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してやられた発表会

「―国は昔から変わることなく。古くより同性婚、近親婚は禁忌とされています。特に近親婚は宗教に基づいたことにより、重い刑罰が与えられるのです。それは我が国もそうとはいえます。ただし、それは過去の話。今は新しい考えが根付き始めています」

 翌日、アマリアの教室内では課題の発表会が行われていた。自国の歴史に関する事であれば、内容はある程度自由である。発表の仕方もそうだといえた。図表を用いたり、ビラ紙を配布して説明をしたりしている。

「―アマリア様、いよいよですね」

「ええっ、……そうね」

 隣に座っていたマレーネが小声で話しかけてきた。緊張していたアマリアは、そのことにびくついてしまっていた。マレーネは平常心だ。そのメンタルは羨ましいものだ。

「きっとうまくいきますよ。それに、私達のテーマは珍しいでしょう?比べられることもないですから」

「……ふふっ。それもそうね」

 マレーネの発言。後ろ向きなのか前向きなのかがわからない。アマリアは思わず吹き出してしまった。おかげでアマリアの緊張も和らぐ。マレーネに感謝の気持ちを耳元にて伝えた。

「……!?」

 アマリアはある生徒からの視線を察知した。相手はフェルスだった。

「……あっ」

 アマリアと目が合うと軽く手を振ってきた。笑うフェルスとは対照的に隣の女子生徒は険しい顔をしている。アマリアはそそくさと発表する生徒達に視線を戻した。

 順々に発表を終え、フェルス達の番となった。友人達の励ましに応え、彼に憧れる生徒達はざわめき立っている。クラスの中でも人望の高いフェルスとそれに並び立つ女子。生徒達はいつまでも落ち着かないので、教師が静粛にと声を掛ける。

 教室内が静まったところで、フェルス達が発表を開始する。手製の冊子が回される。かなりの厚さである。それをわざわざ、この発表の為に作ったようだ。配り終えたところで二人は語り始める。

 軽妙でいて、それでも根拠に内容を語る。冊子が補足として機能しており、生徒達も静聴している。聞き惚れていた。

「……このテーマは」

「……ええ、まさか」

 マレーネが顔を青くしながら、わなわな震えていた。アマリアも深刻に受け止める。

 フェルス達が語る内容はまさに隣国アルブルモンドと母国のこと。国交による利害やこれからの展望。それを自分達の意見を交えながら発表しているのだ。―多少の違いはあれど、アマリア達とのテーマが被っていたのだ。

「そんなこと……」

「ええ……」

 落胆するマレーネにアマリアも同調してしまった。なぜテーマが被ったかはわからないが、彼らなりにしっかりとまとめ上げられた発表だった。発表が終わったあと、盛大な拍手が起こる。教師からも絶賛されていた。今日一番の発表であり、隣国との関わりをよくぞここまで調べられたとも。

「……」

「……」

 テーマが同じなのだ。この見事な発表のあとに、アマリア達の番が控えている。

「アマリア様、私……」

「マレーネ様?」

 俯いたマレーネがつぶやき始める。アマリアも体を屈める。そんな二人を覆う影があった。

「やあ、お二人とも。俺達の発表はどうだったかな?」

 朗らかに頭上から話しかけてくるのはフェルスだった。俯いたままのマレーネに代わってアマリアが答える。

「……ええ、素晴らしかったと思うわ。練られていたわね」

 すごかったのは事実だ。内容もさながら語り口も見事だった。自分達ではこうも惹きつけるようには出来ないだろう。アマリアは素直に認めた。

「本当!?……っと」

 感極まったフェルスが大声を出す。クラスメイトからの注目は続いていた。目立ってしまったこともあり、教師から咎められるような視線が向けられる。頭を下げながらもパートナーの女子生徒と共に席に戻ろうとした。

「そうだ、アマリア様」

 去り際にフェルスは言う。

「―君、パートナー選びさぁ?もうちょっと考えた方が良かったんじゃないかなぁ……?」

「!」

 まとわりつくような言葉を残し、今度こそ戻っていく。当然というべきか、マレーネにも聞こえるように言っていた。

「あなたという人はっ……!」

 フェルスだけではない。彼の連れである女子生徒も、友人達も嘲笑っていたのだ。彼らについては、アマリアも一緒くたにして笑いものにしていた。アマリア達が取り組んでいたテーマは知っていた。そして同じテーマを無謀にも繰り広げようとしている。二番煎じとさえも笑っていた。

