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ルフナ 使命 5/15 夜明け頃~

 アレンさんは視線を大きく外すと、何も言わずに目を閉じた。

アレンさんは嘘をつかない。きっと何かを、言えない事情があるのだと思った。だから、ひとつの予感を信じて、わたしは一度だけ尋ねてみることにした。

「では、ひとつ、伺います。どうしても知りたいんです。。。わたしは、わたしの顔は、カレンさんに似ていますか?そっくりとか、もしかして。。。全く同じではありませんか?」

これぐらいしか、わたしの話を信じられる根拠が思い浮かばなかった。

アレンさんは目を見開くと、すぐに真剣な顔に戻った。そしてゆっくりと、わたしの顔を見た。わたしも、じっとアレンさんの目を見つめる。そうしてしばらく、アレンさんは細部まで確認するようにわたしの顔のあちこちを凝視した後、すっと目を閉じると、長く息を吐いた。

吐息とともに、アレンさんの表情が緩むのを見た時、わたしは右手を痛い程握りしめていることに気が付いた。痛む右手を、左手で解こうと手を添えた。

「違います。あなたの顔は、似てはいても、カレンそのものではありません。外見全体の印象としても、身長は10センチ近く違うはずですし、あなたは15歳程に見えます。カレンは亡くなった時、24歳でした」

「それは間違いないんですか?嘘だとは思いませんが、記憶は薄れるもの。司祭殿は5日間しか、カレンさんとの時を過ごしていない、と仰っていたはずでは?」

そこでヴァレンが突然、横から口を挟んできた。彼が黙って成り行きを見守るものだと思っていたわたしとしては、コピチが喋ったぐらいの驚きがあった。

アレンさんはヴァレンの方を向くと、眉の辺りを掻いた。

「ははは。その通りです。だからこそ、ルフナに対して私が初めて抱いた印象もあって、少し前まで自信がなかったんです。ですから、私の判断を確かめるために、私より長い間、カレンと過ごしていたベンさんに、こっそりと聞きました。教会に来て頂いたあの日ですよ。ルフナとカレンは、姉妹や双子のように見えませんか、と」

そう言われて、確かにあの日、ベンさんの後を追いかけるように、アレンさんが食堂からいなくなっていたのを思い出した。

「ベンさんはですね、はっきりと、二人はそんなに似ていないと言いました。同じ赤髪で、目鼻立ちに少し似通った点はあるそうですが、近縁者という程ではない、とね。カレンの方がはるかに大人びていた、とも。。。」

わたしの方をちらっと見て、アレンさんは語尾を萎ませるみたいに言った。そこまで言われると、自覚はあっても少し、ずきっとくる。ヴァレンも反論はしなかった。

「そうなんですね。。。でも、それならどうして。。。」

確かに、わたしの中の恐ろしい懸念は薄まったものの、これでは、わたしの話を信じる根拠が、やっぱり無いような気がした。アレンさんに信じてもらえるのは嬉しいけれど、わたし自身が信じられないようなものを、すんなりと受け入れてしまうアレンさんが、いくらか奇妙に映った。

モヤモヤとした気持ちを抱えて、どう言ったものかと悩んでいると、アレンさんが諦めたように首を振った。

「伯父上も、仮説ぐらいならば、あなた方に話すことを許して下さるでしょう。。。」

アレンさんは意味深にそう呟くと、目を瞑った。

「私があなたの話を信じるのは、ある1つの仮説を、はるか昔、こちらに召喚された転生者が語ったからです。『転生者は、こちらの世界で亡くなった者の、(のこ)せなかった思いを、想い人に伝えるという使命があるのではないか』という仮説です」

「そ、それって、まるで。。。!」

わたしは、驚きで体が震えた。まさにそれは、今日のわたしそのものだった。それを聞いた瞬間、この数日間のあらゆる悩みが、物凄い早さで頭を駆け巡り、消えていった。

全ての緊張から解放されて、体から力がすっと抜ける。すぐに自分の体が、ヴァレンの方に倒れていくのが分かった。そう頭では分かりつつも、思い通りに体が動かせなかった。

「大丈夫か!?」

「うん。ありがとう」

椅子から崩れ落ちそうになるわたしの体を、ヴァレンがなんとか支えてくれていた。お礼を言いながら、踏ん張ろうとするも、どうしても力が入らない。どうやら、わたしは体の動かし方を忘れてしまったみたいだった。少しだけ、めまいもする。

