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たのしい楽しいお茶会①

 プレヤーデンの敷地の中心部に温室がある。校舎ともそう距離はない。特殊な魔法により、温暖さが保たれている。そこが今回のお茶会の会場であった。

 早目に到着したと思ったアマリア達だったが、既に先客がいたようだ。

「楽しそうだね、エリカちゃん」

「ふふふ、ほんっとうに楽しみにしていたんです!今日のお茶会!」

 温室の玄関口でほうきを掃いている少女がいた。エリカと呼ばれた彼女は、実に興奮気味に語っている。三年生の彼女もまた、アマリア達の後輩にあたった。

 長い茶髪を高くお団子結びにしている彼女は、食べる時に髪が邪魔にならないようにと。強い意思が感じ取れた。

「うん、いいね。今日はよろしくね、エリカちゃん」

「はい!」

「張り切ってるなぁ」

 気合が入った返事をするエリカに対し、微笑ましく受け止めるのは学園の王子とも謳われる男子生徒だった。いくつかの箱を抱えた状態でも余裕そうでもあった。

 ヨルク・ジャルウ・モジャウハラート。実際に、遠くにある砂漠の大国の王族である。浅い褐色の肌を持ち、類いまれなる美貌を持ち、そして長身であるヨルク。普段の穏やかな振る舞いもあって、学園の女生徒達から大層好かれていた。

 そんな彼をより慕い、行動をよく共にしている女生徒達がいる。ヨルク派の乙女達と呼ばれている。美しさ、知性、素養など選りすぐりの少女達だ。

 本日のお茶会は彼女達によるものであり、中心はヨルクだ。

「ん?」

 来訪者の存在に気付いたのはヨルクだ。軽く手を振る。声を掛けるタイミングだ、と二人は挨拶をする。アマリアは正直、声を掛けるタイミングを計っていた。それだけ良い雰囲気をこの男女は醸し出していたからだ。

「ごきげんよう、ヨルク様」

「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」

 フィリーナに続いて、アマリアも感謝の心を伝える。ヨルクも嬉しそうに頷いた。

「うん、ようこそ。それじゃ、二人。っと、エリカちゃんもそのへんでいいよ。中でゆっくりしてようか」

「はい!お二人とも、こちらへどうぞ」

 指定の置き場にほうきを戻すと、いそいそとエリカは案内を始める。

「まあ、ありがとうございます。……ん?ゆっくり?」

 エリカの厚意にあずかろうとしていたところ、アマリアはふと止まる。

「失礼致します、ヨルク様。私達は何をすればよいのでしょうか?なんなりとお申しつけください」

「はい」

 このまま温室で寛いでいいのだろうか。確か、力仕事の話をアマリアは聞かされていた。いつの間に私達に含まれたフィリーナも素直に指示を待つ。

「……ああー。今はない、かな。うん、何かあったらお願い」

 ヨルクのこの言いぶりはまるで、元々そのつもりはないようだった。だが、謀ったかと責めるいわれもなく。

「え、ええ。なんなりと」

 アマリアも力仕事をさせろと強要したいわけでもない。

「えっと。この分だとセッティングも終わってるかも」

「なんと」

 フィリーナがぽつりとつぶやく。アマリアが『ならば食器を並べたり、花を飾ったりあれそれ』と言い出す前にである。フィリーナに読まれていたのだ。

「そうですよ、アマリア様。すでにコンシェルジェさん達が終えてますから。この掃き掃除もなんとか見つけた仕事ですから」

「まあ、ありがたきこと。有難いわ……」

 エリカにも教えられる。お茶会の準備は既に終わっていたのだ。ヨルクの言葉通り、ゆっくりするのみとなった。

 アマリアは肩透かし感を否めない。だが、これが学園でも上流階級においても当たり前のことだろう。貴族でありながらも、自ずから準備から始めていた自分が珍しいのだと思い知らされた。

