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新月寮での暮らしが始まる

学園内に入ったはいいものの、アマリアはただ一人放り出されてしまった。アマリアはがたがた震えながらも、手始めに案内板を探す。

「……?」

 黒い鳥が上空を飛び交っている。この寒空な中アマリアは心配する。一歩踏み出すも、そのまま鳥は飛び去ってしまった。何だったのだろう、とアマリアは首を傾げた。 幸い、案内板は入口近くにあった。寒さに耐えながらも指指し確認をする。自分が世話になる寮の位置を確認しようとする。だが、アマリアは困ってしまった。

「ど、ど、どちら、か、か、かしら……?」

 あまりの寒さに声が上擦ってしまった。長居は危険だとアマリアは認識した。

 学園を中心にいくつかの施設が連なっている。案内板に表示されているのは、満月寮と新月寮と名のものだ。学園近くにある寮と、北に位置する山中にある寮だ。イラストからして立派な外観の寮と、素朴で質素な見た目の寮だ。どちらかだろうが、アマリアは察しがついていた。おそらくは。

「うう……」

 寒い、という言葉が脳内を占拠しつつもアマリアは考える。

「あ、いたいた」

 雪を踏みしめる音がした。傘を差しながらやってきたのは随分と小柄な女子だ。学園のエンブレムが入ったコートを着用している。おそらく学園の関係者か、それとも生徒か。先程から二択の推理を強いられているアマリアだった。年は同じくらいと思われるので、おそらくこの学園の女生徒だろう。

 透明感のある肌もそうだが、緑色の大きな瞳をぱちくりとさせている彼女。おそらくアルブルモンドからの留学生だろう。

 雪の背景に溶け込みそうな、白銀の髪だ。長い髪の側面を編み込んでおだんごでまとめている。小柄さも、華奢な体つきもどこか自身の姉を彷彿とさせた。そんな彼女が近づいてくる。

「ええと。アマリア、さんよね?迎えにきました。私はクロエ・リゲルという者です。ついでに六年生です。よろしくね?」

「はい、初めまして。よろしくお願い致します。わたくしはアマリア・グラナト―」

 おじぎすると、相手の少女も笑顔になる。相手の緊張をほぐすかのような、柔らかい笑顔だった。やはり姉のようだと思った。その懐かしさにアマリアの顔も緩む。

「うん、よろしく!あのね、寒くない?いや、寒いよね、どう見ても。せめてさ、雪から身を守ろうか。これ、持ってくれる?」

「あ、あの?」

 姉に似ていたのは見た目と雰囲気だけだった。自然な流れで傘を持たされたアマリア。その懐にクロエが入り込んだので、とりあえず高さを合わせる。

「うん、ありがと。コート貸す?なんか尋常じゃない震え方してるじゃない?え、大丈夫?そう、無理はしないでね?来た早々、体調崩されたらまずいじゃない?そう、私は寮長さんなんです。急にうちの寮に編入生が来るってことになったって。もう、びっくりしちゃった。うちにご令嬢が来るの?しかも急に?って」

「さ、さよ」

「まあ、これも何かの縁だよね。ねえ、本当に寒そうだよね。急ごうか。うん、急ごう。ちょっと遠いけど、お話しながら行けばあっという間だよね。そうそう、ついでに寮則説明しちゃうね。といっても、うちの寮そこまで厳しくないから、安心して?」

「さ、さようで」

「ほら、寮にいる間くらいまったりしたいじゃない?みんな寮じゃ自由だから。基本好き勝手やっているから。だからあなたも少しは肩の力抜いちゃっていいからね?……あ、早く喋り過ぎたかも。ごめんね?」

「サヨウデゴザイマスカ。いいえ、、クロエ様。喋り過ぎということは」

 さておき。アマリアは相槌を挟むことさえままならなかった。そうこうしている内にそれなりの距離は歩いていたようだ。確かに話しながらの効果はあったのだろう。

「そう?そういえば、さっきからサヨサヨ言ってるなー、って思ってたけど。さようでございますか、ね!」

 よく口が回る。はきはきとした快活な少女だ。

「そうそう、様づけとかやめよ?他の呼び方にしてもらっていい?」

「他の呼び方、でございますか?では、寮長さん?」

「んー、もう一つ寮があるし。ここはシンプルにいっとこ?クロエ先輩、ね!」

「先輩?」

「わりと、皆そんな感じだよ?」

「クロエ先輩……。先輩、でございますか」

 口にすると、アマリアは照れくさくなった。

「そうそう。あとは、もう少しくだけた喋り方が出来ればいいかな」

「サヨウデゴザイマスカ」

「無理そうかな」

 喋っている内に着いたのは、こじんまりとした建物だ。案内板のイラスト通り、簡素な造りだった。テラスや庭園もあるだろうが、今は雪に埋もれてしまっている。限度が過ぎれば除雪はしてもらえる、クロエがそう説明してくれた。

