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糾弾されるクロエ

 夢の中にいるような感覚だった。アマリアは未だに実感が掴めておらず、ふわふわと漂っているかのようだった。それは彼女の思考もそうだった。

―エリカの食欲問題。ヨルクの言葉の意味。あれこれがアマリアを悩ます。

「……」

 それでも、足は進んでいた。気がついた時には、新月寮に到着していた。アマリアは顔を引き締めて、建物内に入っていく。

「……?」

 やたらと寮内が騒然としているのだ。入口近くで、多くの人が集っていた。何事かとアマリアは顔を顰めた。

「―是非とも納得のいく説明を。お願いできるかしら、クロエさん?」

「どういうことかね、クロエ君?―説明を頼むよ」

 中には、新月寮生以外の存在もあった。凛々しく華々しい女生徒や、学園の教師陣、学園の事務局長までも出向いてきていたのだ。中心にいるのは、―新月寮長のクロエだ。

「―まずはお詫び申し上げます。この度は申し訳ございませんでした。『リゲル商会』側の完全なる落ち度です」

 どうやら、リゲル商会側が何かをやらかして、そのことをクロエが詰問されているようだった。クロエは謝罪と説明をひたすら続けている。あとから続々とやってくる人らに向けてであった。

「この度のことですが―」

「!」

 アマリアの瞳がカッと見開く。人だかりの中心で頭を下げ続けているのは、クロエなのだ。ただ、謝罪を続けていた。顔を上げては一人ひとり対面で説明。そして、頭を下げての謝罪。クロエはそれを繰り返していた。

「クロエせん―」

 アマリアは思わず飛び出そうとした。何より、慕っている先輩なのだ。見て見ぬふりなど、彼女に出来るわけがなかった。

「!」

 クロエも察したのか、アマリアの動向に気がつく。クロエはただ、首を振る。―それがクロエの答えだった。アマリアは飛び出しかけた足を引っ込める。このまま、見過ごすしかないのか。

「……さすがにね。いきなりアマリア先輩出てきてもさ、こじれるから。そうするしかないんじゃない?つうか。事情すらわかってないでしょ、先輩」

「レ、レオ君?」

 いつの間にか、レオンが背後に来ていた。彼も騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。

「……すう。そうね、逆にクロエ先輩の不利になってしまうなんて。それは耐えがたいわ。教えてもらってもいいかしら。何があったというの?」

 アマリアは一呼吸落ち着けて、レオンに質問する。レオンも声を潜めて、説明することにした。

「……まあ、オレはなんかあるとふんでる。それ、前提で話す。まあ、あれだよ。そのまんま、『リゲル商会側の不手際』でクロエ先輩が責任とらされてる現場」

「そんな……」

 アマリアは納得がいかない。それでも、とレオンの説明を待つしかない。何をリゲル商会側がやらかしたのか、肝心な部分がわからないからだ。

「……まあ、あれです。いつもなら届くはずの?リゲルからの輸送品が届かないんだって。―まあ、食糧問題です」

「!」

 アマリアは仰天した。

 アマリアはかねてより聞いたことがある。輸送手段は、―鉄道だ。学園の外れには鉄道があり、随時運航しているという。

 ちなみにである。通常の生徒は、鉄道に乗って入学してくる。馬車でやってきたアマリアが特例だった。手配した婚約者の母が丁重に扱いたかったのもあるだろう。それでもって、一人の生徒の為に運行出来ないといった事情もあるようだ。

―しかも、今回は多めにとっていたというではないか!次の入荷は来週だという!

