表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/210

ルフナ 卑怯 5/20 小石をたくさん集めた後~

 目的もなく集めていた石を、ひとつだけ左の手の平に乗せた。湿った石はひんやりとしていて、握り締めると心地よかった。

「ディバイド教官は、確かに、俺に卑怯だと言ったことがあった。しかし、あれは決して嘲りなどではなかった。それを漏れ聞いた奴等は、そうは思わなかっただろうがな」

「嘲りじゃなかったって。。。じゃあ一体なんなの?」

卑怯なんて言葉を悪口でもなく言う理由が、わたしには全く理解できなかった。ヴァレンはわたしの問い掛けには答えずに、今度はわたしが集めておいた歪な石を、勝手に、ひとつひとつ慎重に積み始める。わたしは挑まれたような気がして、隣で同じように積み重ねようとした。

そしてヴァレンは、先に4つ、石を積んだところで手を落ち着けた。

「国軍の1任期目は特別でな。見習いの2年と、正規の2年に大きく分かれているんだ。希望すれば2年刻みの2期、3期と続くわけだが、その見習いの2年が終わる頃に、その後の配属の希望を聞かれるんだ。。。その時にな、教官と口論になった」

「教官って、わたしにはよく分からないんだけど、要は先生だよね?先生と喧嘩するなんて、ヴァレンはすごいね」

わたしは好機とばかりに、3つ目の石に神経を尖らせたまま返事をした。

「ははっ。別に、凄くない。。。。。あれは、口論と呼べるものではなかったかもしれないな。今思うと、俺はただ、諭されていたのだろう」

わたしがちらりと目をやると、ヴァレンは笑いを堪えるみたいに、頬を強ばらせていた。その隙をついて、わたしは更に、4つ目の石に手をかける。

「俺はその時、いずれは近衛騎士として、国王陛下に仕えたいと。。。言ったんだ!」

ヴァレンは、そこでもう一度、水辺に石を放り投げた。わたしはそれが遠くへ飛んで、大きな、美しい波紋を見せるのを、間違いなく目撃した。

「それは、いけないことなの?」

「いや、そんなことはない。国軍が国を守るものなら、近衛騎士は王を守るものだ。ただ、その違いは俺が思う以上に大きかった。。。俺に足りなかったのは、覚悟だ」

わたしは、5つ目の石を右手に持って、それを積むのを躊躇していた。同時に、たった今、自分が抱いた小さな疑問を前にして、ヴァレンの顔を見ることもできなかった。

「ヴァレン!ごめんなさい!ちゃんと、分からないの。どこがそんなに違うの?」

国を守るものと、国王様を守るもの。それは結局のところ、同じもののように思った。そこに、どんな大きな違いがあるのか。今のヴァレンは、その違いにこそ、大きな隔たりがあるのを悟った様子だった。それなら私がその意味を疎かにしたままでは、ヴァレンの現在の気持ちを理解できるはずがなかった。

無知め、と、わたしは自分を無言で罵った。

「なんだ?なにも、謝ることじゃないだろう?厳密に語るなら、そこには、この国の成り立ちも関係しているからな」

ヴァレンは、無知め、とは言わなかった。そんな素振りすらなかった。嬉しかった。でも、ヴァレンが平然としていたから、わたしも、その気持ちを表に出すことはしなかった。

「その違いを理解するには。。。そうだな。。。ジュラの国には、"国王は、国を一時的に預かるものとする"という建国からの決め事があるんだ。細かい所では、王の御座(おわ)すタハルマが、王都ではなく、首都といわれるのもそこからきている。"名門"などは、王族が驕ることがあれば、それに取って代わって国を支えるように、と組織されたそうだ」

ヴァレンは、そこで再び5つ、6つと石を見事に積んだ。わたしはそれを見届けると、右手の石を置いてヴァレンを見つめた。

「それでも王族の人達は、長年、皆に支持されるぐらい、凄い存在だったんだね」

「優れていたかは、おまえが好きに判断するといい。ただ、愛されてきたことは、この200年が証明している。その愛されている国王陛下に、騎士の誓いを立てることが目標だと言ってのけたわけだ」

