表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/230

ノア様チャレンジ

 劇場街の入り口まで戻ってきた三人は、一旦そこで立ち止まっていた。それは、ノアが突然足を止めたからである。そこから動こうとしないので、アマリアが尋ねた。

「ノア様?どうなさったの?」

「ああ、すまないね。本日の話題について考えていたんだ。気の利いた返しが出来なかったから」

「あら。私の方こそおかしなことを聞いたものだから。気にしないでくださると」

「いや、ボクも気になっていることだからね。キミたちのことさ」

「わ、私達?」

 アマリアは身構えてしまう。彼女一人だけではない。この場にいるエディも含めてのことだろう。あ、と呟いたエディはきっと察しがついている。

「そちらのシャルロワ氏?彼が眠るキミを姫君のように抱き上げて、そして自室に連れていった。そのまま同衾したのか定かではない、とね」

「ええっ!?」

 アマリアは驚愕する。あらゆることに驚きを隠せない。まず、新月寮の出来事が学園中で噂になっていること。これは、寮生達の雑談から広がったのかもしれないが。それだけではない。お姫様抱っこされたということと、何よりその後が―。

「エディは自分の部屋に戻ったのよ。彼、どこでも寝られるの。それでも自分の部屋の方が落ち着くわよねっ?」

「なんかずれてない?……はあ」

 心なしか頬が赤いアマリアとは違って、エディは普段通りの表情だ。溜息をついた後に続ける。

「その抱き方も一番安定しそうって、だからそうしただけ。先輩を部屋に連れていったのも本当だけど、さすがに自分の部屋に戻ってる。さすがに」

 エディは表情を崩さない。アマリアも彼を見習って平静であろうとする。

「……そうよ?エディのは人助けよ。誓って不純なことなどないわ」

「おや、そうなのかい?これは失礼。……ふむ」

 ノアがこれで納得した。―わけではないようだ。

「いっそ、アマリア君を抱きしめながらも寝てくれていたらね?色々と判明したのだけれど」

「なっ!」

 ノアのとんでも発言にアマリアは声を上げる。隣のエディは静観している。彼はあくまでも無表情のままだ。

「……絶対にペースは崩さない。崩されてたまるか」

 と、エディは頑なに暗唱している。それもアマリアには不可解だったが、今はノアの言わんとすることが気になっていた。

「な、なにが判明したというのかしら?何も判明しないと思うわよ?」

「そうかな?」

「そうよ」

「どうかな。ボクはどうしても気になっていてね。ほら、夜を共にする二人があるだろう?なら、この劇場街に訪れる時に二人同時に来るはずだ」

「よ、夜を?……ええと、ノア様?」

「恋人同士を何組か出待ちしてみた。仲睦まじく同時に入場する二人もいれば、ばらばらの二人もいる。その差は何かなって。なら、キミたちならどうかなと気になった。そういうことだね」

「……そう、そういうことなのね」

 アマリアは聞いていて頭がくらくらしてきた。なので、そうとしか返事がしようがなかった。

「悪いけどしょうもない。それじゃ俺達はこのへんで」

「え、ええ。そうね、時間も迫っているものね」

 アマリアにとっては苦手な話題だったので、切り上げてくれたのは彼女としては助かった。

「おやおや、シャルロワ氏。キミは試そうとは思わないのかい?」

「おっ……」

「お?」

「……思うわけがない。それで、先輩の部屋に着いたらシャレにならない」

 と、エディは真剣な表情で言う。それでもノアの揶揄うような態度はそのままだ。エディはどこまでも冷静にあろうとする。

「手とか腕を繋ぐくらいの接触なら、そこまで影響がない。それこそ、がっちり密着するくらいじゃないと。……これでいい?」

「そ……」

―そうなのね、エディ!

 とは、アマリアは言うに言えなかった。やけに確定事項のように伝えるのも気にはなるが、扱いにくい話題なのだ。アマリアはただ静かに相槌を打つだけにした。

「へえ、為になったよ」

「ああそう。それは良かった。それじゃ今度こそ」

「キミは試す気はないんだったね。では、遠慮なく」

「……は?」

 エディは反応が遅れてしまった。エディが気づいた時にはすでに。

「ノア様、どういったおつもりで……?」

「―ボクの方で試させてもらおうかな?」

 ノアがアマリアを抱き寄せていた。長身とはいえ、病弱であると有名であるノアだ。それなのに、抱きしめる力は強かった。

「それでは、シャルロワ氏。今宵はこれにて、ごきげんよう」

「……は?いや、なに?待っ―」

 今になって取り繕えなくなったエディが、慌てて駆け寄ってくる。だが、間に合うこともなく。体を寄せ合ったまま二人を、エディは見送る形となってしまった。

なんでもかんでも試すのはいかがなものか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