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支配者様のご機嫌な質問タイム

 フィリーナの声で満たされたことで気分転換にもなった。アマリアはご機嫌になりながら、街を練り歩く。舞台の上のフィリーアは実に幸せそうだった。かつての悲壮感からは考えられない。

「……そうね」

 アマリアは歩きながらも考える。改めて、劇場という存在についてである。夢の中とはいえ、人を晒し上げ、笑いものにする。興味本位で騒ぎ立てられる。そのような露悪なものであるのは変わりない。だが、その一方で―。

「……あ」

 気づけば巡回の最終地点についていた。慣れたものなのか、いつもより早い気がアマリアはしてならなかった。これはコースの見直しも検討すべきとも考えた。

 賑わいをみせていたフィリーナの劇場とはうって変わって、ここは静かだ。

 アマリアが訪れたのは自身の劇場であった。質素な造りの劇場は持ち主を体現している、これはもう苦笑いをするしかなかった。

 入口の横に立てかけらた立て看板。星形のランプに点灯しているものは三つ。数が多いほど注目されてることとなり、より生徒の期待に応えなくてはならないものとなる。ランプは撤去されていたはずだが、いつの間にかついていた。誰の仕業かは不明のままである。

 今は休演中。もっとも、これはアマリア自身がそうしたわけではない。他者によって強制的にさせられたものである。

「ここで待ってれば、来ると思った。邪魔されにくい場所だしね」

 人様の劇場の屋根に腰かけている少年。美少女と見紛うほど、美しくも愛らしくもある彼は笑いかけてきた。そんな彼に対して、アマリアは嫌悪の表情を浮かべる。露骨だった。笑い返す必要もないと、実に冷めたものだった。

 これだけ愛らしい少年であるが、アマリアにとっては因縁の相手であった。

 彼はこの劇場街、そして学園すらも支配する存在だという。学園の支配者であると当人も言っていた。舞台の上に立つ彼は確かにそのものであった。生徒を見下ろすように見守り、時には劇の進行を手助けする。それでいて、自由に傲慢に振る舞う。

 アマリアの劇場を封鎖したのは、もちろんこの支配者だ。自分が他者に見せたくないから、という理由でである。

―何より、アマリアの婚約者の消失、その要因もこの男である。アマリアにとっては宿敵そのものであった。

「……ええ、そうね。本当に巡回経路を見直さなくては」

「またそういうこという。可愛くないんだから」

「ええ、結構よ」

「まーた。まあ、いいけどね。きみはそういう子だもの」

 いつまでも続きそうだったが、切り上げたのは支配者の方だった。屋根からふわっと軽く降り立つ。かなりの高所だったが、難なくだった。アマリアの前に立った彼は、長身の相手を見上げる。上目遣いで見つめてきた。

「きみと一緒。ぼくも今、機嫌がすごくいいんだ。今なら質問に答えてあげてもいいよ」

 限度があるけど、と彼は補足した。

「……」

 どういう風の吹き回しかと、アマリアは勘繰る。一方で、これはチャンスでもあった。彼がどうして機嫌が良いのかは、この際どうでもいい。

「あれ?気にならない?ぼくの機嫌が良い理由」

「結構よ―。……どうしてかしら」

 アマリアは条件反射で答えようとしたが、思いとどまる。なにかの手がかりになるかもしれないと、質問することにした。

「それはもう。今日、きみに逢えたから」

「……そう」

「ひどい反応」

 常人ならば、ここまでの美少年に。こうもはにかまれたなら、グッときてもおかしくはない。自分は違う、自分は違うのだとアマリアは念押しをしていた。

「はっ!今ので回数を使ってしまったりは……!?」

「回数って。そういうシステムとか別にないし」

「そう、良かったわ」

 青褪めていたアマリアだったが、胸を撫でおろす。ならば、と意気込む。

「なら、答えてもらおうかしら。―私の婚約者は、どちらにいるの」

「……きみの婚約者、ね」

 その質問は、あまりにも直球過ぎた。あれだけにこやかだった支配者から、表情が消える。アマリアもその変わりようにゾクっとしてしまった。

「……でも、ぼくの機嫌を損ねると終了なので。そこんとこ、気をつけて」

「なんとまあ。まあ、もっと慎重にいくべきだったわね……」

「それはそう」

「なんとまあ」

 腹立たしい、という言葉をアマリアはどうにか飲み込む。

 どこまでも自分ルールだった。だが強制終了ではなかったようで、その点はアマリアも安心した。いつもならまともに質問に答えることはない。これはチャンスでもあるのだ。この際だからと、質問することにした。

「そうね。……フィーやレオ君達。皆さん方ね。もう、あなたが干渉することはないわよね?」

「さあね?あの子たち次第じゃない?」

 アマリアによって結末をもたらされた生徒達だ。回答になっているのかないのかわからない。アマリアは質問を続ける。

「……いいわ。少なくとも、彼らの動向次第。あなたが気が変わって、などで。勝手に結末を上書きなど。そうそうしないということね?」

「まあ、彼ら次第じゃない?」

 なんともまあ、適当な返しだった。それでもアマリアとしては及第点である。

「……『彼』は」

 アマリアはある生徒を思い浮かべる。自分のクラスメイトであり、ここ最近の騒動の張本人でもあった。彼の物語は支配者不在で終わらせたのだ。

「きみが誰のこと考えているかわかるよ。……あの男、まあ、今は大人しくしているわけだし」

「そうなのね」

 ここは素直に安心することにした。アマリアはその人物に対して、今でも思うところはある。それでも彼の平穏は保たれたというのなら、それ以上言及することはない。

「いいわ。そうね、あなたが今。狙いつけている生徒はいるかしら」 

「いたとしても言わない。邪魔してくるから」

「……そう。それでは、最近気になる問題はあるかしら」

「多すぎるから言わない。キリがないし」

 答える気があるのか、とアマリアはぐっと堪える。めげずに質問を続ける。今度は趣向を変えてみる。

「……いいわ。あなたの目的は何なのかしら」

 まずは敵を知る必要もある。そう、これは良い機会だ。そのはずなのだ。

「……へえ、ぼくのこと。でも、きみのご存知の通り。ぼくはこの学園の生徒を導きたい。ぼくがもたらす結末によってね」

 まんざらでもない支配者はそう答えた。だが、踏み込んだ答えではない。

「……そう。ならば、あなたに利点はあるのかしら。そうね、あとは日中は何を過ごしているの?この劇場街を視察しているのかしらね」

「……」

「以前訪れた寝室。助けてくれたのでしょうけど、あなたが強制的に連れてきた場所ね。あちらはあなたの住居で合っている?あと、どうしてあの着ぐるみの方々に好かれているのかしら?」

「……」

「そうね、あなたにも不思議な力があるのかしら」

「……はあ」

 自身絡みのことならばといけるのかと、アマリアは次々と尋ねていく。最初は浮かれていた支配者だったが、次第に表情が曇っていった。うんざりしているともいえた。

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