―保存食にも限度があるでしょうに。ひもじい思いを我が生徒達にさせることになるとは……。

―何をやっているのやら、大商会とあろうものが。

「……」

 次々とクロエを責めていく。アマリアは耐える。強く手を握りしめながら。

「……なんということでしょう。クロエ先輩、お一人でこのような。シモン先輩ならば放っておかないと。そう思っていたのに」

「あー……」

 シモンも同じリゲル商会の関係者のはずだ。クロエ一人矢面に立たせる気なのか。疑問を抱くアマリアに対し、レオンは視線でそれとなく教えてきた。

「……なんと」

 廊下の奥まったところから、シモンは成り行きを見守る形となってしまっていた。長身の彼なので目立つ目立つ。だが、あえて誰も彼には触れない。今はただ、クロエに矛先を向けていた。あえて、一人で受けて立ったクロエに対してだ。

 彼らの糾弾はまだまだ続く。クロエ一人に対して、どこまでも。

「……まったく。いくら、商会長の『孫娘』だからって。何もかも権利を与え過ぎではないのか。我々職員側に全権委ねてくださればよいものの」

「かつての『伝説の鬼会長』も、落ちたものだな。もうろくしたのかねぇ」

 好き勝手にいってくれるものだ。―クロエの肩がぴくりと動く。密かに呟いた。

「……おじいちゃんは、関係ないじゃない」

「……ん?」

「会長は、当学園のことには関与しておりません。私達に。……私に、委ねてます。私なら出来ると、そう信じて」

 クロエは背筋を正してそう告げる。だが、どこか虚勢ともみてとれた。

「クロエ先輩……」

 これだけ責め続けられているのだ。そうとうクロエ自身に負担がいっているだろう。舞台を彷彿させるものだ。うんざりする光景だ。

「……ほう、全てを君に、ねぇ」

「……はい」

 職員の一人が値踏みするように言う。クロエもそう返事するしかない。

「……やばくない?これ」

 迂闊過ぎないか、とレオンは暗に言っていた。クロエ先輩らしくもないと。

「……ええ」

 アマリアも同感ではあった。これは良くない流れである。

「今回は、君が起こした事。そう、我々は認識してよいのだね?そして、全責任は君にあるのだと。リゲルではない。―君の責任なのだと」

「……」

 小柄なクロエに合わせて、男性職員は体を屈めてきた。ん?と子供のやらかしを優しく問いただすかのようだった。クロエは、ただ沈黙を貫いている。何も返す言葉もないかのように。

「まあ、そうだねぇ。『新月寮の分』。そちらは、君のミスだろうねぇ。新月寮の物資の手配は君に託されていると。商会長に直々に命じられたと」

 リゲル商会絡みの事はやっていた。だが、それだけ任されていたということ。アマリアは初耳だった。クロエは確かに、常に書類に目を通した。学生、寮長、として日々をこなし。さらい、物資の手配まで行っていたというのだ。―新月寮の。

 アマリアは想像する。満月寮より冷遇されているであろう、新月寮。それでも不便さを感じさせないようにと、クロエが尽力してくれていたのだと。

「クロエ君、君が入学した時のこと、私は覚えているよ。君は、確かこう言ったねぇ?―一定の量が届くのも、安心はできる。だが、その時、その時で需要が変わるから。足りない場合も当然ある。だから?」

「……」

「クロエ君?」

「―はい。最低限の主食だけは定期的に輸送をさせます。けれども、それ以外は毎回、こちらから発注させていただきます。ご心配なさらないでください。私はリゲルの者として、しっかりと職務は果たします。……そう、申しました」

 もはや言わされたようなものだが、クロエは当時の発言を改めて口にする。事務局長は妙に感心していた。

「ほう、素晴らしい。よく覚えていたものだ。……まあ、その『定期便』さえ、今日来ないときたものだ!来週になってしまうがねぇ!」

 食糧の供給が途絶えないように、定期便が来る日は決められていた。そこはクロエと商会のやり取りも発生することもなく、自動的に送られてくるのだ。金額も前もって払われている。

