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学園女子の憧れは、フィリーナ一派

高度な学問の授業もさることながら、学園で学ぶ事はそれだけでもない。

「アマリアさん、遅れてますよ!」

「はい!」

 今受けているのはバレエの授業だ。令嬢の嗜みだというが、アマリアは学ぶ機会がなかった。生まれ持った運動神経でついていこうとしているが、基礎自体が出来ていない彼女に対し、講師は目も当てられないと天を仰いだ。

「アマリア嬢、もっと相手に身を委ねて!」

「はい!」

 社交ダンスならば、母に叩き込まれた。これならばとついていけると思ったが、そうはいかなかった。社交ダンスの講師の叱咤が飛ぶ。相手の男子生徒にも謝る。相手は微笑んで許してくれはいるが、迷惑をかけているには違いない。 

「わたくしはなんという様でしょうか……」

 情けない自分に落ち込みながらも、アマリアは一人教室へと戻っていく。もうすぐ昼食の時間だ。

「御覧になって、フィリーナ様よ!」

「ああ、本日も素敵でいらっしゃる……」

 通りがかったのは、バレエの授業で使われるダンス室だった。丁度フィリーナ達のクラスが使用していたようだ。昼休みだというのに、彼女達は残っていたようだ。フィリーナの動きが際立つ。誰もが彼女の舞に心を奪われていた。アマリアもそうだ。

「……なんという方なの」

 令嬢達の中心で嫋やかに微笑んでいる。恵まれた生い立ちに容姿。それでもそれに胡坐をかくことなく、こうして努力も欠かさない。実になんという少女だろうか。そう思ったのはアマリアではなく。フィリーナに対する賛辞は続く。

「本当に天に与えられ過ぎよね。お家柄もよく、ご本人は白鳥のような美しさ。教養も秀でてらして、お体は丈夫でないというのだけれど。けれど、ああして踊られているという事は克服なされたのでしょう」

 朝は調子がよくなかったようだが、あれはたまたまだったのだろうか。というより、あの山を登ってきた胆力はあったのだ。この少女達が言うように、体が弱かったのも昔の話かもしれない。

「……まあ、気になりますのは。音楽の授業で歌われるの、見たことありまして?」

 もしかして苦手なのかしら、と少女がつぶやく。

「とはいえ、音楽の成績自体は優秀であられるでしょう?……まあね?あれだけ完璧な方ですもの、一つくらい苦手なものもおありでしょう?」

「え、ええ!それも逆に魅力ともなり得ますわね!」

 あの優れた令嬢にも苦手なものがある。どこか嬉しそうな少女達と、少しだけ共感してしまったアマリア。その考え方はいけない、とすぐさま否定した。

「……しっかりなさい、わたくし」

 しっかりと現実も生きてなくてはいけないようだ。成績が思わしくないと退学もあり得るだろう。学園生活も手を抜いてはならない、とアマリアは自身を戒める。

「……?」

 フィリーナにタオルを渡しているのは、ロベリアだ。フィリーナといつも共にいる彼女は献身的に支えていた。冷静で表情も変わらないロベリアだが、フィリーナと一緒にいる時は幸せそうにしていた。―言うなれば番同士の鳥のように。

「ねえ……」

「やっぱりそう思う……?」

 あまりにも仲が睦まじい二人に対し、女生徒達は噂をし始める。あくまでもひそひそ声だったが、アマリアにはどうしても聞こえてしまう。

「……あのお二人って、その。あまりにも……ねえ?」

「親友同士ってことでしょうけれど、いつもご一緒でありません?お美しいお二方ではありますが。……ねえ?」

―女同士、でしょう?と、嫌悪しているのが見て取れた。

「……」

 嫌でも聞こえてきてしまうアマリアは、それを聞いて何とも言えない気持ちとなった。ふと思い出したのはアマリアの父の事だ。性に奔放な父でも、手を出さない相手がいる。

 アマリアが思い当たるのは、近親者、そして同性だ。古くからこの国に基づく倫理観だ。今あげたものは禁忌とされており、昔だったら刑に問われてもおかしくなかったという。アマリアの周囲にも同性愛者がいるのと、時代と共に偏見はなくそうという方向性にはなっているものの、今も差別は続いている。

「……」

 こうしてみるとロベリアが特に熱を入れているようにも思える。だが、こうして不躾に見続けるのもどうか、とアマリアは考えた。そっとその場から離れることにした。だからこそ、彼女は気がつかなかった。―自身を突き刺すような視線に。

区切るところミスったかもしれません。

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