やりかえした発表会
「―皆様はご存知でしょう。かつて、アルブルモンドと我が国は敵国であったと。最初は大樹の所有権を巡っての争い。さらには大樹信仰の弾圧も行われました」
「当時の隣国の大樹信仰は大きな批判を浴びました。生贄は高貴な血の者、多くの魔力を持つ者が望まれたといいます」
「!?」
『そうなの!?』と、アマリアは普通に仰天しそうになった。それはいけないと、発表に意識を戻す。
アマリアが展開する国交の裏側の話を、マレーネがうまく補ってくれている。加えて奥深い知識も披露してくれていた。事前に裏側の情報を得ていたアマリアならまだしも、マレーネも随分と詳しいものだった。
「この戦争により多大なる利益を得る立場があったのだとか。仕組まれた戦争という説もあります」
「真っ当なイメージがある『リゲル商会』もその恩恵を授かったとか……?」
「!」
『それは違うわ!』と、アマリアは素のまま反論しかけた。リゲル商会は尊敬すべき寮長の家業だ。今はまずいと、アマリアは発表を続ける。
悪役顔の令嬢はさておき、人畜無害そうなマレーネは意外そのものだ。よくもこう後ろ暗い話が出てくるものだ。クラスメイト達は戦慄が走ると共に、妙に感心さえしていた。ぎりぎりな話にすっかり興味津々であった。
「―今は良好な関係となりました。大樹という縁でつながった隣国でありますが、私達の世代でもつなげていきたいと思います。ええ、血みどろの歴史を。これまでの過ちを無駄にすることなく……」
課題である。アマリアは最後は真面目に締めた。だが必要以上に不気味に笑んでしまったため、教室中を震撼させるオチとなってしまった。
「はっ!ご、ご清聴ありがとうございました!」
その一人であるマレーネだったが、正気に戻る。慌てて頭を下げた。
「ふふふ、ありがとうございました……」
「アマリア様、戻ってきてください……。それに……」
マレーネは困り果てた。拍手も起こらない。気まずい沈黙が流れ続けるかと思ったが、拍手起こる。
「お疲れ様でした。色々と物議を醸しだしそうではありますが。……ですが、確かな資料に基づいた内容でした。用意された資料もかなりの枚数ですね」
教師からだった。続くように、マレーネの友人達、そしてクラスメイト大半からの拍手が送られた。
「は、はい。ありがとうございます……!ほら、アマリア様!」
「……あ」
マレーネに腕をつつかれて、アマリアは意識が戻ってきた。無事やりきったのだと実感したのだ。アマリアも勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「……今回は特例です。以後、学園に相応しい品位ある内容を心掛けるように」
「はい」
確かにこの内容は本来は学園的に望まれるものではない。某支配者が耳にでもしたら猛烈に批判してくるかもしれない。
アマリアとマレーネは席に着いた。大人しくクラスメイトの発表を聞いている。聞き逃した組は後日まとめられる文献で見る事にした。真面目な二人だ。
全組分の発表が終わり、残りは討論の時間となった。質問やら意見やらをぶつけあっている。アマリアは集中できずにいた。大人しいマレーネも積極的に参加することもない。二人は遠巻きに見ていた。
「……生贄」
「諸説ありますけどね」
アマリアが気になったゆえ、声に出してしまっていたようだ。それをマレーネが拾う。
「あら、そうなのね。……ええ」
アマリア自身も口にしていたはずだ。―血みどろの歴史だと。
「っと」
なんだかんだで授業に集中していなかった。しっかりと授業に意識を向けなくては。そう、アマリアは前方を見据える。
「……ええと」
「……」
それでも痛いくらい感じる視線は、フェルスによるものだ。彼は微笑んでいる。それでいて訴えるような眼差しだった。利用したのはまずかったのか。まずかったにはまずかったのだろう。彼は遺憾のようだ。
「……それは、こちらもよ」
わざわざテーマを被せてきたのだ。本当に彼らもやりたかったテーマだった、その可能性もなくはない。だがフェルスを含めた生徒達の言動、それをアマリアは好意的にとらえることはできそうになかった。
放課後になり、アマリアは上級生の階へと向かう。今日はクロエ、そしてクロエの犬呼ばわりの男子生徒と共に帰る予定だった。
「……」
階段を上る途中でも、アマリアは視線を感じていた。それとなく探っていても元はわからずじまいだった。
先輩方と合流したあと新月寮へと帰る。アマリアは二人を拝めつつも感謝しきりだった。先程の発表会の話をするアマリアを、クロエ達は暖かく見守っていた。
「……」
寮の先輩達と楽しくあろうとしている今、この時も。視線にさらされている。アマリアはそう思えてならなかった。