ルフナ お弁当 5/17 多分遅めのお昼御飯~
6つ目のタブレットを交換した所で、昼食休憩を宣言した。腹ペコで、今度はわたしがふらふらしていたかもしれない。
「今日のお弁当は特別なんだ~!」
昨日、ヴァレンとは大市で別れた。ヴァレンには、まっすぐ教会へ帰ると言ったけれど、わたしはその途中にあったお魚屋さんに、ふらりと立ち寄った。帰り道にたまたまあったのだから、まっすぐ帰るという言葉に嘘はない。お魚屋さんには、なかなか気の利いた売れ残りがあった。
「そっちのは、わたしが作ったんじゃないよ~。姉さんが、えへへ!とっても大きいのを用意してくれたんだー!」
姉さんは昨日と一昨日、紹介所に行くわたしに、甘ーいパンを持たせてくれた。そのおやつみたいなパンは、わたしのために朝早くから、わざわざ焼いてくれるものだった。それなのに昨日は夕飯の最中に、わたしは姉さんの心配を振り切るみたいに、どこまでも身勝手な言葉を並べ立てた。だから今日はもう、そんな優しい応援なんて、期待することも許されないと思っていた。
けれども今朝は出掛ける時になってから、姉さんは大きな背負い鞄を何も言わずに渡してくれた。そこには自分で用意していたお弁当や水筒も、いつの間にか一緒に詰め込まれていた。それらの隙間からちらっと見えたのは、いつもの倍以上ある大きさの菓子パンだった。それを見たわたしは、堪らず姉さんをぎゅっと抱きしめて、ぼそぼそと感謝の言葉を告げた。
「んん!?ルフナには姉がいるのか?!」
「あ!違うの。わたしが勝手にそう呼んでるだけ。ロレアっていう、素敵な修道女さんなの」
ガルシアが知らないのは当然だった。わたしも呼び慣れてしまって、もはや本当の姉のように思ってしまっている。
背負い鞄から、まずはわたしが作った、二人分のお弁当を出した。何故二人分なのかというと、ハゼットには今日の協力のお礼にと、お弁当を用意する約束をしていたからだ。
中身は昨日までと同じようなサンドイッチだけど、今日のものは具が特別なのだ。
「たくさん作り過ぎちゃったから、二人もちょっと食べてくれない?」
姉さんの作ってくれた甘いパンは、きっと皆で食べるために、とっても大きくしてくれたんだと思う。おかげで、ハゼットとわたしの二人では、太刀打ちできなさそうだった。
どちらも食べ切れないのは困る。だからわたしは、ヴァレンとガルシアにも、本日のサンドイッチを一切れずつ差し出した。
「今日のはエビが入ってるの!エレスエビじゃない、多分、普通のだけど。あとは、トマトと緑豆が入って、ます。。。」
最初から最後まで、全部自分で作ったものを、誰かに食べてもらうのは初めてだった。教会での調理は、常に誰かと一緒だった。おかげで今日も、味付けには困らなかった。それでもやっぱり、誰かに食べてもらうのはドキドキする。
全員の口に合うかは分からない。せめて、誰か一人だけでも、美味しいと思って食べてほしかった。だからこそ、お魚屋さんに残っていたエビには、本当に感謝している。
エビが好きな人なら、わたしは一人だけ知っているから。
「うまい!食いしん坊のルフナでも食べ切れないと言うなら、私に任せてくれ!」
「ありがとう!ちゃんと食べられる味で良かったよ」
さっきから、ハゼットが盛んに褒めてくれているけど、欲しかった言葉のはずなのに、どうしてもしっかり耳に入ってこない。
心臓の音だけがうるさく聞こえて、一口齧ったサンドイッチも、味がよく分からないままに、口元を隠すための道具みたいになっていた。
わたしの目は、ヴァレンの右手に渡ったサンドイッチから、ずっと離されずにいる。
それが今、その形を大きく変えた。
頭がどんどん重たく、熱くなる。それを支えていた首は、耐え兼ねたみたいに、ぐにゃりと曲がる。
「あぁ。確かにうまい。酸味が効いてるのが良いな」
その声を聞いたら、なんだか凄くほっとした。顔を上げると、手の中にあった、少し形の崩れてしまったサンドイッチを一口で頬張った。今度は、ちゃんと美味しかった。
美味しいものを食べたら、疲れもすっかり吹き飛んで、音も味も、ちゃんと分かるようになった。
「エレスは魚介が豊富で面白いな。このエビも、首都で出るものより随分うまいぞ?ルフナの手腕によるものかもしれんがな」
