エディ、一歩踏み出す
週末を迎え、お茶会の日が訪れた。楽しい時間を過ごせた。そして、楽しい休日を過ごせた分、学園が憂鬱になる。それでもアマリアは日々真面目に学園生活を過ごす。
「ふわぁ……」
週明けになり、ようやくエディがまともに起きた。欠伸が止まない彼だったが、学園の授業には参加していたようだ。ほぼ眠りの中ではあっただろうが。
「わふ……」
エディは未だ欠伸し続けている。そのまま放課後になり、そして夜になってもだ。
「お疲れ様、エディ」
「先輩こそ」
二人は今、夜の校舎の中を歩いていた。門限はとっくに過ぎているが、エディは事情があって残っていたのだ。アマリアもそうだ。
「受けることにしたのね、―ナイトクラス」
「うん」
アマリアは初日の付き添いであるが、エディはこれから定期的に放課後以降も学園に残ることになる。
「そう、良い事だと思うわ。勉学は大事よ。知識は力にもなってくれるから」
「うん、それ会長にも言われた。しかも、ほぼまんま」
「いいじゃない。良い事だもの。そうね、私も彼がいたことに驚いたわ」
ナイトクラスが行われていた教室に向かうと、そこに学園の生徒会長がいたのだ。他の受講生に聞くと、わりと顔を出しているようだ。さらに、アマリアが言ったような内容をエディに告げていた。
「そうね、本当に良い事ではあるけれど、無理はしないでね」
「うん」
「本当に無理はしないで欲しいのよ」
「うん、わかってる。あと、レオンから教わった。ブーメランって言うんだって」
「なんと!レオ君にはあとで申し立てしなくては。エディもエディだわ」
「ははは」
「もう、笑ってくれるわね」
エディはエディであまり感情を表に出すタイプではないが、今の彼の顔は晴れやかであった。新しいことに挑戦しようとしている。それは現実でも。そして、舞台の上でもあった。
「エディはよくぞ……」
時間が迫っていたりもした。一連のごたごたがあって、エディには確認できずにいた。彼が踏み切ったことをだ。エディも察したのか、アマリアの方を向く。
「話そうか。―あっちで」
「……ええ、そうしましょうか」
二人は今宵の約束をした。落ち合う場所は劇場街だ。
今宵の劇場街もギラギラと輝いていた。いつもなら出待ちしているはずのエディがいない。アマリアはこの場で待つことにした。行き交う人達を眺めている。
生徒達が誰それの公演と騒いでいる。中にはヨルクの劇場を探し続けている生徒もいる。あれだけ騒がれているのに、彼の劇場が見つけ出されていないというのだ。
―いや、見つかったってやっぱりデマだって!誰だよ、言い出したやつ!
―言い出したからにはさ、責任もって案内してほしいよね。言い出した張本人!
―ああもう、気になる!ドロドロかな、愛憎渦巻いているのかな!?発見者さーん、ヒントだけでもー!
「……」
あれだけ注目を浴びるとなると、ヨルクも疲れるだろうとアマリアは思った。とはいえ、自分も興味はないのかというと嘘になる。
「先輩、お待たせ」
「いえ、私も来たばかりよ」
「ふーん」
「……言ってみたかったのよ」
「正直すぎる」
待ち人のエディがやってきた。あとは、一目のつかない場所に行こうとする。定番なのは封じられた劇場、アマリアのところか。
「やあ、君達」
向かおうとした二人に声を掛けてきたのは、ノアだった。ノアが、堂々と話しかけている。いつもなら奇をてらった登場の仕方なのにだ。アマリアはひとまず挨拶を返す。
「ごきげんよう、ノア様。どうなさったの?」
といっても、疑問をもっているのが出てしまった。ノアは何てことなく答える。
「いや、ボクも話があるのさ。とはいえね?いつものように乱入しては怒られるのではないか。そう思ってね」
「なんで俺みるの」
「ふふ、わかってるだろうにね」
おもむろにエディをみたあと、ノアは笑い声を上げた。エディは揶揄われたことにイラっとはするものの、ノアが加わることには特に反対しない。
「……別に俺は今日じゃなくてもいいから。とりあえずノア先輩も行こう」
「おお、シャルロワ氏!ご承諾、いたく感謝するよ」
大袈裟にお礼を言うノアを、エディは胡散臭そうな目で見ている。それに構うことなく、ノアはこれでもかと大仰に反応する。
「……そうだ、場所は変えないかい?そうだね―」
アマリアとエディは顔を見合わせる。いつものアマリアの劇場前ではないようだ。ノアもどこかまでは口にはしてない。それでも二人はノアについていくことにした。