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一つ星公演 星空庭園にて、マレーネはうたう②

 襲いくる植物の迷路を抜け、アマリア達は出口に到達した。東屋にてうずくまっているのは、お目当ての存在だった。令嬢さながらのドレスを纏っているのは、二つ結びの大人しそうな少女だった。

「マレーネ様……」

 今宵の舞台の主役だ。アマリア達の存在に気付き、マレーネは顔を上げる。だがすぐに自信なさげに俯いた。さらに縮こまる。

「……放っておいてください。私如きがおこがましかったのですから」

 否定の言葉と共に、マレーネは完全に背中を向けてしまった。

―急になんなの、あの地味子が。

―あの悪名高い『アマリア様』につきまとい始めたとか。なんだ、目立ちたい欲求でもあったのか?

―それとも、あれじゃない?最近アマリア様って男侍らせているから?おこぼれあずかろうとか?

「うう……」

 マレーネは耳を強く塞ぐ。それでも、植物を介した罵詈雑言は止まない。

「ぎゃあぎゃあ、うぜぇ……」

 忌々しそうにみたレオンは、断ち切ろうとする。だが、すぐに斧を下ろした。それでは根本的な解決にはならないのだろう。

「なんてこと……」

 マレーネに向けられた悪意のある言葉達。自分と付き合うことで、マレーネまでも悪意の的となってしまったのか。そして、苦しめてしまったのだ。

「……」

 マレーネはアマリアのクラスメイトだ。クラスでの居場所がなかったアマリアに、勇気を出してくれた声を掛けてくれた少女だ。最近になって授業の課題でコンビを組むことになり、交流も増えてきた。

―だからこそ、目をつけられてしまったのか。この交流は間違いだったのか。

「……それでも、嬉しかったのよ。声を掛けてくれたの」

 アマリアはぽつりと呟いた。それがマレーネの耳に届いたのか、彼女はゆっくりと顔を上げた。まだ背を向けたままではあるが、アマリアの言葉に耳を貸そうとしている。

「あなたと一緒にいると落ち着くの。博識であられるところも尊敬している。何より、私に声を掛けるなんて怖かったでしょうに。周りの目もあったでしょうに。勇気がある方だわ。良い友人になれた。そう思っているのよ」

「……アマリア様」

 罵りの言葉の波の中、アマリアの言葉がマレーネに伝わる。静かに響いていた。

「……私も、そうです。あなたに憧れて、仲良くなれたらって。……私」

 マレーネは声を震わせながら話そうとする。けれども、言葉が続かない。マレーネはそれ以上は言葉を紡げず、屈してしまっていた。

「ねえ、マレーネ様。私はあなたと友人のままでいたい。……次はあなた。あなたの望みが聞きたいわ。私を拒むなら、それも受け入れる」

「拒むだなんて、そんな!」

 マレーネは勢いよく立ち上がった。ようやく真正面を向けてきた。

「……どうしても、勇気がもてないのです。だからでしょうか、勇気溢れるあなたとお近づきになりたかったのかもしれません」

「いいじゃない。。光栄なことだわ」

「……でも!罵られているのは私なんです!……アマリア様が認められてきている一方で、どうして私のような冴えない存在が共にあろうとするのでしょうか。……それはおかしいって、周りから見えても致し方のないことなんです!」

 マレーネは何より周囲の目が気になってしょうがないようだった。主に悪い意味で目立つアマリアといることで、自分までもが視線にさらされてしまう。耐えられない自身に、弱い自身を恥じているようだ。

「周りがなんだというのかしら」

「……え」

「私は共にありたい相手といたいわ。周りなんて気にしていられる?私は周りの雑音なんかより、自分の気持ちが大事」

 アマリアの心の中では『周囲の意見も大事よ!』と注釈をたれていた。けれども、この舞台の上ではそれが必ずしも正解とは限らない。

「アマリア様……」

 今のマレーネ相手にとってもそうだった。アマリアの言葉が心からのものだったのもそうだろう。しっかりとマレーネはその言葉を受け取ったようだ。

「……私もそうです!だから勇気を振り絞った!あなたとお友達になりたかったから!」

「そう。嬉しいわ。……そうよ、あなたも」

 私も、とこっそりと付け足す。

「やりたいようにやっていいのよ。たまにはね?」

「本当にそうです?たまに、でしょうか?」

「やだ、たまにに決まっているじゃない」

 悪く笑うアマリアにつられるように、マレーネも悪戯な笑みを見せた。友情を確かめ合った悪い友人に影響を受けたかのようだ。

「あら……?」

 アマリアは耳を傾けた。舞台の上で響くのは、清らかな歌声だ。うっとりとしたのはアマリアだけではない。観客達もまた、心奪われ 襲いくる植物の迷路を抜け、アマリア達は出口に到達した。東屋にてうずくまっているのは、お目当ての存在だった。令嬢さながらのドレスを纏っているのは、二つ結びの大人しそうな少女だった。

「マレーネ様……」

 今宵の舞台の主役だ。アマリア達の存在に気付き、マレーネは顔を上げる。だがすぐに自信なさげに俯いた。さらに縮こまる。

「……放っておいてください。私如きがおこがましかったのですから」

 否定の言葉と共に、マレーネは完全に背中を向けてしまった。

―急になんなの、あの地味子が。

―あの悪名高い『アマリア様』につきまとい始めたとか。なんだ、目立ちたい欲求でもあったのか?