騎士の誓いとはなんだろうか、と口を開きかけたところで目が合った。すると、ヴァレンは片頬だけを緩ませて、わたしの疑問を汲み取ったことを告げた。

「騎士の誓いは、自らの命と一生を捧げるという宣誓だ。元々は貴族の習わしと聞くが、この国ではな、多くの者がそれぞれに心の中で、王に誓いを立てているんだ。だから、近衛騎士のように、王の目前で、王に誓いを立てるということは、それだけで栄誉なことなんだ」

「光栄なことだから、尚更、生半可な覚悟じゃ駄目ってこと?」

「そうだな。俺は守護者のクラスを授かってから、盲目的に近衛騎士を目指していた。マハルジオン様と同じように、王と共にあらねばと、それこそが天から俺に与えられた使命だと、そう思い込んでいたんだ」

5歳の、幼いヴァレンを抱き締めてあげたくなった。幼いヴァレンは、守護者というクラスに縛られて、自らの意思に蓋をしていたのかもしれないのだ。

「だがな、愛されている国王陛下は、俺が守るまでもなく幾重にも守られていた。俺のスキルが役にたったことなど、一度たりともなかった。俺が守るべきは。。。俺の強力なスキルで守らなければならなかったのは、最前線(よそ)にあったんだろう」

「ディバイドさんは、ヴァレンが国王様を守る必要なんてないよって、そう言ってくれてたんだね?」

「あぁそうだ。その上で、俺が本当にやるべきことをやらないのは、そこから目を逸らすのは、卑怯だと言ったんだ。俺はあの時、それでもその助言に耳を貸すことはなかった。後悔するぞ、とまで言われていたんだがな」

「そっか。そうなんだね」

わたしはヴァレンの後悔の意味が、ようやく理解できた。卑怯者という言葉の、正しい意味も。

気付くとヴァレンは、石を9つ目まで積み上げて、手持ち無沙汰になっていた。わたしは左手で握り締めたままだった、まん丸な石をヴァレンに手渡した。

するとヴァレンは、その石をじっと見つめた後、塔のてっぺんに乱暴に置いた。途端に、その見事な塔は崩れてしまって、砂の上にめちゃくちゃに散らばった。

「ふんっ。結局は教官の言う通りに、後悔しているわけだ。更には突然現れて、嫌味まで言われてしまった」

崩れた石のひとつを拾い上げて、ヴァレンは再び、石を放り投げ始める。わたしも、まん丸な石をひとつだけ投げると、それは近くで、ぽちゃんと可愛らしい音を立てた。その気の抜けた音に、わたしの中で張り詰めていた緊張の糸は、ぷつりと切れた。

「そうか!ガルシアのやつめ。去り際のあの合図は感謝か、あるいは謝罪かもしれんぞ。恐らくだが、おまえは、あいつの尻拭いをさせられたんじゃないか?」

「へー。。。ん、なんでそう思うの?」

デートと難しい話で酷使されたわたしの頭は、もはや考えることを放棄していた。同じようにヴァレンもまた、さっきまでの強張った顔を緩めて、ニヤニヤと歪ませた。

「おまえは知らんだろうが、あいつはエレスに来てから毎日、冒険者とつるんでいたようだぞ。諜報などそっちのけでな」

「え?密偵さんだったのに?」

「あぁ。紹介所で何人かに話を聞いたから間違いない。そんなことをしていた理由は知らんが、情報が来ないことに苛立ったディバイド教官が、エレスに来ることを、突如、決めたのだとしたら、あいつの焦りようにも説明がつく」

そう言われれば、ガルシアに初めて会ったのも街の外だった。あれは確かに、偶然という感じがした。わたしが納得していると、ヴァレンは足を水に浸しながら、砂の上に寝そべった。

「そうだね、確かにそうかも。あんまりじろじろ見られてなかったらいいなぁ」

今にも煙が吹き出しそうな頭は重たくて、わたしも砂浜にごろんと寝転がる。もう何も考えずにいたいのに、ディバイドさんの悲しい顔と、ガルシアの追い返せという言葉が頭の中を引っ掻いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