 だが、今回はやらかしてしまった。―リゲル商会の信用を落としてしまった。期待は出来ない状況なのだ。

「……」

 クロエは言い返すことはなく。職員達が突きつけてくる現実をただ大人しく聞いていた。

「ふむ、失礼したね。あのリゲルがやらかしたわけではない。―大口を叩いたクロエ君?―君の咎だよ」

「……はい。決してリゲルのミスではなく。私が」

 クロエは唇を噛み締めながらも、そう言った。苦々しげであった。

「失礼、皆様方。クロエさん?本当に貴女のせいにして良いのかしら?」

 突如。堂々とした女生徒が、律儀に手を上げる。彼女なりに考えがあるようだ。

「本当に貴女のせいにして、我々は良いのかしら。―誰かに嵌められた。その線はなくて?」

「え」

 一瞬のことだった。わずかながらの事だった。

―横目で後方を見やった。だが、一瞬のこと。何事もなかったのかように、来訪者達に視線を向ける。それから、即時頭を下げた。

「……。責任の所在は、全て私にあります。いかなる叱責も受け止めます」

 クロエはより深く頭を下げる。

「いやいや、いいのだよ?学生の君には荷が重かったのだろうねぇ」

「こういう時は、我々大人に任せなさい?いや、今後ともだね。なぁに、不安になることなどありませんよ。何も取引先はリゲルだけではない。―この我々が!長年築き上げたところならね、このような失態を犯さないのだよ!」

「安心なさい。我々の!定期便が明朝には届くはずだ。我々の!選んだ相手先だからねぇ、このようなことはないはずだよ」

「ははは。満月寮からお裾分けしてあげようかねぇ」

 殊勝なクロエに気をよくしたのか。そして、元々当てがあったからか。うら若き少女をいびるのもこのへんにし、猫なで声で職員達は話している。さらに、気分が盛り上がっているようだ。勝利の美酒に酔っているかのように、彼らは今後の事を話し合っていた。

「いやいや!日頃から疑問を抱いておりましてねぇ。いち学生も関与している、ということもそうですがねぇ。なんですか、あの入荷量、内容は!当学園にふさわしくあらず、ですよ!」

「我々が取り仕切れば良いのですよ。ええ、来週にでもその話をしておかないと。……リゲル商会ののこともね?」

「良い機会ですからね、色々と新調しましょうか。そうそう、今後はもっと食糧を確保しましょうよ!……ほら、ねぇ?」

 今回の輸送ミスを暗喩するかのように、クロエを嬲っていた。

―君の出る幕はないのだよ。それにだ。おじい様を失望させてしまっただろうねぇ。「!」

 クロエの近くでねっとりと囁く。だが、クロエは何も言い返すことも出来ない。ただひたすら、俯いていた。

「……クロエ先輩、わかってはいるのです」

 アマリアの我慢の限界を遥か超えていた。事情は十分にわかった。これは、商売が絡む話だ。学生間のトラブルとはまた違う。クロエは学生ではなく、商売を扱う者として携わってきたのだ。仕事としての失態なのだ。大規模ということもある。

 そうだとしても。ここまでわかる前にでももっと早くに声をかけられたなら。強引にでも連れ出せたなら、と。

「……いいえ」

 もう十分だろう、とアマリアは前を向く。これ以上、我慢など出来ないのだと。

「……そのへんでよいではありませんか。食糧自体はふんだんにあると伺っております。―そちらのクロエ先輩の日頃の管理によって!」

「!」

 アマリアは声を張り上げる。クロエは思わず顔を上げる。アマリアはああ、と声を漏らす。こんなにも悲痛な表情を浮かべていたのに。―自分は静観し続けていたのかと。

「……ほら、噂の編入生ですよ」

「ああ、彼女が。なんだね、君は。これは君のような学生には手に余るものだよ?君は、というよりここの寮生がかね?クロエ君をやたらと慕っているらしいが、今回はその寮長によるものだからねぇ?たかがしれているねぇ?」

 元々、リゲル商会の親族だからといって、取引に関与してきた。そのことが気にくわなかったのだろう。ここぞとばかりに言いたい放題であった。

「な、な、な!なんと陰し―」

 アマリアは陰湿というのを言いやめる。ほぼ、言ったようなものだが、言っていないと首を振る。。アマリアとしては口を噤んだつもりなのだ。確かに、今はクロエの過失という話の流れになっている。そんな際どい状況なのだ。失言は許されない。

