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ルフナ 可愛い子 5/18 9:30頃~

 シエラさんは、わたしを抱き締めていた腕を解くと、にこっと笑ってみせた。

「ヴァレンはそんなに器用じゃないわ。私にはずいぶん優しくしてくれるけど、あれはきっと、大人になってしまった自分を見せるのが、まだ恥ずかしいのね」

ちらりとディール君に視線を移すと、シエラさんはさらに目を細める。

「周りの人には無愛想でしょう?でも、あなたには心を許してたんじゃないかしら?大市で見かけた時、私はそう思ったわ」

わたしもそうだと思っていた。でも今は少し、自信がなくなってしまった。気持ちがしおしおになって、どうしようもなかった。

「わたしは。。。よく分からなくなっちゃいました」

「ふふ?」

しおしおのわたしに対して、シエラさんは挑発するように笑った。わたしはシエラさんがそうする意味が分からなくて、ぽかんと口を開いた。

「あの子があんなに無愛想になってしまった理由は、聞きたくないかしら?あれでも昔は、とても素直で、可愛いかったのよ?」

「あはは!素直で、可愛い、ヴァレン。。。ふふっ」

でも、あのヴァレンが、素直で可愛いという言葉に、思わず笑い声が漏れた。

シエラさんは綺麗で落ち着いた大人の女性という印象だったけれど、その中にどこか、やんちゃな男の子のような、たくましさを感じる。

「今のヴァレンしか知らないわたしには、ちょっと想像がつかないですね。ヴァレンといえば、最初はただの怖い人でしたよ」

「そうでしょ?あの子ったら、自分の職業(クラス)が分かってから、強がりばっかりしてるのよ?」

自分のことばっかりで、わたしはヴァレンの職業だって知らない。ヴァレンは教えてくれるだろうか。怒られたり、嫌な顔をされたりしないだろうか。

「今でも外では、ムスっとしてて、隙を見せたくないみたい。見習い兵士だった時に、周りから卑怯者呼ばわりされたのも、影響してるんでしょうけどね」

卑怯者、と言う所で、シエラさんは語気を荒くした。

素直で可愛いヴァレンは想像できなくても、どうして卑怯者なんて呼ばれ方をされなきゃいけないのかと、怒りがわいた。

「なんだか、わたしもムカムカしてきちゃいました。仲間に対して、卑怯だなんて。なんでそんなこと言われちゃったんですか?」

「そうそう、その意気よ。卑怯っていうのは、ただの妬みね。ヴァレンの言う、"守り"を見たことはあるかしら?」

それは丁度、昨日、わたしが目の当たりにしたヴァレンのスキルのことで間違いなさそうだった。あの見えない不思議な盾のようなものは、確かに相手からすれば、訳が分からないかもしれない。

「はい!魔獣の体当たりから、助けてもらいました。珍しいスキルなんですよね?」

「ええ。それはもう、とても珍しいものよ。模擬戦みたいな一対一だと、あの子はほとんど負けなかったみたいね。見習いなのに、上官にだって勝てちゃうんだから、面白く思わない人はたくさんいたでしょうね」

気付けば鍋の中身が、くつくつと小さな音を立て始めていた。シエラさんは話をしながら、鍋の中のアクを綺麗にすくい取る。

わたしは、少し幼いヴァレンが、嫌味な上官を見事にやっつける所を想像した。それは凄く痛快なことだった。

「ヴァレンの職業(クラス)については、まだ聞いたことがないみたいね?ステータスに関わるお話だから、仲直りしたら本人に聞いてみて。ヴァレンだって、ルフナさんに聞かれたのなら、ちゃんと教えてくれるわよ」

「仲直り。。。今度は、ちゃんとできるかなぁ。。。」

さっきのヴァレンの怒りが頭をよぎって、また少し怯んでしまった。わたしがまたも、しおしおになりかけるのを見て、シエラさんはくすくす笑いながら、かまどの炭を少し崩した。

「ヴァレンは不器用だから、親しくない人にはツンとしてるわ。でも、不器用だからこそ、親しくしたいなっていう人には優しいものよ。あの子があなたにそういう態度を見せたことは、きっとたくさんあるんじゃなぁい?」

「うーん。。。見たことはあるんですけど、わたしがあまりにも馬鹿なことをするから、仕方なくっていうのが多かったような気がします。。。」

手の平に、あの温かさを感じたような気がして、顔が熱くなってくる。どちらも誤魔化せるように、すぐに頬っぺたを手で隠した。少しだけ下を向いて、シエラさんから見えないようにした。

「そ、それに!ヴァレンは護衛だから、毎日一緒にいてくれるんです。今まで褒められたことなんてほとんどなくって、呆れられるばっかりで、ほんとに恥ずかしいばっかりで。。。」

声は、気持ちと一緒にどんどん小さくなっていく。けれども、シエラさんがその両手をゆっくりと伸ばして、わたしの肩をしっかりと掴んだ。

「あなたって本当に、抱き締めちゃいたくなるのよ。大きさも、なんだか丁度いいし。男の人の前で、あんまりそんな感じでいると、危ないわよ?」

シエラさんはそう言いつつ、再びわたしを抱き締めた。良い香りがするなぁと、ぼんやりしていると、玄関の扉が乱暴に開かれる音がした。

「あら、お帰りなさい。ずいぶん早いじゃない」

「姉さん。。。何をしてるんだ?」

「いいでしょう?羨ましかったら、もっとルフナさんと仲良くしてあげなさい」

シエラさんはわたしの頭越しに、とんでもない言葉を発してからわたしを解放した。そして、わたしにお玉を手渡すと、ディール君の隣へと行ってしまった。

同じように呆気に取られているヴァレンと目が合ったけれど、わたしはすぐに目を逸らした。

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