プロローグ⑦ 秘めた思いの令嬢達の公演を終えて
お久しぶりです!
またお付き合いくだされば幸いです!
今までで出逢った人物で一番綺麗な人。多くの淑女や紳士とも出逢ってきたけれど、私がやはり思い浮かべるのは彼女だ。
―その人は私の姉。異母姉であり、母君似の彼女は私と似ても似つかない。私は直毛で体格も華奢ではない。私とは全く違う。柔らかでいて透明感のある姉は、浮世離れした美しさをもつ人だった。
見た目だけではなく、教職者としての知性も持つ。私は年近い姉の教育を受けてきた。厳しいときはあったけれど慈愛にも満ちていた。誠意ある彼女に故郷の生徒達が慕うのも当然だったと思う。内面も外面も美しい姉が、異国の王族から求婚を受けるのもそう。決して妹バカだからそう思ったわけではないの。
故郷の人達も誰しもが姉を見ると振り返る。姉が笑顔を振りまくと見惚れずにはいられない。あんな綺麗な人に微笑まれて、そして想いを寄せられたとしたら。惹かれない人なんているのかしら。
ふと考える。『彼』ならどうだったのかしら。今はそれを知る術もなく、思い出すことも出来ないけれど。
誰しもが姉を見つめる。花のようでいて、そして太陽のような人。焦がすような灼熱のそれというよりは、ひだまりのような人。姉が笑いかけてくれると、私も嬉しくなった。
『これ、南部出身の子にも聞いたんだけど、田舎町でも噂になって―』
『姉は才色兼備な方だったのでしょう?さぞかしお似合いだっだでしょうね。そんな姉を差し置いて―』
黒く渦巻く中、響くは嘲笑の声。私の生い立ちを責めて、そして嘲笑う人達。今でも私を苦しめ続けるもの。悪夢となって私の前に現れ、いつまでも忘れさせてくれないもの。
「はあはあ……」
暗い部屋の中、私は目を覚ます。今も尚、見る悪夢。目覚めたあとは、荒い呼吸が治まってはくれない。
「平気、平気よ……」
私は深呼吸を繰り返し、落ち着かせる。
私には大好きで大事な家族がいる。周りがどう言ってこようと恥じることなんてない。敬愛すべき姉もそう。自慢の姉だわ。
「……ふふ」
その心には偽りはない。けれど、純粋に思っているとは言い切れなかった。
いつも傍にいた私には眩しすぎた。―私は姉の影。今でもそう思うの。
この世界の中枢にあるのは大樹だった。大樹がもたらす恩恵により、世界には安寧をもたらされ、繁栄を極めていた。大樹を要する国に隣接するのが、新生した国『ノーヴァ』。
その国の南方に、寂びれた港町がある。軟弱な子爵が治めている。その子爵の息女、アマリア・グラナト・ペタイゴイツァはそこで生まれ育った。農業に家業にと日々を忙しく過ごしていた。
アマリアには婚約者がいた。だが、その彼が通う学園にて消息を絶ったという。ただ連絡が途絶えただけではない。―彼の存在自体が消失しつつあったという。婚約者を追って、アマリアは学園への編入を果たす。
あたたかな故郷から離れ、北端にある寒冷地へと旅立つ。辿り着いたのは名門校と謳われている『プレヤーデン』学園。一方、事情がある生徒を受け入れ先ともいわれていた。訳有りの子息や息女、それこそ隕石症を患っている青少年もだ。
編入したアマリアは、多くの価値観を目の当たりにしつつも、不思議な現象に出くわすことになる。眠りに落ちると訪れられる場所。―『劇場街』。劇場が連なる街である。
公演内容は、学園の生徒にまつわるものだ。そして、悪意に満ちたものだった。学園にそぐわぬ生徒を見せしめ、公開処刑にして断罪するといったものだった。それを超展開で執行するのが、学園の支配者と名乗る少年だった。
アマリアは成長した婚約者の姿を目にする。物語の体をなした上で、観客である生徒達を納得させられなければならない。もし、支配者による結末を迎えてしまったなら。学園が望まない生徒として、処罰されてしまう。そうして、存在が消滅してしまうのだ。
アマリアは婚約者を救う為にと奮起する。だが、迎えた結末は支配者による超解決。―すなわち、アマリアの敗北だった。だが、アマリアは諦めてはいなかった。彼女は生来諦めが悪かったという事もある。それだけではなかった。
自身の生い立ちや学園での振る舞いにより、周囲から孤立しつつあったアマリア。舞台においても、実に滑稽だっただろう。それを笑う事もなく、彼女と向き合ってくれた存在がいた。緑色の目が特徴的な異国の少年だった。アマリアが立ち直れたのも、彼の存在があったからだ。
処罰の対象になった生徒がまた現れた時もそうだった。アマリアは覚悟を決めて舞台に臨んだ。物語を通じ、選ばれし乙女達の秘められた想いを知ることになる。彼女達の物語は、アマリアが思い描く結末を迎えることができた。
アマリアは舞台の上では一人であった。一人で演じなくてはならなかった。孤独だった。だが実際は、そうではなかった。アマリアは改めて認識した。自分を支えてきてくれた人達の存在。そして、誰かに頼ることも大事だということを。
まるで劇のようだ。人の生は時に残酷で滑稽で、それでいて心を打つものもある。
この物語は、いわば劇のようなものだろう。それらの劇を通して、少女は人々の心に触れていく。
そうして辿り着く先には、きっと『彼』がいる。
少女にとってかけがえのない『彼』を取り戻していく。それがこの物語である。
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