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ルフナ お兄ちゃん 5/15 5:00~

 ふと頭を上げて時計を見ると、ぴったり5時を指し示していた。すでに蝋燭もいらない程、食堂も明るくなっている。さっきまでの身体の異変は吹き飛んでいた。いつの間にか、わたしは居眠りしていたみたいだった。

椅子から立ち上がると、すぐに礼拝堂へ向かった。身体も、心も軽かった。これから皆に謝りに行くはずなのに、昨日は誰にも会いたくなかったのに、今はこんなにも皆に会いたい。

カレンさんの夢については、わたし達3人だけの秘密にすることになった。眠ってしまう前に、そのようにアレンさんの方からお願いされてしまった。わたしもアレンさんにだけは、大切な記憶を伝えられたから、それでいいと思った。


 礼拝堂の扉を開くと、すぐ目の前にびっくりした顔の姉さんがいた。姉さんの動きは素早くて、わたしが謝る前に抱きすくめられてしまった。

「何でも相談しなさいって言ったじゃない。まったく、この子は。。。」

「ごめんねぇ。もう大丈夫かなって思ってたから」

姉さんはわたしより、頭1つ分は背が高いから、抱きしめられると息苦しかった。それでも元気になったことが伝わるように、窮屈な体勢のまま、わたしも姉さんを抱きしめた。

「すみませんね。私が大体の事情をしゃべってしまいました。サリードは気付いていたようですよ」

アレンさんが横から、そう教えてくれた。姉さんの肩越しに周りを確認すると、ヴァレンの姿だけがない。ちょっぴり寂しい気もしたけれど、問題はない。アレンさんに返事をしようともがいても、姉さんの力が凄くて、小さく頷くのがやっとだった。

「ちょ、ちょっと!苦しい。。。皆にも謝らなきゃだから」

胸の中で大暴れしてみせると、姉さんはやっと解放してくれた。そして、ようやくサリード達にも目を向けると、わたしは少しだけ頭を下げてから、黙っていたことを謝罪した。それでも皆は、ひとつも怒らなかった。やっぱり最初から、隠さずに打ち明けるべきだったんだと、胸がきゅっと痛んだ。

「僕だって、何か悩みがあるんだろうぐらいには思ってたんだよ?でも女の子の悩みなんて、僕には分からないからね~」

サリムは、やっぱりにやにやしながら言って、子供にするみたいにわたしの頭を撫でた。いつもの子供扱いだったけれど、今日は不思議と嫌じゃなかった。

「うん。実はわたしも、サリムには助けられたんだ。サリムには多分、覚えてるっていう嘘を、ほとんどつかずに済んだから。ありがとうね」

サリムとは、記憶が安定しだした頃にたくさんお喋りした記憶があった。嘘をつかないでいいから、気兼ねなくお友達になれた。

「俺は3日目の会話や何かを、何故かルフナが忘れてしまっていると、ずっと不思議に思っていたんだ」

今もわたしを気遣うような優しい目をしたまま、サリードがぽつりと呟いた。

「やっぱり今まで、何か変だった?書き漏らしてることもいっぱいあるんだろうなぁ。。。」

日記を取り出して、3日目の記録のページを、自分にだけ見えるように開いた。

「いや、一番不思議だったのは呼び方だ。3日の朝、農園に着くと、ルフナは俺のことを、お兄ちゃんと呼んだんだ」

「お、お兄ちゃん!?な、なんで、わたし。。。そんなこと。。。」

びっくりして、日記を落としそうになった。わたしの日記に、そのような記述は一切なかった。

「あの日のルフナは、知っている人や物を自慢するみたいに、俺に色々と話してくれたんだ。小さい妹が出来たみたいで、可愛いらしかった」

頭から湯気が出そうだった。恥ずかしくて、日記に何か答えがないかと必死で探る。でもその行動自体は、記録から何となく察していた。3日目のわたしは、どこまでも自由だったような気がする。

「あんまりその日のことは、思い出さないでもらえると嬉しいなぁ。。。」

そう言った所で、わたしは2日目の記録から、ある閃きを得た。

「"サリムが弟で、サリードがお兄ちゃん"。。。これを読んで、3日目のわたしったら、本当に、サリードが自分のお兄ちゃんだと思ったのかな?それとも、そう呼ぶものだって思っちゃったのかなぁ。。。」

だとしたらあまりにも、お子さま過ぎた。そして、わたしの中で、サリードが優しいお兄さんだというのは、恐らくこの日の残り香のせいだと、今わかった。

「そうなんだろうな。私には最近まで、さん付けだったから、そうに違いない」

ハゼットが、サリードの隣で呟くのが聞こえた。

日記を確認するのは怖くはなくなったけれど、今度は恥ずかしくなってしまった。とりあえず今は、日記の紙束をしっかりと縛りつけて、内ポケットに再び隠しておくことにした。

「そういえば、ステータスはどうなったの?あなた、調整中だとか言ってたわよね?」

「なにそれ?前は1とか、よく分かんないやつだけだったよね」

姉さんにそう言われて、わたしは昨日から、ステータスを確認していなかったことを思い出した。わたしが大暴れしたせいで、サリム達にはステータスの表示の変化について、まだ知らせていなかったことにも。

「そうでした!調整というからには、まともになっててね。。。。ステータス!」

勢いよく口にして、目の前に現れた画面は、しかし、がっかりなものだった。

「う~ん、まだ調整中のままでした。。。あ!あと71時間って表記が増えてる??」

右下に小さく、調整完了まであと71時間、と書いてある。2日前には、そんなものはなかったはずだった。

「3日後の朝には直ってるのね?よかったじゃない!」

姉さんはそう言いながら、わたしの背中をぽんと叩いた。

「今更どっちでもいいんだけど、ずいぶん時間がかかるんだねぇ。。。」

神様の仕業であるなら、気付いたらその場で、ささっと直してくれてもいいんじゃないかと思った。と、そこでハゼットが、よし、と大きな声を上げた。

「3日後と言えば、エレスが水上都市に戻る日だな。丁度良いし、その日はお祝いでもしようじゃないか」

「いいですね。3日後の晩は、そうすることにしましょう。この教会も、随分、人が増えましたからね。よく考えれば、歓迎することも忘れていました」

アレンさんが乗り気であると分かると、すぐに皆が笑顔になった。もちろん、わたしも同じだった。夜に大勢で集まるのなんて初めてで、すごく特別な感じがする。皆がそれぞれに喜びを口にする中、アレンさんはわたしを手招きすると、耳元で囁いた。

「ヴァレン君にも、声をかけておいて下さいね」

不意打ちにどきっとしたけれど、それが顔に出ないように、わたしはしっかりと頷いてみせた。

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