「よく頑張ったな」

「うん。。。あんまり緊張してたから、体が変になったみたい。ちょっとだけ、こうしてて」

何度か深呼吸してから、なんとか机に寄りかかる。身体は混乱しているものの、頭の方はそうではなかった。

「それじゃあ、わたしはカレンさんの体を奪ったわけじゃ、ないんですね?」

わたしの最大の恐怖だったものは、ただの思い違いとして、胸の奥にすとんと落ちた。縦と横が変な視界で、アレンさんが立ち上がるのが分かった。

「あ、あなたは、そんな突拍子もないことを考えていたんですか!?」

アレンさんは前のめりになって、口元を震わせていた。

「だって、そうじゃないと、わたしにカレンさんの記憶なんて残らないと思ったから。。。」

ぼんやりと話しかけると、アレンさんは真剣な顔で、何か思案するみたいに動きを止めた。アレンさんは、しばらくそうした後、私の目を見ると小さく首を振る。

「。。。そんなことは有り得ません。私は、そう信じます」

どこか気になる言い回しだったけれど、嘘なんかじゃないと、信じられた。

「全くあなたは。。。とんでもない恐怖と戦っていたのですね。すぐに私に言えないはずです。よくぞ、打ち明けてくれました。素晴らしい勇気です」

「そ、そんなに大したことじゃありません!」

わたしは生まれ変わって初めて、こんなにしっかりと褒められて、思わず涙が出そうになった。慌てて誤魔化そうと手を振った所で、体に少し力が戻っているのがわかった。

でもその時、右の手の平のおまじないまで解けて、ヴァレンからもらった指輪がどこかへ飛んでいってしまった。

「こら!ぞんざいに扱うんじゃない!」

ヴァレンが慌てて食器棚の方へと向かった。

「ごめんねぇ。。。わざとじゃないよ?」

どうやら指輪は、食器棚の下に入り込んだらしく、ヴァレンが手を入れて探っている。そこでアレンさんが、ルフナ、と小さく呼びかけてきた。まだ、ぼんやりとしている体を、しっかりとアレンさんの方へと向けた。

「あなたは今後、カレンの記憶を新たに思い出すかもしれません。しないのかもしれません。ですが、私はもう十分、救われました。追加の報告は、結構ですよ」

小声で告げると、アレンさんは私に笑いかけた。

「はい、分かりました。それじゃあ、すっごく特別な記憶を思い出した時だけにします」

わたしはそう言いつつ、なんとなく、もう夢を見ることはないんだろうな、と予感していた。

「だからもう、こんなことで悩まずに、好きに生きなさい。あなたはもう十分、使命を果たしました。幸せに、自分勝手に生きるのです」

アレンさんは、小さいけれども力強い声でそう言って、唇に人差し指を当てた。わたしが頷くと同時に、ヴァレンは床から立ち上がった。彼はしかめっ面を隠そうともしない。だけどもう一度、わたしの手の平に指輪を置いてくれた。

「ありがとう!今度こそ、大事にするから」

わたしの言葉に、ヴァレンは少し照れくさそうに首を横に向けた。

「おやおや。これは随分、愉快な展開になりましたね」

アレンさんはニコニコしながら、その指輪を眺めていた。わたしは思わず、指輪を握り締めて手を引いた。

「こっちの世界での指輪って、何か特別な意味があったりするんですか?!」

早口に言うと、アレンさんが目を丸くして、わたしを見た。

「おや、ご存知でしたか?王家での習わしですが、婚姻の際に、お互いの指輪を交換するんですよ。そちらの世界でも、同じような風習があるんですか?」

その通りだ、とも言えずに、わたしは曖昧に笑って誤魔化した。

「えへへ。。。別に、何かあるのかなーって思っただけですから。。。」

「まぁそれにあやかってか、この国では近頃、若い男性が女性に指輪を贈るのは、求愛や、求婚の意味合いがあると聞きますねぇ」

わたしの思考も動作も、しばらくの間、完全に停止してしまった。ヴァレンがわたしに求愛するなんて、有り得ないのは分かりきっている。あの生真面目なアレンさんが、まさか、わたし達をからかっているのかと、硬直してしまった。

そうやって目を丸くするわたしを見て、アレンさんは大笑いしだした。

「まぁ、彼の場合、少し意味合いが違うかもしれませんが。私には何とも」

ようやく笑い声を止めたものの、アレンさんは意地悪を続けた。それでもやっぱり、もらった指輪にはどういう意味があるのだろうと思ってヴァレンを見ると、彼はすぐに背中を向けた。

「まさかねぇ。。。?じゃあ、この青い石には、何か意味があったりするのかな?」

指輪にはまった青い石を見ながら、どちらともなく尋ねた。ところが、わたしの質問に、アレンさんはニッコリと微笑み、ヴァレンは知らんぷりするだけだった。

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