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ノア様と優雅な朝食を

 アマリアは大きめのベッドで熟睡していた。上質なシーツの感触が心地よい。ほどよい硬さの枕から、寝返りを打つと沈むような枕へ。室温は冬とは思えないほど暖かく、寒さで体を縮こまらせることもない。アマリアは深い眠りについていた。

 アマリアは次第に目を覚ましていく。体をゆっくりと起こすと、辺りを見回す。

「なんと」

 意識が覚醒したと同時に、呆然とした。ここはアマリアの自室でない。壁紙からして違う。革を壁に張り、金箔や鮮やかな彩色をされていた。天井にあるのは小さいながらもシャンデリア。部屋にある家具は極度に華美ではないものの、上質な木材が使用されていた。

 鏡台にあるのは化粧道具が一式揃った箱だ。自らする必要があるが、申請さえすれば手に入る。

「彼女はとても素敵だもの。―ええ、ノア様の部屋だわ」

 アマリアはこの部屋の持ち主は想像ついていた。自分を良く見せる化粧に秀でている人物。ノア、その人だ。アマリアは今、意図もせずノアの部屋にいるのだ。

「ああ、なんということなの」

 アマリアは額に手を当てて唸る。ノアは試したいといっていた。入口を通る時に密着していたら、一緒にいられるものなのか。もう、ノリだったのか。面白半分だったのかもしれない。

 こうして巻き添えをくらったのはアマリアだ。寝間着のままで、寝起きそのものだ。身支度をするにも、部屋の主の協力を仰ぐしかない。ここは天下の満月寮だ。この姿で表に出るわけにはいかない。

「……同じ女性相手でも恥ずかしいわね」

 それでもと意を決したアマリアはノアの寝室を出る。 

「……ああ、アマリア君?」

 寝室を出た直後に、ノアと出くわしてしまった。ノアは何とも言えない表情をしたが、すぐにいつもの優雅な笑みに戻る。

「おはよう、アマリア君。よく眠れたかい?」

「え、ええ。ごきげんよう。快眠よ」

 早朝からノアの姿は整っていた。女子制服をきちんと着こなし、化粧も済ましている。よりアマリアの羞恥心は強まる。

「そう、それは良かった。……うん。まさか本当に、ね」

 ノアが気まずそうに目をそらしている。寝起き姿を見ないように気を遣ってくれているとアマリアは思っていた。どちらにしろ切り出さないといけない、とアマリアは頼む。

「……ノア様、顔を洗いたいのでお借りしても良いかしら」

「あ、ああ。もちろんさ。使ってない新品のあるから、それ使ってくれて良いよ」

「ありがとう。今度新品を返すわ」

「いや、ちょっとした迷惑料みたいなものだから。……いや、足りないね」 

 ノアにしては沈んだ声だった。

「おっと、引き止めるのもなんだね。好きに使ってくれていいよ。積もる話はそれからだ」

「……ええ、それでは失礼して」

 アマリアは体を洗うのは何となく遠慮したが、それ以外の朝の身支度は済ます。制服はどうなるかと思ったが、ノアが手配してくれていたようだ。アマリアの制服が届けられていた。取りに戻ろうと思っていた学生鞄もある。持ってきてくれたであろうコンシェルジェにも感謝しつつ、制服の袖を通した。

 アマリアが洗面所から出ると、食欲をそそるような匂いが漂っていた。

「やあ、来たね」

 机の上には食材が並べられており、ノアが近くで迎えてくれていた。これらもおそらくは食堂から取り寄せてくれたものだろう。机を挟んで向かいあうように椅子が置かれている。

