が納得しないのよ!」

 そう叫びながらも異形達をもぎとっていく。荒々しいまでに叫びながら、フィリーナに伝える。

「……あなたがおかしい?私だっておかしいわ!あなただってご存知でしょう?というより、皆どこかおかしいと思うの!」

「……?」

「……あなただけじゃないのよ、フィリーナ様」

「!」

 剣で切り裂くだけでは飽き足らず、アマリアは異形達を蹴り飛ばす。観客席から笑い声があがる。アマリアにとっては笑い事じゃない。

「あなたは人が求めるから、完璧であろうとした。……本当のあなたは違うのに。少しだけの付き合いだけれど、私は本当のあなたを垣間見てきたと思うの」

「……アマリア様」

「あのね、フィリーナ様。こういう人間だっているのよ。あなたの事を興味本位に知りたいだけじゃない。―本当のあなたに触れたい。近づきたいって」

 アマリアからのまっすぐな思いだ。そうしてフィリーナに手を差し伸べる。

「だから、フィリーナ様。まずはお友達からで……!?」

 力をつけたアマリアに対して、異形達も対抗するかのように巨大化する。その巨大な影が二人を覆う。落ち着いて話してられないようだ、とアマリアは恨みながらも対峙する。

「くっ……」

 斬りかかろうとするも、その弾力にはじき返されてしまう。手をこまねいていたアマリアだったが、天井を見上げる。そうだ、彼女達だ。大型の異形達に突進したかと思うと、それらを足場にして跳躍する。その勢いで鳥かごの一つにしがみつく。

「―ねえ、やめてもらえるかしら?力の源はあなた達でしょう?……剣の切れ味は、ご存知の通りでしょうに」

 半分異形と化した令嬢が力を送っているようだ。アマリアはそれを突き止めて脅すも、令嬢たちは屈しない。だと思ったと、アマリアは肩を竦めた。

「……本当に、あなた達はフィリーナ様に完璧のみを求めていたの?ただ守られていたかっただけかしら。それって、もったいないと思うの。本当の彼女もきっと魅力的でしょうに」

 そして彼女達に語りかける。アマリアは心のどこかで信じていた。ただ、名家の完璧な令嬢だからついて回っていたのではないだろうと。

「心のどこかでわかっていたのではないかしら。―彼女の不器用な優しさを。けれど、周りの声によってそれが信じられなくなった」

「……!」

 アマリアの言葉に令嬢達も思うところがあったようだ。彼女達は考える。フィリーナという憧れでいて、最高の令嬢の事を。―本当に彼女のガワのみを求めていたのか。

「それは……。わたくしたちがあの方についていたのは、素晴らしい方だったから。けど……」

「遠い存在のようでいて、そっと寄り添ってくださる。そんな方だからこそ、わたくし達は―」

 令嬢達は顔を見合わせる。すると力の供給は止み、異形は弱体化していった。着地したアマリアに踏みつぶされ、そして消滅していった。

「アマリア様……」

 力なくフィリーナが呼ぶ。そこにいるのは令嬢ではない、ただの少女、フィリーナだった。アマリアは少しずつ距離を詰めた。

「わたしは、隕石病だよ。ばれちゃったな……」

「ええ、そうみたいね」

「……もう、わからないの。わたしはどうしたらいいのか。居場所もなくなって、完璧も偽れなくなった。……もう、心が苦しい。限界なの」

「ええ。―だから、あなたに罰を与えるわ」

 そのままフィリーナを抱き寄せると、耳元で囁く。

―私の側で歌い続けなさい。そう、心のままに。

「それは……」

 感情のままに歌ってはいけない、と強くフィリーナは止められていた。自身もその事に恐怖を感じずにはいられなかった。歌うとどうしても高揚してしまう。もし、過去のように暴走させてしまったとしたら。

「……実際にね、歌を歌って暴走したことはないの。でも、もしもってこともあるから」

「そうね、もしもはあるわね」

 そこは歌を歌っても大丈夫と言ってくれると、フィリーナは思っていた。正直拍子抜けだった。

「なら、ここで歌えばいいじゃない。―あなたの劇場で」

「……!」

 利用してやればいい、とアマリアは悪どい笑みをみせた。ぽかんとしていたフィリーナだったが。

「……ふふっ、何それ。何でもありだ」

 小さく笑う。それはフィリーナの素の笑い声だった。

「……今すぐには無理かもしれないけど。でもいつかは」

 すっとフィリーナは立ち上がった。ふらつきながらではあるが、瞳は前を見据えていた。

「―いつかアマリア様、あなたに届けられたら。聞いてくれる?」

「ええ、私、あなたのファンだもの。あの拙いフレーズを聞いたときから」

「……ひどい」

 むくれながらも、フィリーナはアマリアに寄り添った。

「あのね、アマリア様。―あなただから、信じられるの。わたしを信じてくれた、あなただから」


『最高の令嬢、フィリーナ嬢』

 タイトルロールが読み上げられた。物語が終わろうとしていた。


―侯爵家に生まれたのは愛らしい令嬢だった。蝶よ花よと育てられ、大切にされてきた。だが、恵まれていた彼女の人生も一変してしまう。隕石症を患ってしまったからだ。現実を夢と思い、夢を現実だと思う日々。ついには親友を誤って傷つけてしまう。 

 それからは、より一層完璧であろうとした。自分はおかしくない。侯爵家の名誉も汚さないようにと。ただ人形のようであろうとしたフィリーナ嬢だったが、おかしな女学生と出逢う。そのやり方が気にくわないと、フィリーナ嬢を断罪しようとする女学生。そんな彼女が目障りと思いつつも、どこか気になっているフィリーナ嬢。

 ついには女学生は屋敷にまで侵入したりとやりたい放題だったが、彼女には目的があった。身代金?恩恵?最高の令嬢に取り入ること?

 いや、違う。女学生が求めたのは本当の彼女だった。彼女の歌声に惹かれ、彼女の本当の姿を知りたかったのだ。そして、その上で友人になろうとした。不器用な二人の新たな物語が始まろうとしていた。

すごく今更なのですが、ネーミングセンスが欲しいです。ネーミングセンスも欲しいです。


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