「……ですよねー」

 読めてた、とレオンは諦めの境地だった。彼もやってきて、アマリアの前に立つ。

「……ほら、例の問題児ですよ。今は、生徒会との約束で大人しくはしてますが」

「ああ、彼が。本当に問題のある生徒ばかりだな!」

 隣で耳打ちで情報を得た職員は、これでもかと嘆く。

「そうでーす。生徒会認定の問題児でーす。なんで、生徒会に怒られない範囲で正論言いまーす。いつまでも、こうしてても仕方なくね?時間の無駄じゃん。しょうもな」

 近くにいたアマリアは開いた口が塞がらなかった。自分よりよっぽど酷いからだ。職員達もあ然としている。

「……あの会長も、わかってくれるはず。多分。そもそもさ、クロエ先輩に全責任てどうよ。こういうのって、最終確認とかするもんじゃない?つか、リゲル側もぐだぐだじゃない?」

「な、なんだ君は!……彼女に関しては、審査もなくそのまま通っていたのだよ。とんだ会長の寵愛だねぇ!」

 わりと律儀に答えてくれたものの、職員は青筋を浮かべていた。レオンの舐めた態度に憤慨していた。

「え、そうなん?クロエ先輩、苦労してたんだね。って、やっぱすごいじゃん。クロエ先輩」

「ええ、そうよ。彼の言う通りよ!」

 クロエを認めているのは、この二人だけではない。この事を皮切りに、他の新月寮の面々も前に出てきた。特に、ずずいと出てきたのは強面の男子生徒だ。

「おう。今回はリゲル側の落ち度ってのはあるんだろうけどな。かといってな、うちの寮長のせいばっかはどうなんスか?」

「そうそう。せめてさ、本当に寮長がやらかしたのか。私らに確認させてもらえません?」

「そうだそうだークロっちの危機には黙ってられないんだぞー!」

 クロエの同級生達だ。最上級生の彼らがクロエの傍らに立つ。

「みんな……」

 クロエの声は掠れるも、呼ぶ。

「なんだ君達は!な、なんだね!?クロエ君の無実を証明したところで、何になる!?来週まで食糧が届かないことには変わりないんだぞ!?」 

「そうッスね」

「……やけに素直に認めるな。それこそ時間の無駄というものではないのかねぇ?」

「確かにそうッスね」

「……馬鹿にしているのかね」

 意味がわからないと、職員を含めた大人達の顔が引きつる。それがなんだ、と返すのは強面の生徒だ。

「馬鹿にとか言われてもな。自己満だよ。うちの寮長がやらかしてないって、わかってくれればいい。別にあんたらに謝れとかじゃないんで。そんな大人気なくないス」

「なっ!」

「で、マジで寮長のポカだったら。一緒に謝ってやる。謝罪行脚してやんよ」

 そうだ、と新月寮一同は頷く。思いは皆、同じなのだろう。

「―さて。職員の皆様。問題は山積みですから。本日はこのへんで切り上げませんこと?もちろん、皆様方のお力添えもあってこそ。解決に尽力してくださることでしょう」

「……む、君がそういうのなら」

 女生徒の言う通り、夜はかなり更けてしまっている。おそらく満月寮の生徒で、代表としてやってきたのだろう。

「……クロエさん?早く調子を取り戻しなさいな。貴女はわたくしが認めた存在なのですから」

「……今回はありがとう、とだけ」

 互いに面識があるようだ。憔悴しきったクロエは力なく答える。女生徒は特に気にすることもないようだ。今回、この華やかな女生徒がクロエ側に立ってくれていたことは明白だった。アマリアも感謝の気持ちを込めて、密かに頭を下げた。