「なんたる人達……!」

「……アマリア様」

 苛立ったアマリアの腕をマレーネは掴む。彼女は未だ俯いたままだが、掴む腕からは制止の意味が込められていた。

「……ええ、失礼したわ」

 他の生徒の発表が始まっていた。アマリアは出来るだけ邪魔しないように小声で話しかける。

「そうね、彼らのことよりもね。私達の発表だって負けてないわ。着実に準備を進めてきたもの。遅くまで残って、入念に準備して―」

 そう、アマリアもマレーネも頑張ってきた。誠実に取り組んできたのだ。隣国と自国の国交の関わり始めから丁寧にと―。

「……」

 それは既にフェルス達が語られていることだ。隣国の大樹による恩恵も。大樹に限らずとも隣国との新たな交流が築かれることも。アマリア達が調べてきたことは全てといっていいほど、フェルス達の発表で済まされていることだった。

「……それでいいの?」

 アマリアは問う。これから発表するのは、二番煎じと言われても仕方のない内容だ。

「アマリア様。私、私も……」

 言い淀んでいたマレーネが、ようやく口にする。

「……悔しいです」

 それは紛うことないマレーネの本音だった。

「ええ、私もよ」

 アマリアも頷く。思いは同じだった。

「マレーネ様。あなたの元々の知識量、そして私と共に調べてきた多くのこと。それは誇りに思うべきなのよ」

「……はい」

「私たちなりに、やってみない?悪あがきともいえるわね」

「……?」

 マレーネはゆっくりと顔を上げる。不安そうな顔のままではあったが、アマリアは教室の後方へと誘導する。ここで行うのは秘密の作戦会議だ。時間は迫っており、大まかな流れしか確認できない。ぶっつけ本番のようなものだ。

「―といった流れね。あなたの知識頼りな点があるけれど」

「……」

「マレーネ様。最終確認よ。元の発表に戻すのも有りね。先生は内容を評価してくださるはずよ。さすがに彼らの内容を盗んだとは思われないはず。創作物ならそうはいかないでしょうけど」

「……あなたという方は」

 マレーネはアマリアを見つめる。アマリアの方はすでに迷っていないのだ。

「―やりたいようにやる。やって良いのですよね」

「!」

 アマリアは心臓が飛び跳ねたかのようだった。劇場街の舞台とシンクロしてしまったからだ。ただ、マレーネには記憶はないはずだ。アマリアはその言葉を受け止め、力強く頷いた。

「いよいよ次ね」

 この発表が終われば、いよいよもってアマリア達の番である。

「……」

 拍手が起こり、発表を終えた生徒達が席に着く。ついに自分達の番がきたのだと、アマリアとマレーネは壇上へと向かう。途中で向けられるのは、フェルス達と比較されることの同情や侮蔑の眼差しだ。一方、やけに堂々としている二人が気がかりでもあったようだ。教室内は落ち着かない。またかと教師は静まるように命じる。

 ビラ紙、ましてや冊子など用意していない。アマリアは自国と隣国の周辺地図を黒板に張りつけた。

「―ペタイゴイツァ組の発表を始めます。よろしくお願いします。テーマは『自国と隣国アルブルモンドが歩んだ歴史とこれから』です」

 挨拶を終えたマレーネがちらりとパートナーを見る。テーマは変えずにいくとのことだった。やはりというべきか、教室内がどよめいていた。完成度の高いフェルス達と同じテーマは変わらない。動揺もするのだろう。

「よろしくお願いします。生憎、皆さんに配る資料は用意しておりませんの。すでに他の組が用意してくさったので、お手持ちの冊子をご参考になさってください」

「ぶふっ」

 生徒の一人が噴き出す。フェルスの友人達に睨まれ、その生徒は大人しくなる。ならざるを得なかった。

「私達が調べてきたことは、奇しくも彼らと同じ内容であります。そちらの冊子に記されていることは、まさに私達も調べていたこと。ええ、同じ内容ですとも。私達が先生に提出するのは、正当なる内容のものです。ですが、このまま同じ内容をというのも、……あまりにも、ではありませんか?」

 アマリアはクラスメイト達を見回し、最終的にはフェルスに向ける。

「あらかたの説明は彼らがしてくれました。―私達はさらに踏み込んだ内容をお届けしましょう」

「なっ!」

 フェルスは声を上げる。気分が高揚としてきたアマリアと意気込むマレーナは気合十分だ。

「ふふ……」

 アマリアはさながら舞台の上の悪役女優だった。

課題自体は真面目にやっていたようです。

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