「さあ、どうぞ」

「ありがと―」

 ノアが椅子を引いてくれようとしている。アマリアは習性のまま座ろうとするが、ふと考えがよぎる。中腰のまま留まっている形となった。

「婦人にやっていただくのって、不思議な感じね」

「……」

 ノアがそのまま固まる。アマリアは失言してしまったのか。

「―それは、いただけない発言だね。もてなそうという気持ちに性別など関係ないだろう?」

「それもそうね。失礼したわ。女性がやってもおかしいことなんてないわね」

 アマリアを座らせると、ノアも向こう側の席についた。

「いいや、全然?さ、料理が冷めないうちに」

「何から何まで悪いわ」

「それこそ、キミを新月寮まで帰す方が申し訳立たないよ。朝食の為にね」

「ま。では、お言葉に甘えてごちそうになろうかしら」

 いただきます、と互いに言うと朝食をとる。ノアがのっけから肉料理に手をつけていた。柔らかそうな肉は見た目からも食欲をそそる。朝からも高級食材をふんだんに

使用されており、アマリアも舌鼓を打った。

 ここらでノアが本題を切り出す。

「劇場街の件はすまなかったね。物は試しとやってみたのがよくなかった。……本当に連れて帰えることが出来るなんてね」

 それでノアは当初は気まずそうにしていたようだ。かわってアマリアは何ともないと軽く笑う。

「こんなこともあるのね。なんだか新鮮。ほら、女同士でもあるし。何も問題なんてないわよ、ええ」

「それもそうだね」

 ノアも淀みなく答えた。アマリアも笑うが、すっと真顔になる。

「……聞くだけ聞くわね。あなた、劇場街のこと覚えておられるの?」

「……っと。いや、ボクの言動からしてそうなるね。誤魔化すこともないか。ああ、覚えているよ。わりとしっかりとね」

 狼狽えたのは一瞬、これもまたノアはすんなりと認めた。アマリアは身近な人物たちを脳裏に浮かべる。彼らは『隕石症』という要因があって覚えていられる。となると、このノアも隕石症なのだろうか。ともかく、かなりデリケートな話となる。おいそれと尋ねられることではなかった。

「キミもだけどね、アマリア君?」

「ええ、そうね」

「ふふ、不思議な子だ。お互い詮索も野暮ってことで」

「……ええ」

 ノアこそ不思議で、そして不可解だとアマリアは思った。今になってアマリアが気づいたことがある。エディが自身の劇場を話す場に選んだことだ。わざわざ休演中の、それもそこまで注目されてない一つ星の劇場。だからこそエディは連れてきた。現にアマリアは『結末が決まってしまったあの日』以降、学園の生徒と会うことはなかった。

 そんな場所にノアが散歩といってやってきたのだ。何もかもがノリというだけかもしれないが、容易に受け入れるのもどうかとアマリアは考える。

「……!」 

 ノアと目が合う。考え込んでいる間、アマリアはずっと見つめられていたようだ。どこか探られているようにも感じてならない。アマリアは落ち着かない。それでもこれ以上不審に思われないようにと、笑顔で取り繕った。

 穏やかに会話を交わす内にメインの食事が終えられる。果物が盛り付けられたデザートもすすめられた。

「まあ、凝った造りなのね。崩すのが躊躇われるわ」

「そういうものかい?まあ、そういうものなんだろうね」

「そうなのよ。造形が見事なんですもの。ほら、こちらのリンゴ。薔薇のようになっているでしょう?」

「ふふ」

 アマリアが力説するとノアが笑ってきた。

「キミの愛らしい一面を知れることだし、アマリア君も気にしてないというならね。いつでも、泊まりにおいで?」

「あら、素敵なご提案だこと?」

 アマリアは鵜呑みにはしない。社交辞令だと彼女は認識した。

「だろう?優雅な朝を約束するよ。今朝は機会がなかったけれど、中々の入浴剤を取り揃えているよ。バスソルトに最近凝っていてね。朝食も今回はキミが好きそうだからと独断で選んでしまったけれど、種類は当然豊富だからね」

「まあ素敵」

「何より快適な室温を保てるからね。極寒なんてあるわけがない」

「す、す、素晴らしいのね?」

 アマリアはあくまでも鵜呑みはしない。正直、心はかなり揺れていた。

「―ね、アマリア君。もっと君のこと教えて。僕は君のことを知りたいんだ」

「!」

 目を細めて笑うノアに、アマリアは目を奪われてしまった。これは学園の婦人達が騒いでも仕方ない。アマリアはより納得が出来てしまった。

どこかのタイミングでタイトルのノア様づけ取れると思います。

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