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真面目な二人と冷ややかなクラスメイトたち

「『大樹と我が国の結びつき』ですか。隣国ほどではないにしろ、私達の国も恩恵に授かってますからね。良い着眼点だと思います!」

「それは光栄だわ。では、まず大樹に関する資料から集めていきましょうか」

「あまり詳しく知る機会もありませんでしたね」

「本当、そうね」

 放課後になり、クラスメイト達は帰る準備を始めていた。騒がしかった教室内も静かになっていく。アマリアは、クラスメイトであるマレーネと共に課題を進めていた。

「……」

 アマリアは向かい合って座っている少女を見る。数時間前に彼女の公演を経たばかりだ。マレーネの表情が明るくなったとアマリアは思えた。

 二人でいることに白い目を向けてくるクラスメイト達は未だにいる。それでもマレーネは気にすることもなく、アマリアと接している。―マレーネには何か届いたのだろう。あの公演にも意義があったのだと、アマリアは静かに頷いた。

「アマリア様?」

「いえ、失礼したわ。課題のことを考えていたの」

 あまりにも見つめすぎていたようだ。普通は劇場街、舞台の出来事の記憶はないとされる。マレーネにとっては夢の中の出来事だろう、とアマリアは認識した。誤魔化しに言ってしまったこともあるが、今は目の前の課題に集中することにした。

 二人一組となってこの国の歴史に関する独自のレポートを提出することになっていた。共同作業の大切さ、自国の歴史の造詣を深めていくことが目的だそうだ。そして、その内容を授業で発表することにもなっている。そのあとは討論だ。

 テーマを自分達が選ぶのも自主性と独自性を養う為。この学園で何を言っているのかとアマリアは内心冷めた目をしつつも、建前というものかと納得した。

 テーマを自分達で設定しなくてはならない。相手に譲りあってばかりの二人は、やはり難航してしまった。たまに出てきたアイデアもひとまずは肯定し、それで行こうとする。だが、本当にそれで相手は納得しているのか?と遠慮が芽生えてしまっている。その堂々巡りだったが、ようやく。ようやくだった。

 アマリアが何気なく浮かんだ『大樹』という言葉にマレーネがくいついた。そこからはとんとん拍子であり、今に至る。テーマとなったその言葉が馴染みのある人物からだと、アマリアは未だに言い出せずにいる。

「このテーマはかなり興味深いですね。私の方でも色々と調べてみます」

「あら、心強いわ。負けてられないわね」

 お互いが笑い合おうとした時だった。

「ぷっ、なんか張り切ってるんだけど。学園の課題なんかに」

「かーわいー」

 華のあるクラスメイト達が張り切る二人をみて笑っていた。嘲笑といえたものだった。

「……マレーネ様」

 アマリア自身も気分が良いものではないが、マレーネのことも気がかりだった。公演があったとはいえ、こうしたものはやはり気になるのではないかと。

「……?どうかされましたか、アマリア様?そうそう、満月寮にも蔵書室がありますので。今度ご案内しますね。申請さえすれば大丈夫かと」

 アマリアは面を食らった。マレーネはあまりにも普通だったからだ。それに越したことはない、とアマリアは返事をすることにした。

「え、ええ。喜ばしいわ。楽しみにしてるわね」

「はい!」

 マレーネは今度こそにっこりと笑った。アマリアもつられるように笑った。

「なに、あいつら……」

 堪えてないことが面白くないと、絡んできた生徒達は荒んだ目をしていた。まだ絡もうとしているようだ。

「いいじゃないか。俺には輝いてみえるけどな」

「!」

 諫めようとする声がした。同じクラスの男子生徒、フェルスだった。天然であるパーマがかった茶髪に、温厚そうでもある甘い顔立ちを持つ彼。この学園でもモテる部類だった。現に課題で二人組む時は彼の取り合いが起こったという。

 アマリアの印象としては、まず同じ南部出身の人物であること。そして、学園に来た当初から親切にしてくれてきた人物だ。気になることはある。課題でパートナーを選ぶ時がそうだった。時々見せる暗い表情もそうだった。良い人のはずだ、とアマリアは考える。けれど引っかかるのも事実だった。

「面白そうなテーマだね。うん、良いと思うよ。テーマも何もかも。……うん、本当にいいなぁ」

 爽やかな表情で褒めるが、語尾はねっとりとしていた。

「ちょ、ちょっと!私達のテーマ決まってるじゃない!」

「あはは、そうだった。そうだった。それじゃ、アマリア様。頑張ってね」

 フェルスと組む女子に抗議された。ほんの軽口だったと言わんばかりにフェルスは軽快に笑う。それでも頬を膨らませるパートナーを宥めるように、もう一人の女子生徒もつれて教室を出ていった。アマリアだけ名指しされたのが、アマリア当人はただただ気まずかった。こうした経緯があったからだ。

 この課題を組む際に、実はフェルスからもお声がかかっていた。アマリアはそれがいつもの善意だと思っていたが、彼は他にも交流が盛んな生徒は多々いる。そんな人気者の彼を善意ということでペアを独占してしまっていた。それがアマリアは心苦しくもあった。そこでにペアを申し出てくれたのがマレーネだった。アマリアにとっては渡りに船だったので乗ることにした。

 フェルスがアマリアに対してしていることは親切心。同情心によるものだとしても、基本善意のはずだ。ただ、マレーネに横取りされる形になってしまったと、あの時の彼は暗にそう告げていた。マレーネのことをよく思ってないかのようだ。

「……フェルス様、いつからおいでだったのでしょうね」

 マレーネにしては低い声色だった。彼女としてもフェルスの言動は面白くないのかもしれない。指摘した内容もそうだ。マレーネも思うところはあるのだろう。

 さて、フェルスはいつからいたのか。

 あの女子生徒達はじろじろと見てきたので長くいたのはわかる。―フェルスはいつからだったのだろう。アマリアはその指摘に考えさせられた。ふらっとやってきたのかと思っていたが、それが違うのなら。

 あの女子生徒達のように、ずっといたのなら。

「……っと、時間そろそろね。有意義な時間だったわ」

「もうそんな時間なのですね。後片付けしましょうか」

「ええ」

 二人は帰寮の準備を始める。マレーネは別の場所で課題に取り組んでいる友人達と合流するようだ。途中までになってしまうがアマリアも一緒にどうか、とマレーネに提案された。だが、アマリアは昼食の時のことを思い出し、振り返る。


こちらのフェルス、ここから出張ります。

こっちもゲシュタルト崩壊しそうになりました。

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