心を取り戻してくれる存在たち
放課後となり、アマリアは一人廊下を歩く。一緒に帰る仲間達がいる。足早に下の階へと向かっていく。途中、嫌でも噂話が耳に入ってくる。
―ほら、あの人でしょ?ストーカーされてるの。
―いや、気の毒だけどさ。……二人に何があったのかは気になるんだよなぁ。
―それにさ、本当にあのフェルス君が?あの爽やかな人が?あれだけモテるのに?
―生徒会、動くようですよ。事前に調査の必要があるので、早くても明日ではないでしょうか。
―もうやだ……。昔のこと思い出しちゃったじゃない……。ストーカーなんて滅べばいいのに……!
「……嫌だわ」
アマリアは深い溜息をつく。フェルスが招いた現状も、被害を受けているとはいえ騒動の元になっている自分に対してもだ。
「……しっかりしなくては。きっと彼にも事情があったかもしれないわ」
このままにはしておけない。フェルスと話し合わなくてはならない、とアマリアは戒めた。丁度生徒会の話も耳にしたのだ。生徒会員を交えてなら、建設的な話は出来るはずだと。
「……そうでないと。嫌な予感がしてならないのよ」
学園のこの雰囲気もそうだ。散々経験した流れだ。
「彼はおそらく……」
フェルスはおそらくこのままでは―。
「……私は、それでも彼を」
アマリアに暗い影がよぎる。
「……私は彼をどうしたいの」
そう口にしたアマリアの瞳は淀んでいた。
「先輩」
「!」
アマリアは一気に意識が引き戻された。エディの声だった。そのエディ本人が今、アマリアの前に立っていた。
「迎えにきた」
「あ、ありがとう。有難いわ、エディ!」
アマリアは無理して明るい声で返事した。まるで自身に芽生えた『ある考え』を誤魔化すかのようだった。
「……いやー、エディ君。ガチ早歩きじゃん。つか、ほぼ走りじゃん?会長に見つからんでよかったね」
「すごいね、エドュアール様。息上がってない」
後からやってきたレオンとフィリーナも姿を見せた。彼らもまた、アマリアを迎えにきてくれたのだ。
「ありがとう。フィー、レオ君……」
「いやいや。ただ来ただけだしー。……って」
「ありがとう……」
「……うん」
強張っていたアマリアの表情が和らぐのがわかったのだろう。レオンはしおらしく返事した。見慣れた彼らが普段通りに接してくれる。アマリアはようやくひと心地つけた。
「えへへ。帰ろう、アマリア」
「ええ」
フィリーナが手を握ってくれた。その温もりにもアマリアはホッとした。
「……」
温かい彼らにアマリアは安らぐ。それでも確かに。
―黒い感情。それが先程までだ。アマリアには芽生えていたのだ。
「……」
エディが無言だが、何か言いたげだった。
「……あ」
アマリアは射すくめられた。エディはきっと見抜いているのだろう。エディは言いづらそうにしながらも、ゆっくりと口を開く。
「……寮に着いたら、話がある。俺の部屋に案内する。クロエ先輩の部屋はまずいから」
「……ええ」
アマリアは避けては通れない話だと察する。覚悟を決めて返事した。
「あー……。一応、オレらもいるので」
「うん、わたしも。ちゃんとお話、しよう」
二人も加わっての話のようだ。エディだけではなく、この二人もきっとわかっているのだろう。アマリアの考え、迷いすらも。