二つ星公演 最高の令嬢、フィリーナ嬢 開幕
「―今宵は、とある令嬢の秘め事をお伝えしましょう。『最高の令嬢』であろうとした、いじましい少女の話を」
舞台の中央にて、椅子に座った女性にスポットライトが当たる。漆黒のドレス、そして黒いベールで顔を覆っている。彼女が何者かはわからないが、語り部であるようだ。
暗転のち、白い羽が舞台上に舞う。その中から姿を現わしたのはフィリーナだった。真っ白なチュチュのようなドレスをまとっている。その美しさに、アマリアの周囲から感嘆の声があがっている。アマリアもそうだ。見惚れずにはいられない。
「―わたくしは、選ばれた存在」
虚ろな瞳のまま、そのまま彼女は舞う。彼女が舞い続けている間に、現れたのは複数の鳥かごだ。
「!」
中にいるのはフィリーナ一派を始めとした、フィリーナを信奉していた女生徒達だ。鳥かごの中の少女達は、熱狂的にフィリーナを讃えている。
「……わたくしは、手本ではなくてはならないの。完璧な存在でなくてはならない。わたくしは栄誉ある名家の娘として生まれたのだもの。―誰もがわたくしを見ているから」
彼女の流麗な舞も、次第にカクカクとした機械じみた動きとなっていく。
「……?」
アマリアは気づく。フィリーナの上に糸が垂らされていると。それが彼女につながり、まるで彼女を動かしているようとも思えた。フィリーナの頭上を辿っていく、とアマリアは驚愕する。そして、押し殺すような声を上げる。
「……あの男は」
憎き支配者がそこにいた。舞台の世界観に合わせるように、ゴシックな礼服を着用している。そんな彼は退屈そうに宙に浮いていた。その様がよりアマリアを苛立たせる。
「男?急になに?あんたの知り合いでもいるの?」
そう、隣に座る少年が不思議そうにしていた。ということは、現状支配者を確認出来ているのはアマリアくらいだろうか。
フィリーナの動きは更に奇怪に、そして滑稽なものへとなっていく。それは観客達の嘲笑を誘った。嫌な雰囲気だ。彼らの笑いが増していく。舞台上にいる支配者は違った。欠伸をしていた。どこまでも退屈そうだった。
「……民度、低」
「そうよ。……何がおかしいの」
隣で辟易している少年にアマリアも同意した。アマリアは今、、様々な感情がこみ上げてきている。あざけり笑う観客達も。アマリアの存在に気がついたのか、複雑そうにしている支配者も。―舞台上でさらし者になっているフィリーナも。そんな彼らを見たアマリアは。
「何してんの、あんた」
「……」
アマリアは勢いよく立ち上がる。周囲の目もアマリアに集中する。物言わないアマリアに対し、隣の席の少年は徐々に心配になってくる。
「あんた、馬鹿なこと考えてない?」
「ええ、さぞ愚かでしょうね。わたくし生憎ですが。―賢くないようです!」
「ちょっと待っ……!」
それだけ言い残したアマリアは隣の少年の制止を振り切り、そして。―舞台へと乱入していった。