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二人が抱え続けてきたもの

 新月寮に戻ってすぐ、エディの部屋へと通された。居間のカーペットの上に座ることになった。エディからクッションを各々に手渡されたが、遠慮なく尻に敷いたのはレオンくらいだ。次にブランケットを各々に手渡されたが、アマリアとフィリーナは遠慮する。レオンによって強制的に受け取ることになった。

「……」

「まあ、犯人はわかったわけだし。あとは生徒会長が成敗してくれるでしょ。納得いかなかったら。……まあ、ねぇ?オレの出番、来ちゃうかなぁ」

「頑張って。こればかりは本当に頑張って、生徒会長!」

 招いておいて無言のエディだったので、レオンとフィリーナで会話を切り出す。

「……現実だったら、これで終わる。でも『あっち』だとそうはいかない」

「……ええ」

 エディが重々しく告げる。ついに本題だ。

「フェルス先輩。……フェルスは、いつ狙われてもおかしくない」

「ええ、そう。……そうだわ、あの男に」

 現実だったならば。アマリアを付け回していた存在が発覚した。それから罪に見合った裁きを受けることになるだろう。

―だが、この学園ではそうはならない。アマリアが指すあの男、学園の支配者なる人物が許しはしないだろう。今回のフェルスの行為は学園にそぐわないと断罪する気だろう。

「あの男。……支配者だっけ、話だけは聞いてるけど」

 エディは支配者のことが認識できないようだ。それでもアマリア達からの話で大体は把握できていた。

「先輩は救いたいの。フェルスのこと」

「え」

 エディのあまりにもまっすぐな問いに、アマリアは狼狽する。嘘も許さないと、本音のみ語って欲しい。エディの瞳はそう告げている。

「あんたが今まで頑張れたのは、助けたいと思えた相手だからだ。それだけでもないけど」

「あ……」

 アマリアの本来の目的である婚約者の件、エディはぼかしてくれたようだ。アマリアはフィリーナとレオンに目を向ける。フィリーナも、そして色々あったもののレオンも。二人だけではない。前回のマレーナや前々回の乙女達もそうだ。

 支配者の思い通りにさせたくなかったのもある。それでもそれ以上に。彼らの消滅は免れたかった。痛ましくも迷える彼らを助けたかったのだ。

「……わたしは、あれこれ言える立場じゃない」

 ぽつりと呟いたのはフィリーナだった。彼女は続ける。

「あのね、アマリア。あなたと触れ合って、救われたのは本当なの。……でも、今回あなたが辛い思いをしてきたのを目の当たりにして。わからないの、フェルス様を救ってほしいっていっていいのか。アマリアの気持ちを考えたら……」

 フィリーナの愛らしい相貌が陰る。彼女は彼女で思い詰めているようだ。

「そんな……。あなたが胸を痛めなくてもいいのよ?」

「ううん。こう見えてずっと考えていたの。わたしも同罪だから」

「フィー!それは……」

 アマリアは言葉に詰まる。自分とて似たようなことを口にしたではないか。噂を広めた同級生達を同罪である。そう、はっきりと。フィリーナは噂を広めるような人物ではないにしろ。

「……同じなの。学園の皆と同じ。苛まれるあなたをただ見てただけ。……エドュアール様が、わたしをよく思ってないのもわかるの。虫がいいとも思われて当然。自分が救われたから、手のひら返したって。そう思われても仕方ないって」

 フィリーナは俯いたまま肩を震わす。明るく振る舞いながらも、フィリーナは思い悩んでいたのだ。

「……」

 エディは何も答えない。

「……最初からアマリア先輩の味方だったの、多分エディ君だけだったからね。オレみたいなのを助けたのも、よくやるもんだって思ったし。アマリア先輩、オレの時でも抵抗あったでしょ」

「それは……」

「フィーは違うよ。オレこそ言える立場じゃない。オレこそ、手出ししているわけだし。むしろあっちは直接手出しはしてないからね」

 もう一人のレオンも未遂だったとはいえ。レオン自身が阻止したとはいえ。アマリアを怖がらせたことは消えることはない。

「……オレは、アマリア先輩がどう思おうと止められない。もし先輩側にメリットがあったとしても、それ以上に気持ちが嫌だ無理だってなったらさ。……オレは言えないや」

「レオ君……」

 レオンもそうだ。彼も軽い調子でいながら、考えていたのだろう。

「……」

 エディは沈黙のままだ。

「……まあ、それでもさ。オレらは公演だけでも観てくるよ」

「え……?」

 レオンがそう話すと、フィリーナも同意した。何も言わないがエディもそうなのだろう。

「うん、しっかりと観てくる。―アマリアの分まで」

 俯いていたフィリーナも顔を上げた。

「いえ、私は」

「アマリアが来る気になるなら、それはそれでいいと思うの」

「私は……」

 アマリアが浮かんだのは、支配者の顔だ。前にも似たような事例があった。あの少年にはさぞかし気に入らないことだろう。一日目は様子見はしてくれるにしろ、気が変わらない保証もない。

「……話すこと、話したことだし。それじゃね、エディ君」

「……ああ」

 エディようやく声に出す。フィリーナもぺこりと頭を下げる。二人はアマリアを確認する。まだ、エディと話したいことがあるのだろう。あとはエディに任せて二人は退室した。

「先輩。今回呼び出したこと、脅しとかじゃないから」

 話したいのはエディもそうだった。彼から声を掛ける。

「ええ、そうでしょうね」

 それはアマリアにはわかっていた。エディはいつだってアマリアを心配して気にかけてくれていることもだ。

「考えてほしかった。……今回は、あんた自身が相当酷い目にあってる。それでも、救いたい相手なのか。今までは相手の弱さとか辛さとか見えていた。でも今回は違う」

「それはそうね……」

「正直になってほしいし、無理しないでほしい。今回の件であんたがどうしようと。―俺は受け入れるから」

「……ええ」

 アマリアはゆっくりと扉を閉めた。


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