―それとも、あれじゃない?最近アマリア様って男侍らせているから?おこぼれあずかろうとか?

「うう……」

 マレーネは耳を強く塞ぐ。それでも、植物を介した罵詈雑言は止まない。

「ぎゃあぎゃあ、うぜぇ……」

 忌々しそうにみたレオンは、断ち切ろうとする。だが、すぐに斧を下ろした。それでは根本的な解決にはならないのだろう。

「なんてこと……」

 マレーネに向けられた悪意のある言葉達。自分と付き合うことで、マレーネまでも悪意の的となってしまったのか。そして、苦しめてしまったのだ。

「……」

 マレーネはアマリアのクラスメイトだ。クラスでの居場所がなかったアマリアに、勇気を出してくれた声を掛けてくれた少女だ。最近になって授業の課題でコンビを組むことになり、交流も増えてきた。

―だからこそ、目をつけられてしまったのか。この交流は間違いだったのか。

「……それでも、嬉しかったのよ。声を掛けてくれたの」

 アマリアはぽつりと呟いた。それがマレーネの耳に届いたのか、彼女はゆっくりと顔を上げた。まだ背を向けたままではあるが、アマリアの言葉に耳を貸そうとしている。

「あなたと一緒にいると落ち着くの。博識であられるところも尊敬している。何より、私に声を掛けるなんて怖かったでしょうに。周りの目もあったでしょうに。勇気がある方だわ。良い友人になれた。そう思っているのよ」

「……アマリア様」

 罵りの言葉の波の中、アマリアの言葉がマレーネに伝わる。静かに響いていた。

「……私も、そうです。あなたに憧れて、仲良くなれたらって。……私」

 マレーネは声を震わせながら話そうとする。けれども、言葉が続かない。マレーネはそれ以上は言葉を紡げず、屈してしまっていた。

「ねえ、マレーネ様。私はあなたと友人のままでいたい。……次はあなた。あなたの望みが聞きたいわ。私を拒むなら、それも受け入れる」

「拒むだなんて、そんな!」

 マレーネは勢いよく立ち上がった。ようやく真正面を向けてきた。

「……どうしても、勇気がもてないのです。だからでしょうか、勇気溢れるあなたとお近づきになりたかったのかもしれません」

「いいじゃない。。光栄なことだわ」

「……でも!罵られているのは私なんです!……アマリア様が認められてきている一方で、どうして私のような冴えない存在が共にあろうとするのでしょうか。……それはおかしいって、周りから見えても致し方のないことなんです!」

 マレーネは何より周囲の目が気になってしょうがないようだった。主に悪い意味で目立つアマリアといることで、自分までもが視線にさらされてしまう。耐えられない自身に、弱い自身を恥じているようだ。

「周りがなんだというのかしら」

「……え」

「私は共にありたい相手といたいわ。周りなんて気にしていられる?私は周りの雑音なんかより、自分の気持ちが大事」

 アマリアの心の中では『周囲の意見も大事よ!』と注釈をたれていた。けれども、この舞台の上ではそれが必ずしも正解とは限らない。

「アマリア様……」

 今のマレーネ相手にとってもそうだった。アマリアの言葉が心からのものだったのもそうだろう。しっかりとマレーネはその言葉を受け取ったようだ。

「……私もそうです!だから勇気を振り絞った!あなたとお友達になりたかったから!」

「そう。嬉しいわ。……そうよ、あなたも」

 私も、とこっそりと付け足す。

「やりたいようにやっていいのよ。たまにはね?」

「本当にそうです?たまに、でしょうか?」

「やだ、たまにに決まっているじゃない」

 悪く笑うアマリアにつられるように、マレーネも悪戯な笑みを見せた。友情を確かめ合った悪い友人に影響を受けたかのようだ。

「あら……?」

 アマリアは耳を傾けた。舞台の上で響くのは、清らかな歌声だ。うっとりとしたのはアマリアだけではない。観客達もまた、心奪われていた。

 二人の友情を祝福する歌声と共に、舞台の幕は下りていく―。


 内気なマレーネは勇気をもてずにいた。そんな彼女が学園で出逢ったのは、傍若無人な令嬢だった。悪評をものともせず堂々としている令嬢に、マレーネは憧れずにはいられなかった。マレーネは勇気を出して彼女に声を掛ける。晴れて友人となった二人だったが、マレーネもまた悪意を向けられることになってしまう。悪の華ともいえた彼女と、地味な少女。一緒にいるには相応しくないと考えるも、令嬢は周囲の目など知ったことかと強気だった。感化されたマレーネは、今一度自分の気持ちを確認した。あくどい友人との出会いは、マレーネを変えた。いたいけな少女が、ああ―。



一旦、マレーネの舞台は終えたようです。

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