悪い先輩達のお話。―アルブルモンド人より
帰寮後。エディは仮眠をとると言って自室へと戻っていった。そのまま熟睡コースなのだろう。アマリアは帰宅時間が遅かったこともあり、手短にシャワーで済ませた。
新月寮の食堂に着くと、寮長のクロエが手招きしてくれた。その隣には、クロエとは昔馴染みであるアルブルモンド人の先輩もいた。クロエを慕う男子生徒である。アマリアは有難くクロエの空いた隣の席に座る。
「―そうそう、そろそろ歴史を調べる課題の時期じゃないかなって。去年、私達もやったから」
「俺とお嬢が組んだんだよなー!この国『ディアマント』の商売の展望って感じで―」
「……ちょっと。『ノーヴァ』ね」
「あっと、いっけね」
クロエが慌てて小声で訂正する。寮生達がざわついたからだ。間違えてしまった少年の空笑いが寮にやけに響いていた。アマリアはアマリアで内心冷や冷やしていた。
新たに女王が即位し、この国はノーヴァという名をもって生まれ変わった。この国の民としてはなんとも触れ難い話題だった。アウトローの集まりともいえる新月寮でもそれはいえることだった。
「アマリアさんは決まった?」
「えっ!……ええ、決まっております」
急に話を振られてしまったアマリアだが、落ち着けつつもクロエ達に説明した。テーマは隣国アルブルモンドにおわす大樹のこと。そして隣国と自国の関わり方。そう伝えるとクロエ達は興味津々と言わんばかりに食いついてきた。
「へえー、結構踏み込んだテーマなんだ。うん、なんか気になることあったら聞いてね」
「うん、俺も協力する!アルブルモンド人ならではだねっ!」
「まあ。ありがとうございます!」
有難い申し出だった。アマリアが感謝を告げると、クロエ達もしっかりと頷いた。そんな二人が頼もしく思えた。しっかりとしたレポートになるとも。
「そんなん、インパクト重視っしょ!クロエ先輩、きわどいネタ提供、期待してるっす!」
「ねえねえ、なんか裏の話ないの?裏の話っ!」
食事を終えたばかりのレオンとフィリーナが通りがかった。そしてとんでもない発言をかましてきた。
「インパクト、裏の話ってねぇ……?」
「お二人とも……」
クロエが苦笑していた。アマリアもそうよ、と同感する。真面目な学園の課題なのだ。ただでさえ目をつけられているアマリアもだが、真面目な女生徒であろうマレーネを巻き添えにするわけにはいかない。
「いやいやー。アマリア先輩に求められているのは、そんな型にはまったものじゃないでしょー」
レオンのこの発言に、アマリアが聞き捨てらないと反応しようとしたところ。フィリーナはクロエにおねだりしていた。
「そうそう!クロエ様、お願いねっ」
「えー、お願いされちゃったぁ……」
クロエは満更ではなさそうだった。相変わらずのデレデレっぷりだった。アマリアは慌てて呼び戻す。
「クロエ先輩、もちろん課題は私達で取り組む所存です。気の向いた時で構いませんので……!」
日々多忙のクロエ達に負担をかけるのも良くないだろうと、アマリアは考えた。一方、クロエの話に聞き入るばかりに影響もされるのではないかと危惧もしていた。無難な課題が、怖ろしいものへと変貌してしまうのではないか。
「はっ!そうだ、課題だもんね!そんな、気の向いた時だけなんて寂しいこと言わないで?おっけー、無難ね!無難」
クロエはやたらと無難と連呼し、自身に念押しをしていた。その態度は却ってアマリアを不安にさせるものだった。
次はかなり区切らないと思います。