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レオンのちょっとした本音

「……ヨルク様、ご足労いただきありがとうございました。このへんで十分にございます」

「え、そう?」

 ヨルクとまったりと会話している内に、新月寮へと続く坂道が見えてきた。これ以上ヨルクを付き合わせるのも面目ない。アマリアはそう考えていた。

「せっかくだから、新月寮にも顔出してみたかったけどな。君がいつもお世話になっているからね」

「ヨルク様が新月寮に……」

 アマリアはつい想像してしまった。寮は騒然とすることだろう。

「なんてね。あの子達、待たせたくないから」

「ええ、そうですとも」

「今度、ゆっくりと遊びに行こうかな」

「なんと。……いえ、違います。大歓迎ではあるかと」

「ふふ、さっきから何それ。堅い」

 カンナの件も落ち着いたこともあり、ヨルクの表情も和やかなものになった。実に穏やかな雰囲気だ。

「―やっぱ、そうだ!おーい、アマリアせんぱーい!」

「って、レオ君?おはよう、早いのねー!」

「そうそうっ!たまにはって、やつっ!……ごふっ!」

「レオ君!?無理させてしまったわ!」

 前方から息を切らしながらやってきたのはレオンだった。運動着を着ていたので早朝ランニングをしていたようだ。レオンの登場で一気に騒がしくなった。

「はあー、叫びながら走るんのやば!って、あれ?あれ!?生ヨルク様だ!」

 アマリアの隣にいる生徒を見ると、レオンは驚いた。人脈が多いレオンでも、ヨルクと直接話す機会はそうそうなかった。

「レオ君……。ああ、シュルツ君か」

「シュルツくん?ああ、オレじゃん!ヨルク先輩、いつでもレオン呼び歓迎っす!」

 底抜けの明るい笑顔でレオンは言う。

「……うん」

 ヨルクは返事だけした。なぜか困っているようにも見えた。気を取り直してアマリアの方を見る。

「まあ、彼が来たからいいのかな。……良くもないけど」

「ヨルク様?」

「ああ、ごめんね。何でもない。俺は行くよ」

「は、はい。ありがとうございました」

 ヨルクは振り返って優雅に手を振る。そして来た道を引き返して、カンナの元へと向かっていった。

「いやー、びっくりしたぁ。ま、オレらも帰りますか」

「ええ、そうね」

 同じ寮へと二人は並んで帰る。生ヨルクを拝んだこともあり、レオンはしきりに興奮していた。そのままのテンションが続くかと思われた。

「……つーかさ、カンナちゃん絡み?」

「……ええ」

 劇場街での出来事を覚えているレオンには誤魔化しは通用しない。アマリアは正直に答えた。レオンは、そっかとだけ答える。それだけかとと思いきや、彼の表情からしてそうではないようだ。。

「……こっちからしたら、あれで終わっちゃったから。そっか、アマリア先輩はそれから奮闘してたんだ」

「奮闘。ええ、粘ってはいたわね」

「うん、想像つくわー。……一人で」

「……そうね」

 特に否定することもなかったので、アマリアは普通に答えた。レオンの言葉通り、舞台の上でアマリアは一人だ。『彼』の存在は確かに感じられるが、それで一人で動くには変わらない。カンナの公演で彼の気配がなかったのも気になっていた。

「……」

「きつくない?」

「それは……」

 アマリアは返答に迷う。それこそ普通に平気と答えようとは思っていた。いや、いたずらに心配させたくないと、平気だと口にしようとする。

「あ。それもあるんだけど。オレも、多分フィリーナちゃんも。こっちはこっちで辛い」

「……?」

「見てるだけしか出来ないの。見守るしか出来ない」

 レオンの真剣な面持ちだった。決して冗談ではないようだ。

「……いえ、そんなことないわ。見守ってくれて心強いわ」

「結局は何も出来ないじゃん」

 レオンが即答する。それは確かにそうと言えることだった。アマリアは答えに迷う。

「……まあ、巻き込みたくないとか。そんななんだろうけど」

「ええ。そうよ。……レオ君もフィリーナ様もそう。そのお気持ちは本当に嬉しいの。けれど、関わらないに越したことはないと思うわ」

「……ふーん」

「出逢ったばかりだけれど、あなた達も大切なの。また辛い思いをさせるかもしれない。私は望めない」

「ふーん」

「……まあ、いいわ。そういうことよ」

 レオンに一定の反応をされる。アマリアは言わんとしていることが伝わったのか。とはいえ、レオンが続ける気がないのなら、アマリアもそうだ。話を切り上げることにした。

「うーん。……まー、そういう人だからねー」

 これは納得したということで良かったのだろうか。

「どういう人かはこの際いいわ。あなた、毎朝走ってるの?感心ね」

「ううん、毎朝じゃない。気分」

「あら、そうなのね。足止めてしまったわね。また、寮でお会いしましょう」

 アマリアは本調子というわけでもなく。いや、いつもの体調だとしてもレオンのペースを邪魔をするわけにもいかなかった。アマリアはレオンを見送ろうとする。そのレオンはあっさりとこう答える。

「ううん、いい。なんか走る気分じゃないや。歩こ、アマリア先輩」

「そういうものなの?ええ―」

 それでいいのか、とアマリアは思った。けれどもレオンは気分、と返す。二人はそのまま寮へと帰ることになった。

コミュ力強のレオンでも、さすがに異国の王族には遠慮があったようです。

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