 ここが新月寮だ。アマリアが当分生活を送る事になる。


 寮についてまず案内されたのが、大浴場だった。

『では、皆様にご挨拶を―』

『風邪引くから。あと、着替えは更衣室に置いておくね』

『まあ、何から何まで……。クロエ先輩はとても親切な方ですね。ありがとうございます』

『初日だけだよ。今後は基本的な事は自分でやってね。あっちみたく至れり尽くせりでもないし』

『はい、わかりました!』

『あら、良いお返事。あ、でも誤解しないでね。あっちと同じく、うちにもちゃんと料理や掃除番の人達もいるから』

 あっちとは満月寮だろう。クロエの道中の説明によると、良家の子供は大抵、施設が充実した満月寮になるのだという。そうなるように、婚約者の親である伯爵側もお金を積んでいた。だが、結局は伯爵とは無関係の生徒とみなされ、とてもじゃないが満月寮には迎え入れられないとなった。許可はなぜか通ったものの、学園にとっては素性の知れない人物に過ぎないからだろう。

 幸いなのか、一部だけでその事は伏せられており、アマリアは時期外れの令嬢として通っていた。現に寮長のクロエも普通だった。学園側も余計ないざござは避けたいのだろうか。

『長旅の疲れもあるでしょ?どうぞごゆっくり』

 というやりとりがあり、真っ先にアマリアはクロエによって浴場に押し込められた。 完全に体が冷え切っていたアマリアにとっては有難い申し出だった。白いタイルの浴槽につかっていた。丁度良い温度に彼女はひと心地ついていた。

「ふう……」

 人目がないからこそ、アマリアは全身の力を抜く。ようやく落ち着けたかと思った。

「あっれー?先客いるじゃん!」

「!」

 浴場の扉が勢い良く開かれた。アマリアは慌てて側に置いていたウイッグを被った。ぎりぎり間に合ったようだ。アマリアと同じくらい長身の彼女が、全裸を隠すこともなくアマリアの近くまでやってくる。

「ああー、さっきクロっちが話していたご令嬢かぁ。アタシはスーザン、六年生。よっろしく!」

 クロっちが誰なのか。アマリアはしばらく考えた。ようやくクロエを指しているのだと思い当たった。

「初めまして。わたくしは―」

 相手に失礼がないように、と立ち上がって挨拶する。スーザンは驚く。そして何か思い当たったようだ。

「ああー……、裸とか見て大丈夫だった?怒ったりしない?アタシ制裁されたりしない?」

 自分は裸を見せておいてだけど、と付け足す。

「いいえ、そんな!同性の方ですし。よく妹達もお風呂に入れてますから」

「……」

「あ……」

「ぷっ」

 令嬢にそぐわない行動だったかもしれない。アマリアは取り繕うとするが、相手は噴き出していた。

「……いやぁ、クロっちが言ってた通り。変わった令嬢だね。まあ、悪い子じゃないとは思うし。ん、うまくやっていけそ」

「!」

「多分うちの寮長もいっているだろうけど、ここでくらいは力抜きなよ。ほら、浸かるっ!」

「はいっ」 

 湯船に浸かりながら、二人はとりとめない話をした。

 あ、とアマリアは思い出す。そして赤面した。これは聞かなくてはならないことだ。アマリアは喉を鳴らす。

「つかぬ事お聞きします」

「ん?どーぞ」

「……」

「どした?」

「し、下着類は処分するというのは、誠でしょうか!こちらの給仕係の方に処分させるようにと仰せつかってまして」

「び、びっくりした。……ああ、それ?」

「はい」

「あー、いいよ。とっときなよ。まあ、学園では着ない方がいいかもだけど。洗濯の姉さん方に話しつけておくから。自分で洗っといた方がいいかもね」

「ああ、一安心です」

 スーザンのおかげで下着問題は解決した。アマリアは感謝の気持ちを述べた。スーザンも気が楽になったならそれでヨシと笑っていた。 

タイトルがネタバレしてます。

大したネタバレではないです。

クロエ先輩はすごく喋ります。アマリアは独り言が多いです。仕様です。

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