ガルシアは既にサンドイッチを食べ終えていた。
「。。。っありがとう!わたしも、エレスのお魚屋さんに行くのが楽しいんだ~。タコにだけは、なんでか出会えてないんだけど」
口の中のものを飲み込んでから、ガルシアに返事をした。今はもう、きちんと誰の顔だって見ることができた。
「サンドイッチはわたしが作ったものだけど。。。こっちのは~、さっきも言った、姉さんの作品だよ!」
布に包まれたままのパンを、鞄からゆっくり取り出した。
「はっはっは!でかいな!!」
ガルシアが大声で笑ってから、率直な感想をくれた。今日のパンは、ふっかふかで、それでいてわたしの顔がしっかり隠れるぐらいには大きかった。
「そうなの!こんなに大きなのは、初めてなんだ~」
皆の前に、包みのまま、しっかり掲げてみせた。改めて見るとそのあまりの大きさに、わたしも思わず笑顔になる。ハゼットは目をつむって、鼻を動かしていた。
「甘い香りがするね。パンはパンでも、菓子の類いなんだな?」
「うん!それに、凄いのは大きさだけじゃないんだ~」
朝にちらっとだけ見たけれど、それでもワクワクしながら包みを開いた。そうして中から表れたものを見て、三人はそれぞれに驚嘆の声を上げる。これは予想通りだった。
「ロレアらしい。。。凄まじい、色、だな。。。」
ヴァレンが絶句寸前といった表情で、丁寧に感想を述べた。
「凄いよね。とっても手間がかかってると思うよ」
今日のパンは、紫と緑と赤、それに黒色の4色が地層みたいに見事に分かれたものだった。
「これは、どうして。。。こんな色をしているんだ??」
わたしが惚れ惚れしながらパンを見ていると、ヴァレンも、じっとパンを眺めながら問いかけてきた。
「えーっと、理由としては、怒り。。。かな?作り方としては、乾燥させた野菜を細かく砕いてから、生地に練り混んであるんだって。大丈夫!絶対に、とっても美味しいから!」
わたしはパンを大きめにちぎって、食べてみせた。味はやっぱり、美味しかった。でも、あえて何も言わずに、にっこり微笑むだけに留めた。
ガルシアがパンに手を伸ばすと、他の二人も恐る恐るという感じで、少しだけパンをちぎり取った。三人は顔を見合わせてから、息を合わせるようにして口の中に放り込んだ。
「なんだ、味は本当にまともなんだな!うまい。面白いことをする人がいたもんだ」
ガルシアは、今度は大きくちぎったパンを、にかにかと愉快そうに眺めている。そこでわたしは、ガルシアの前に置かれていたものに、今さらながらに気が付いた。
「あれ?それって干物。。。?魚だよね?」
小魚をそのまま丸ごと、日干しにしたものだろうか。生まれ変わって初めて見るのに、凄く懐かしい感じがした。
「そうだ。乾物屋に山程並んでいたんでな。携行食まで肉じゃなく、魚ってのがなんともエレスらしい」
ガルシアがひとつ、干物をつまみ上げると、そのまま口に放り込んで、にかっと笑った。
わたしが大市で干物を見かけたことは、一度たりともなかった。よく見に行くお魚屋さんでは、生の魚達が並べられているだけだったはずだ。
「え~?どこにあったんだろう。。。」
「おまえは露店の方にしか行かんからな。本屋のあった通りには、乾物屋があるんだ。漁村とエレスとの契約で、干物に関しては、その店でしか取り扱いがない」
じろじろと丸干しを眺めていると、ヴァレンが横からきっちりと教えてくれた。本屋さんといえば、大市の脇にある、ガッチリした造りの建物ばかりが並んだ通りにあったはずだ。私にとっては、少し縁のない通りだとばかり思っていた。
「きちんと調査する必要があるね!」
わたしはサンドイッチを手にしながら、干物に思いを馳せた。けれども、パンと魚の干物という2つが、どうしても頭の中で結びつかなかった。エレスの人たちはどのように食べているのか。教会に帰ったら、姉さんに菓子パンのお礼をしてから聞いてみようと思った。
お昼御飯の後、わたしはヴァレンと一緒に、再び中央で歩くことになった。三人ともまだ、名前で呼び合わずに変なあだ名で呼び合っている。
さっきはああ言ってハゼットに注意したけれど、男の子同士の遊びみたいなものだと思うから、特別に今日までは許してあげることにした。




