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大好きな先輩達

早朝、アマリアは目が覚める。誰かを失った喪失感は残るも、これまでよりは目覚めは良かった。

「これは……」

 アマリアが手にしていたのはネックレス。そして損傷の激しい指輪だ。夢の世界の状態そのままだった。アマリアは無言でネックレスに指輪を通す。そしてそれをかけた。

「うん。……おはようございます」

―顔も名前もわからない婚約者の貴方へ。『彼』が、アマリアの中では息づいている。

 さあ、今日も一日が始まる。アマリアは勢いつけて起き上がった。


 朝食をとりにダイニングルームに向かうことにした。人と食事をとることも避けていた彼女にとって、誰かと食べるのは久々だった。同じ寮生に気まずい思いをさせるだろうが、まずは自分から歩み寄ることにした。

「アマっちぃぃぃ……」

「ひゃっ!」

 物陰から姿を現わしたのはスーザンだった。アマリアも思わず声を上げてしまう。

「ご、ごきげんよう」

「……おはよ、アマっち。あのさ」

 挨拶を返してくれてまずは一安心と思っていたアマリアだったが、スーザンは深刻な表情のままだった。しばらくの沈黙のうち、ようやく話しを切り出した。

「アタシじゃないよ」

「!」

「……アタシじゃない。ヨルク様とキミとの画像リークしたの。ヨルク様とのヤツまともに撮影できなかったのも、マジ。……あはは、自分でも嘘くさいって思う。こんなの信じてもらえないよね……」

 今更かもしれない、とスーザンは力なく笑う。

「……信じて、よいのですか」

「……え」

「……疑わなくて、よいのですね」

 アマリアは脱力して、その場に座りこむ。スーザンは慌てて駆け寄る。アマリアは親し気に接してくれたこの先輩を疑いたくなどなかった。良かった、とつぶやいた。

「本当は何度も疑いそうになりました。……ですが、信じたかったのが事実です」

「へへ、アマっち……」

「本当に良かった……」

 安堵しつつも、アマリアは立ち上がった。アマリアが見せてくれた笑顔に、スーザンも笑って応えた。スーザンもそうだ。

「おはよう、アマリアさん。……ちょっと、いい?」

 朝食前に話しかけてきたのはクロエだった。彼女が小声で伝えてくれたのは、スーザン同様の内容だった。

「……あなたと彼の話。私、話してないよ」

「!」

「……そりゃ、私は立派な家柄とかないけどね。でも、同じ寮生を売るような真似なんてしたくない。今回、あのご一派にも言われたわけでもないし、脅されても適当に煙に巻くし」

「……」

「……ま、難しいよね。あの話、まともに聞いてたの私くらいだし。信頼してくれなくても、仕方ないかな。私、もっとしっかりするようにするから。寮長として、あなた達を守りたいし」

「……先輩は、十分過ぎるくらい立派な方です」

 アマリアとしては疑う余地などなかった。これだけまっすぐな眼差しを向けてくれる人など、疑うものかと。 

「……アマリアさん」

 クロエも一息ついた。彼女なりにずっと気にしていたのだ。自分が苦しむ彼女を助けてあげられなかった事。そして、アマリアが意を決して話してくれた内容なのに、フィリーナ一派にそれを話したと疑われていたのではないか。短い付き合いのクロエにはわかる。彼女にとって誰かを疑わなくてはならないという事は、慣れてないもので。そして、大変辛い事だったのだろうと。

「クロエ先輩はお忙しいでしょうに、わたくしも含めた寮生の皆様もよく見守っておいでです。わたくしの方こそ、見習うべきです。まだまだありますよ」

 アマリアにとっては尊敬できる先輩だった。こうして熱弁できるほどだ。

「……うん、わかった」

「妖精とはまさにその通りです。それだけ可憐な容貌ながらも、実に日々を逞しく―」

「うんうん、わかった。よくわかったから。そのへんにしとこ?」

「模範たる生徒であることに間違いありません。それでいて、多くの人々との交流も難なくこなせるような話術もお持ちで―」

「怒るよ」

「失礼しました」

 そうこうやりとりしている内に、朝食の席へ。一部の生徒が挨拶で迎えてくれた。朝食を山盛りにしたトレーを持ったスーザンが近づいてくる。

「ほらー、クロっち?朝からこわいって!アマっち、おかわり自由だからね。たくさん食べなー!」

「かしこまりました。わたくしも力をつけ―」

「ん?」

「はっ!スーザン先輩……。スーザン先輩!」

 そうだ、スーザン先輩だ。アマリアは考えていた。こちらでの彼、劇場街の少年に会ってみたい、と。スーザンだったら知っているかもしれないと。

 アマリアは結果、少年の事を覚えていた。その事に彼女は小さくガッツポーズする。彼は忘れているかもしれない。それはそれで致し方のないことだ。そう考えながらもぐいぐいと迫るアマリア後輩に、スーザンは尻込みする。

「あ、アマっちまでこわい」

「報酬に限りましては、何が何でもご用意致します。スーザン先輩にご助力願えればと」

「おっ?おおっ?なになに、急展開?ふふふアマっち、見返りは今回もいいんだよ?スーザン先輩、不甲斐ない結果のままじゃ嫌だかんね。誰々?なんていう人?」

「なんていう人。お名前。……はっ!」

 肝心な名前は聞けずじまいだった事を思い出す。

「えぇー……。アマっち、そりゃないよぉ……。他になんかないの。例えば―」

 今日も魔窟であるプレヤーデン学園へと向かう。そこにあるのは。―日常だ。

スーザンは時々、クロエのことを黒っちと呼ぶ設定があったのですが、やめときました。

でも、心の中では思ってそうです。わりと怖い人なので、クロエ先輩ってば。

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