「では、ご案内しますね」

「わくわく」

 温室の扉を開いたエリカに、フィリーナも続く。では、とアマリアがさらに続こうとした時だった。

「―今日、本当に来てくれてありがとう」

「……ええ、こちらこそ?」

 声を掛けてきたのはヨルクだった。優しく、そして柔らかい声だった。アマリアもつい、立ち止まってしまった。

「こ、この雰囲気は……」

 開かれた扉の先ではエリカが様子を伺っていた。だが。

「あ、え、あっ!ま、まだ時間はありますからー。ごゆっくりー?でも、お姉様方が来る前までには、ですよー?」

「エリカ様、お待ちをっ!?」

 異常に気を遣ったエリカにより、目の前の扉は閉められてしまった。アマリアが伸ばした手も意味をなさなくなってしまった。

「どうしたのかな、彼女?普通にお礼を言いたかっただけなのに」

「な、なんと……」

 あの甘い語り口は、素だというのか。アマリアは照れを通り越して末恐ろしく思えてならなかった。

「……そう、お礼。そして、本音。本当に嬉しいんだ。もちろん、フィリーナちゃんもだけど、君が来てくれたこと」

「?」

「ただ、楽しんで欲しいなって。それだけ」

「ヨルク様……」

 アマリアが思い浮かぶのはここ最近の騒動。

―お茶会も断るまで考えた事。ようやく、ここ最近になって解決した事。このヨルクも無関係だったわけではない。むしろ沢山心配をかけた。

「はい」

 解決した今だからこそ、めいいっぱい楽しめる。アマリアはしっかりと頷いた。

「……うん」

 ヨルクも微笑んだ。

「……」

「……」

 それから。二人の間に静かな時が流れる。

「……そろそろ参りませんか」

「ああ、うん。そうだね……。うん……」

 良い話的に会話はケリがついたかと思えた。だが、どうしたものか。ヨルクは何かを言いたそうだった。

「……」

「……?」

「……やっぱり、可愛いな。可愛いんだよな、アマリアちゃん」

「……!?」

 唐突だった。驚くアマリアに対し、ヨルクは不思議そうにしていた。

「どうしたの?」

「……失礼ながら、こちらがお聞きしたいくらいです」

 アマリアにとっては突然過ぎることだったからだ。言われたのは初めてでもなく、またヨルクは何も自分だけに言っているのではないだろう、と。アマリアは日頃から言い聞かせていた。

「……あー、うん。何を突然言い出すかって?」

「ええ、まあ。そうですね」

「えっと。よく他の男の元に送り出せたなって。シュルツ君はよくわからないけれど。

―シャルロワ君とか」

「!?」

「ああ。……エディ、君はそう呼んでるね。彼、面白くないんじゃないかな」

 まさかだった。より爆弾を投下してきたのだ。アマリアの心臓は飛び跳ねそうだった。 

「そ、そのようなことは決して」

「あ、声裏返った」

「そのようなことも決して……!」

 これは揶揄われているのだろうか。いっそその方が良いと、アマリアは思っていた。冗談ならば、アマリアも深く考えなくて済む。

「……」

「……」

 目の前にいるヨルクはあくまで笑んでいる。彼がわからない。アマリアは頭を抱えたくなった。

「―なんてね。俺と二人じゃないってのは、わかってるだろうし。そうだと思ってたら本気で反対してくると思うし」

 ヨルクは笑う。いつもの笑顔だ。

「いえ、反対かどうかまでは……。今回は夫人も集ってますから」

「まあ、確かにね。……うん、確かに。主役は彼女達だ」

「なんと。ヨルク様も主役だと思います。楽しんで欲しい、そうおっしゃったではありませんか。当然、ヨルク様もそうでしょう?思いは同じです」

「そこまで言ってくれるんだ。ありがとう」

 ヨルクは感嘆していたが、アマリアには当然のことだった。

「そうですとも。それに、エディはエディで出かけてますから。レオ君とですね」

「ふうん、そうなんだ。仲良いんだね」

「ええ。男友達、といえるでしょう」

 第三者ながらも、アマリアははっきりと肯定する。

「……男友達」

 ぽつりと呟いて反応したのはヨルクだ。それが不可解だったアマリアだったが。

「……っ!?」

 一瞬ではあったが、頭がちくりとした。束の間のこと。

「……アマリアちゃん?」

 わずかながらも、アマリアが顔を顰めたことに気付いたのだろう。ヨルクは心配そうにしていた。

「いえ、ご心配には及びません」

「そう?」

 まだ心配そうにしているヨルクに、何てことないとアマリアはアピールする。

 これ以上、話し込んでいることもない。フィリーナとエリカも待っている。さらにヨルク派の少女達もやってくるだろう。二人はここらで切り上げることにした。


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