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プロローグ⑥ 道化の公演を終えて

あの時は思ってもみななかった。まさか彼がこの時から計画していたとは、思ってもみなかった。それから数年を経て、私はあの時は思ってもみななかった。まさか彼がこの時から計画していたとは、思ってもみなかった。それから数年を経て、私は彼からの贈り物を受け取ることになる。私にとっては大切な宝物だ。そんな宝物は今も。

―今もそう。私の胸元に隠されている。損傷が激しくて、原型もかろうじて留めているもの。それでも私の心の拠り所には変わりない。

 あの頃は幸せだったのだと思う。ずっと一緒にいられるのだと、当たり前のように信じられていたのだから。


 この世界の中枢にあるのは大樹だった。大樹がもたらす恩恵により、世界には安寧をもたらされ、繁栄を極めていた。大樹を要する国に隣接するのが、新生した国『ノーヴァ』。

 その国の南方に、寂びれた港町がある。軟弱な子爵が治めている。その子爵の息女、アマリア・グラナト・ペタイゴイツァはそこで生まれ育った。農業に家業にと日々を忙しく過ごしていた。  

 アマリアには婚約者がいた。だが、その彼が通う学園にて消息を絶ったという。ただ連絡が途絶えただけではない。―彼の存在自体が消失しつつあったという。婚約者を追って、アマリアは学園への編入を果たす。

 あたたかな故郷から離れ、北端にある寒冷地へと旅立つ。辿り着いたのは名門校と謳われている『プレヤーデン』学園。一方、事情がある生徒を受け入れ先ともいわれていた。訳有りの子息や息女、それこそ隕石症を患っている青少年もだ。

 編入したアマリアは、多くの価値観を目の当たりにしつつも、不思議な現象に出くわすことになる。眠りに落ちると訪れられる場所。―『劇場街』。劇場が連なる街である。

 公演内容は、学園の生徒にまつわるものだ。そして、悪意に満ちた内容だった。学園にそぐわぬ生徒を見せしめ、公開処刑にして断罪するといったものだった。それを超展開で執行するのが、学園の支配者と名乗る少年だった。

 アマリアは成長した婚約者の姿を目にする。物語の体をなした上で、観客である生徒達を納得させられなければならない。もし、支配者による結末を迎えてしまったなら。学園が望まない生徒として、処罰されてしまう。そうして、存在が消滅してしまうのだ。

 アマリアは婚約者を救う為にと奮起する。だが、迎えた結末は支配者による超解決。―すなわち、アマリアの敗北だった。だが、アマリアは諦めてはいなかった。彼女は生来諦めが悪かったという事もある。それだけではなかった。

 自身の生い立ちや学園での振る舞いにより、周囲から孤立しつつあったアマリア。舞台においても、実に滑稽だっただろう。それを笑う事もなく、彼女と向き合ってくれた存在がいた。緑色の目が特徴的な異国の少年だった。アマリアが立ち直れたのも、彼の存在があったからだ。

 処罰の対象になった生徒がまた現れた時もそうだった。アマリアは覚悟を決めて舞台に臨んだ。物語を通じて、学園の人気者である少年の影を知ることになる。もう一人の自分との対峙を経て、彼は自身と向き合うこととなった。少年の物語は、アマリアが思い描く結末を迎えることができ、彼の存在の消失は免れられた。

 

 まるで劇のようだ。人の生は時に残酷で滑稽で、それでいて心を打つものもある。

 この物語は、いわば劇のようなものだろう。それらの劇を通して、少女は人々の心に触れていく。

 そうして辿り着く先には、きっと『彼』がいる。

 少女にとってかけがえのない『彼』を取り戻していく。そうした物語である。彼からの贈り物を受け取ることになる。私にとっては大切な宝物だ。そんな宝物は今も。

―今もそう。私の胸元に隠されている。損傷が激しくて、原型もかろうじて留めているもの。それでも私の心の拠り所には変わりない。

 あの頃は幸せだったのだと思う。ずっと一緒にいられるのだと、当たり前のように信じられていたのだから。


 この世界の中枢にあるのは大樹だった。大樹がもたらす恩恵により、世界には安寧をもたらされ、繁栄を極めていた。大樹を要する国に隣接するのが、新生した国『ノーヴァ』。

 その国の南方に、寂びれた港町がある。軟弱な子爵が治めている。その子爵の息女、アマリア・グラナト・ペタイゴイツァはそこで生まれ育った。農業に家業にと日々を忙しく過ごしていた。  

 アマリアには婚約者がいた。だが、その彼が通う学園にて消息を絶ったという。ただ連絡が途絶えただけではない。―彼の存在自体が消失しつつあったという。婚約者を追って、アマリアは学園への編入を果たす。

 あたたかな故郷から離れ、北端にある寒冷地へと旅立つ。辿り着いたのは名門校と謳われている『プレヤーデン』学園。一方、事情がある生徒を受け入れ先ともいわれていた。訳有りの子息や息女、それこそ隕石症を患っている青少年もだ。

 編入したアマリアは、多くの価値観を目の当たりにしつつも、不思議な現象に出くわすことになる。眠りに落ちると訪れられる場所。―『劇場街』。劇場が連なる街である。

 公演内容は、学園の生徒にまつわるものだ。そして、悪意に満ちた内容だった。学園にそぐわぬ生徒を見せしめ、公開処刑にして断罪するといったものだった。それを超展開で執行するのが、学園の支配者と名乗る少年だった。

 アマリアは成長した婚約者の姿を目にする。物語の体をなした上で、観客である生徒達を納得させられなければならない。もし、支配者による結末を迎えてしまったなら。学園が望まない生徒として、処罰されてしまう。そうして、存在が消滅してしまうのだ。

 アマリアは婚約者を救う為にと奮起する。だが、迎えた結末は支配者による超解決。―すなわち、アマリアの敗北だった。だが、アマリアは諦めてはいなかった。彼女は生来諦めが悪かったという事もある。それだけではなかった。

 自身の生い立ちや学園での振る舞いにより、周囲から孤立しつつあったアマリア。舞台においても、実に滑稽だっただろう。それを笑う事もなく、彼女と向き合ってくれた存在がいた。緑色の目が特徴的な異国の少年だった。アマリアが立ち直れたのも、彼の存在があったからだ。

 処罰の対象になった生徒がまた現れた時もそうだった。アマリアは覚悟を決めて舞台に臨んだ。物語を通じて、学園の人気者である少年の影を知ることになる。もう一人の自分との対峙を経て、彼は自身と向き合うこととなった。少年の物語は、アマリアが思い描く結末を迎えることができ、彼の存在の消失は免れられた。

 

 まるで劇のようだ。人の生は時に残酷で滑稽で、それでいて心を打つものもある。

 この物語は、いわば劇のようなものだろう。それらの劇を通して、少女は人々の心に触れていく。

 そうして辿り着く先には、きっと『彼』がいる。

 少女にとってかけがえのない『彼』を取り戻していく。そうした物語である。

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