「……」

 それに気がついた女生徒は、アマリアを横目で見る。

「……案外、普通のお嬢さん。けれども、ふふ。本当にそうなのかしらね」

「……?」

 それだけ残して、女生徒は颯爽と去っていった。アマリアはその背中を見送るしかなかった。

―なにも、リゲルだけではない。他の取引先にも大至急、連絡を取りましょう。

―とはいえ、文が届くのが最短でも……。

―なに、それまでの食糧はまだまだあるだろう。自給自足の環境も整ってはいる。

「……ほら、行くぞ。寮長。おめぇがしっかりしないと始まんねぇんだよ」

「……私は」

 クロエは惑ったままだった。まあ、クロエの意思確認もせずに話は進んでいったので、無理もない話ではあった。

「……はあ。責任、とるんだろ。使えるもんは使えってんだよ!なあ、後輩ども!」

「は、はい!」

「ま、いいけどね。その考え方。はいはーい」

 後輩であるアマリアは勢いよく、レオンは緩く返事した。気を良くした男子生徒は、今度は食堂の方に向かっていく。不安そうに待機していた下級生組達に向けてだ。

「あー、お前ら怖がらせたな。……あ、いつもの俺のが怖い?うっせ!」

 普段通りの態度で接して、幼い彼らを落ち着かせたようだ。それから、廊下の奥で待機していたシモンの元へ。

「……ごめん。お嬢の大変な時に、俺、何も出来なくて」

「あー、いいいい。寮長そう判断したんだろ。お前を巻き込みたくないって。な?」

「ごめん、本当に……」

 シモンは意気消沈したままだ。

「……」

 クロエも無言のままだ。それでも、クロエはわかっていた。いつまでもこうしていられないことを。

「……あなたの言う通り、責任取らないとだね。原因、突きとめないと。それじゃ、これからは私が頑張るから。皆、ありがとう。本当に、嬉しかった」

 力ないまでも、クロエは笑顔を作る。嬉しかったという気持ちは本当だった。なら、ここらからは自分で乗り越えてみせようと、決意したようだ。先程のは彼女自身の量頬を叩いた音。彼女なりの決意証明だった。

「あんまりです。クロエ先輩!これまで、私にたくさん無理はしないようにと。そうおっしゃっていたご本人が。……頼ってくださらないなんて」

 それはないとアマリアは抗議した。クロエは一人でやろうとしているのだ。

「……アマリアさん」

 クロエはただ、相手の名を呼ぶ。

「そうだ。俺らをたよりゃいんだよ。たまにはさ。つか、さっさと終わらせようぜ。つか、寝たいんだよ。だから、寮長。仕切り、頼むわ」

「確認の仕方さえ、教えてくれたらさ。私、どうとでもなるから」

「うぉぉぉ、クロっちの為にもやるぜぇぇぇ。株上げるチャンスだぁぁぁ」

「つか、オレ、呼べるだけ呼んでくるっす。つっても、増やし過ぎてもあれか。ま、上級生組、片っ端から。この際、眠り男も招集してくるんで!」

「眠り男、その呼び名は……」

 あれこれ言いつつも、新月寮の彼らは団結していた。

「皆……。本当にごめん……。私、いつも偉そうにしといて、本当に何を」

 クロエは向ける顔がなかった。寮長として取り締まり、模範となるべき存在が、こうして迷惑をかけているのだから。新月寮のメンツの心証もまた悪くしてしまった。気が病んでならない。

「おうおう、そうだな。日頃偉そうにしといてな。けどな、謝るのは本当にお前のミスだった時にしろよ?そん時は、ぜひ謝ってもらおうじゃねぇか。たっぷりとな!」

「……なにそれ、ひどっ」

 クロエは思わず吹き出してしまった。こうして、普段通りに接してくれる。寮の先輩方がクロエに寄り添う。クロエはようやく、張り詰めていた気持ちが解れていく。

「……素敵ね、こうして支え合ってこられたのね」

「うん、まあ、それな」

 アマリアとレオンは、新月寮に来てから日が浅い。今こうして、彼らの境遇と、彼らなりに支え合って乗り越えってきたんだと。知ることが出来た。

「レオ君もごめんなさいね……。あなたも目をつけられることになって」

「いいって。わかりきったことだから。読めてたし。つか、新月寮に来た時点でね」

「まあ、そうね」

「納得するんかい。……いいって、まじで。こっちの寮に来てからさ、楽しいから」

「……そう。ええ、私もよ。私もこの寮が好きだから―」

 今、一丸となってクロエの信頼を取り戻そうとしている。なんとしても、乗り越えたかった。新月寮生として。

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