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彼の恋の結末

 朝を迎え、アマリアは学園へと登校する。久々の一人での登校だった。

『いきなり一人はハードル高くない?』

『わたしも一緒にいくよ?』

 朝起きてまず、フィリーナとレオンと会話した。心配する二人も、アマリアは微笑んで返事した。

『ありがとう。でも、私は大丈夫よ。色々と心配もかけたし、力にもなってくれたわね。本当にありがとう』

 アマリアは二人に頭を下げた。それでも二人は思うところはあるようだったが、舞台の結末を見届けたこともある。それ以上言うことはない。

『本当に大丈夫か?』

『アマリアさん、急じゃない?心配なんだけど』

 新月寮の先輩達が心配そうにしていた。ただ、先輩方も今朝は特に忙しそうでもあった。エディは爆睡している。相当負担がいったのだろうか。これはしばらく起きなさそうなパターンである。

『はい。今回の件、お力になってくださり、本当にありがとうございました』

 会釈をしたアマリアは、そのまま寮を出た。もう心配はないだろう。アマリアはそう信じて一人で歩き出す。

『ふう……』

 朝の寒さがより厳しくなった。雪もさらに積もっている。暦の上でも本格的な冬は近づいている。


「ほら、アマリア様よ。いつもとお変わりなく……」

「すげぇ、強メンタルぅ。さすがだわー」

 学園までの道を歩いている最中もそうだったが、学園に到着するとさらに注目される。玄関口は人がかたまっている分、嫌でも意識をせずにはいられない。

「……」

 アマリアのストーカーの件は、すでに学園中に広まっていた。生徒会が出した『接触禁止令』。当人間で正式決定となったかは定かではない。それでも生徒達は先走って、そうなのだろうと勝手に納得していた。生徒達を助長させてしまっていた。

「それはそうなるのでしょうけれど……」

 しばらくはこの調子のようだ。アマリアは気が滅入るも、仕方ないと受け止める。

「あっ……」

「!」

 よりにもよってなのか。前方からやってきたのは、―フェルスだった。彼は大量の書類を抱えていた。

「お、おはよう!……ああ、これかな?まず君を見習ってみようと思って。良い心がけだとは前から思っていて……」

 フェルスは一方的に話しかけてくる。渦中の二人がこうしているのだ。なんだなんだ、と人がさらに集まってくる。

「……いや、気にしないで。それじゃ」

 フェルスは自信なさそうに体を抱え込んだ。すっかり萎縮していた。あれだけ自信に満ちていた彼が、今や小さく見えていた。

「……」

「本当に話しかけてごめん……。今度こそ、俺行くから……」

「フェルス様」

「な、なにかな!?……あっ!」

「あ……」

 呼びかけられたフェルスは、動揺してしまった。手にしていた書類をバランス崩してぶちまけてしまった。

「あ、ああ……、拾わなくては」

 慌ててフェルスはしゃがみ込む。アマリアも呼び止めてしまった責があると拾おうとするが。

―あー、拾っちゃうか。満更でもなかったと。

「……!」

 アマリアの取ろうとする行動を、周囲がまじまじと観察していた。そして思い思いに口にし始める。

―かっこわる、顔だけじゃん。

―悪い気はしてなかったんじゃない?相手、イケメンだし。

―でもさ、思うんだけどさ。……本当にアマリア様狙いだったと思う?

―うわ、誰かに重ねてってやつ?なんでだろ、ありえそうな気する……。

―やめなって。彼女大変な思いをしていたんだからさ。スルーでよくない?こんな人。

―こっちも関わりたくないわぁ。アイツやばいじゃん。

「……」

 フェルスを刺すような言葉たちだ。反応はしないまでも、フェルスは受け取っているのだろう。動きの一つ一つが重い。アマリアは立ったまま、フェルスを見ている。それが見下しているようにも見えたのか、フェルスはより堪えているようだ。

「……彼らもいたのね」

 アマリアはある存在に気がつく。遠巻きに見ているのは、フェルスの友人達だ。フェルスを助ける様子もなく、ただただ遠い場所から見ていた。

「ご、ごめん。ここは大丈夫だから……。行って、くれないかな。これ、俺の我儘なんだ。―これ以上、君にみっともない姿を見られたくなくて」

「……」

「はは、俺はいつまでも勝手なんだ……」

 フェルスはぼそぼそと喋る。相当の枚数を床に落としてしまったようだ。それを一枚一枚拾い上げていた。彼は笑われながらも続けていた。

「……さてと!」

 アマリアは突然大声を出す。周囲が驚き、話が止む。次にアマリアが取った行動は、―紙を拾い上げていくことだった。

「私が呼び止めたから。挨拶を返そうとしただけれど、それであなたはプリントを落としてしまった。責任を感じているだけよ」

「……アマリア様」

 フェルスは手を止めて、相手を見上げてしまう。

「手、動かしてくださるかしら」

「ご、ごめ……」

「あらあらまあまあ、先生の大事な書類をよくもこんな目に。汚してないからよかったものの。これだけの枚数をまあ……」

 アマリアは悪態をつきながらも、要領よく拾っていく。呆けていたフェルスは、また動きを止めてしまう。が、アマリアに冷たい目で見られると、今度こそ腰を据えて拾っていく。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう……。アマリア様、こんな俺にもまだ……」

 アマリアが集めた紙をフェルスは両手で受け取る。こんな自分にまだ優しくしてくれるのか、とフェルスの声は震えていた。

「あら。私は人として当然のことをしたまで。それと、先生が用意してくださったものを無碍にしたくなかっただけよ。……書類の方が大切なの、あなたなんかより」

「は、はは……」

 フェルスは笑うしかなかった。見ていた生徒達もドン引きしている。

「私にとってのフェルス様はその程度。―あなた達もそうなのかしらね」

「……!」

 これはフェルスの取り巻きに向けた言葉だ。フェルスの劇場まで訪れても、結局は舞台を観ることはなかった彼ら。

「見ているけれど見ていない。実際は目を背けたままなのね。まあ、私はどうでもいいけれど」

 それで終わるのなら、それならそれで。アマリアは最早この場には用はない。立ち去ることにした。

「……フェルス!手伝うよ!」

「これからは私達にも声かけてね?」

 去り際に聞こえてきたのは、フェルスに駆け寄る友人達の声だ。彼らの仲間意識は本物だったようだ。

「……ふう、魅力的過ぎるのも問題ね」

 アマリアは一人ごちる。アマリアの中では姉が魅力的過ぎるが故に、フェルスを狂わせてしまったとも捉えていたのだ。

―でさぁ、そろそろ学力試験も近づいているじゃんか。対策してる?

―ああ、全然!やばいよー、今回順位落ちそう!

―楽しいこと考えよ!その前の『月初の市』あるじゃん?さすがに開催するよね?

 生徒達の話題の流行り廃れは早いものだ。日常に戻ってきた。アマリアは一人、廊下を歩いていく。

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