春になったら
歓迎会は早速行われていた。今も盛り上がりに盛り上がっていることだろう。主役はあの二人だけではない。アマリアとエディのもということで、エディを捜索するのをアマリアがかって出たのだ。結果、一番いてほしくはないところにエディがいた。
「……先輩?」
よりによって彼がいたのは、寮の屋上だった。扉が開く音で彼は振り向く。エディは一人夜空を見上げていたのだ。ガウンは着ているものの、寝間着の姿であったエディ。防寒対策など一切していない。アマリアは思わず正気を疑った。
「そ、そそ、そちらに、い、いたのね!エディ!あ、あなた、さ、さむくは」
「なんて」
「し、失礼したわね。私達の分もということで、歓迎会が催されているのよ」
アマリアはというと。あまりの寒さに歯がガチガチとなってしまっていたようだ。アマリアは気合で会話を続けることにした。エディと会話するのは久々ということもある。
彼がどこまで知っているかはわからない。だが、触れないならそれはそれでよしと思っていた。
「とりあえず、中入ろう。あんた本調子じゃないだろうし」
「そうね、お言葉に甘えるわ。悪いわね、エディ」
「別にいい」
エディに促されるまま、アマリアは室内へと戻っていった。
アマリアは振り向きざまに夜空を見上げた。満天の星空だった。今夜は一段と星々が輝いていた。だからこそエディも眺めていたのだろう。
「……歓迎会」
歓迎会の話に戻る。エディは気乗りしてないようだ。あまり騒がしいのは得意そうではない。
「気が向いたらでいいというお話よ。ただ、歓迎してくださる気持ちは本物だと思うから。顔だけでも出してもらえたら」
「……まあ、顔を出すくらいなら」
「そう。良かった。ああ、それと。ごちそうもあるし、皆様のかくし芸があったりするのよ?」
「……顔を見せるくらいでご勘弁を」
「はい」
エディなりの精一杯のようだ。アマリアはこれ以上無理を強いることはできなかった。
「先輩」
ひとまずは歓迎会が行われているダイニングルームへと向かおうとした時、アマリアは呼び止められた。
「星、好き?」
「ええ。前はよく観測していたわ」
「なんか変な聞き方した。まあ、星好きなのはわかった」
エディは一人納得している。何か考えているようだ。
「おかしくないと思うけれど?また機会があれば観測したいわね」
「極寒な中?」
「ああ、冬は厳しいわね。そうだわ、春なら―」
暖かくなった春なら寒さに震えなくて済む。春になった頃なら。
「そうね、春は……」
―その頃には自分はこの学園にいるのだろうか。
「……」
アマリアが言いやめた言葉の続きをエディが待っている。
「……って、逃げ腰はよくないわね。上等よ。冬の星座達、待ってなさい?私は簡単に屈したりしないのよ!」
アマリアは防寒対策をしっかりすることを胸に誓った。
「……ガタガタいってる未来がみえる」
「なんと!言ってくれるじゃない、エディ?それでは、近い内に大観測会を開きましょうか。主催はこの私よ。希望者も今から募らなくては」
「……希望者。……しかも俺、頭数に加えられてる?……大観測会とかの」
歓迎会以上にエディのテンションが低かった。彼の一言一言が重い。
「ご明察ね、エディ」
「……はあ」
「……エディ?」
万感の思いを込められたため息だった。さすがにアマリアも気にする。
「あくまで希望者よ?」
「……別に観測自体嫌じゃない。うん」
エディは廊下へとつながる階段を下りていく。けれど、途中で足を止める。
「―春も一緒に見よう」
「え……」
アマリアにとって予想だにしていない、そして返答に困る言葉だった。
「えっと、大観測会?ってやつ、何回もやりたいんじゃないの?」
エディはさらりとそう言う。
「……ええ。素敵ね」
「ん」
答えになっていたかはわからない。エディもひとまずはこれで終わりとしたようだ。
―春までいるかもわからないのに。
「じゃあ、考えておいて。ほら、先輩。……せっかくだし、俺も少しは参加するから」
エディの方から歓迎会に出向こうという提案がきた。あまり待たせるわけにもいかない。
「ええ、行きましょうか」
アマリアもそう返事した。
アマリアが取り戻したのは、かつての彼への呼び名。そして、二人は想い合っていたということ。このまま二人は仲睦まじく、幸せでいられると思っていた。
この時の彼女はまだ知らない。
ある記憶を取り戻した時。痛みと苦しみが伴うことを。そして。後悔することになる。
この時の彼女はまだ、知る由もなかった。
一旦区切ります!
お読みくださりありがとうございました!