エディとのひととき。彼なりの決意
食事も終え、自由時間の現在。アマリアはエディと共に寮の談話室にいた。学年が違う二人はそれぞれの課題に取り組んでいた。エディもそうだ。アマリアが一人でいる時間を減らそうとしてくれていた。
「これが例の冊子?」
あらかた済ませ、一息をついていたところだった。本日の発表会でフェルス達が配っていた冊子だ。アルブルモンドの歴史や事象、この国との在り方が記されているものだ。
「ええ。しっかりと調べ上げられているわ。悔しいくらいよ。あとでクロエ先輩方にも貸す予定なの」
「へえ。……うん、そんな感じ。詳しいな」
エディはパラパラとめくる。ざっと目を通したあと、アマリアに返した。
「大体合ってるんじゃない。大体調べつくしていると、……思う。……俺も図書館で得た知識だから。アルブルモンドに関して」
「……ええ」
エディは記憶をなくしていると言っていた。学業や日常生活には支障はない。だが、アルブルモンド人であるエディは祖国でのことを語らない。なくした記憶に関係しているのだろうか。
「エディ。あなたは記憶を取り戻したい?」
「直球」
「答えづらい問いだったわね。もし、そうだったら力になれたらって」
「……」
エディは冊子に視線を残したまま、考え込む。
「……それすらも、わからない。それ、先輩は困る答え?」
エディなりに真剣に考えた答えだった。
「……エディ。いいえ。あなたが困ってないならいいわ」
「……そう」
「そうよ。あなたがいいならいいの。私の目の前にいるのはエディ。私の―」
「……」
エディに見つめられたことにより、アマリアは言葉が詰まる。彼女は言葉を選ぶ。
「私の、しっかり者の後輩よ。でも、ある意味先輩であるわね。『あちら』でも学園生活においても」
「なにそれ」
エディの表情が少し和らぐ。彼はこうも語る。
「……ふう。知ってることは多いに越したことなし」
「あら、そうね」
「その冊子。クロエ先輩の次、借りていい?」
「ええ、もちろんよ。クロエ先輩にもお伝えしておくわね。そうだわ、マレーネ様との課題の原文もあるのよ。そちらも一緒にお渡しするつもりだったの。エディもいかが?」
「……熱量、うざそう」
「今、うざいって言ったかしら」
「言ったけど、訂正する。熱量すごそう。読むのに気合が必要そうだけど、まあ、うん」
「無理強いはしないわ。気が向いたらで、ね?」
名残惜しい気持ちもあるが、そろそろ点呼の時間だ。
「食器、片付けてくるわね」
「俺も持っていく。……あのさ、先輩」
紅茶を乗せたトレイを手に、アマリアは立ち上がる。その時にエディに呼び止められた。
「俺は記憶を取り戻したいかはわからない。それでも、これは確実にわかる。俺だってあんたの力になりたい」
「!」
「それは確かだから。―あっちで出逢った時から、それは変わらない」
「あ……」
エディの強い眼差しに耐えられなくなったのか、アマリアは背を向ける。今の、今の自分の表情を見られるわけにはいかないと。
「……エディ、あなたこそ直球じゃない」
軽い笑い交じりに、アマリアはドアに手をかける。
「……食器。私一人で片付けてくるわ。おやすみなさい、エディ」
ようやく普段通りの表情になれたアマリアは、振り返って笑ってみせた。
「おやすみ」
エディもいつもの顔つきだ。表情はいつも通りながらも、彼はしっかりと告げる。
「俺、見つけてみせるから。あんたの力になれる方法」