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アレン 火葬 5/10 覚悟の後~

 私は礼拝堂の出入口へと歩を進めた。この覚悟を、無駄にしたくはなかった。

「ルフナのいた世界では、どのようにするのかは知りませんが、創世教では、亡くなった方は火葬するのです。あなたには、それを手伝ってほしいのです」

周りの者達には、絶対に私の動揺を知られる訳にはいかなかった。私は声や表情に細心の注意を払いつつ、早くなりそうな呼吸を抑えた。

「。。。誰か亡くなられたんですか?」

「いえ、この教典を、火葬しようと少し前から思っていたんですよ。本当に、私が未練がましいばかりに、余計な騒ぎが起こってしまいました」

扉の外では、ロレアとハゼットの二人が佇んでいた。だが、二人には目を向けずに、私は庫裏くりの方へ足を向けた。

「先生!私は反対です。たった一つの思い出の品じゃないですか。それを燃やしてしまうなんて。。。それを持つことを責める者は、もはや誰もいません!」

後ろからロレアが必死な声でそう言った。私も、そう思っていた。だが、やめるわけにはいかなかった。

「いえ、先程も言いましたが、これは私の未練の火葬でもあるのです。そして、カレンを、死者を送るならば、一人ではなくて、何人かでなくては」

決して立ち止まらずに、私は言葉を返した。庫裏の勝手口の側には、落ち葉や野菜くずなどを燃やすための、小さな穴が掘ってある。私はその穴の前に、静かに座った。続いてルフナが、その向かい側に来るのが分かった。私の決断を遮る者は、もはや居なかった。迷っている者はいるのかもしれないが、黙って私を、教典を見ているようだった。

カレンとの5日間を、胸に思う。

私は、あの初恋を、誰にも語るつもりはなかった。しかし、あの極めて美しい思い出が発端となり、このような騒ぎになったことが、ただ、悲しかった。やはり、私はきちんとカレンの死と向き合わねばならなかったのだ。

私の彼女に対する祈りや、弔いは誤りだったのだ。

5日目にカレンと別たれ、それからはひたすら約束の日を待った。しかし、魔獣の強襲は起きてしまった。あれから私は、来るはずのない6日目に向かって生きてしまった。

誤りは、正さねばならない。


 掃きためられていた落ち葉の上に、小さな薪を少しばかり置いて、教典を供える。教典は全て、紙でできている。薪など、本当は必要なかったが、そのようにした。

丁寧にその作業を終えると、私はいよいよ、火打ち石を取り出した。何度か打ち付ける。ところが、中々うまくいかない。知らず、早くなっていた呼吸を整えようと、大きく息を吸い、目を閉じてゆっくりと息を吐いた。そして、目を開けた。

するとそこには、教典は無かった。

ルフナがそれを奪い去ったという事実には、すぐに気付いた。私はしばし、呆然として彼女を見た。

「これは、わたしに下さいませんか?」

ルフナもまた、私をじっと見ている。私は内心、怒りを抱えていた。この儀式の邪魔をされたくはなかった。そのように告げようと、私は口を開いた。

「いえ。これは、わたしが頂きます」

しかし、ルフナは続けて、はっきりと言った。私を貫くような、強い眼差しだった。私は言葉と怒りを失った。彼女は教典を守るように抱き締めていた。

「忘れる必要なんてないです。カレンさんを、これからも愛してあげて下さい」

彼女は私の目から、一切、目を離さない。その瞳に捕らえられた私は、見つめ返すことしかできなかった。

「わたしはルフナです。この教典を持つことに、なんら問題はないわ」

幼いカレンが書いた、あの文字がはっきりと目に浮かぶ。

「心に傷痕を抱えたアレンさんの祈りは、とっても綺麗だった。わたしは、アレンさんがその傷痕を忘れてしまうことは、絶対にいけないことだと信じます」

ルフナはしっかりと肯定した。これまでの二十年近く、患うようだった、私の迷いを。傷痕を隠さない少女、カレンへの愛を。

救われたようだった。

「カレンを思って、祈ってきたこと。そして、それをこれからも続けること。これは、正しいのでしょうか?」

私は神にすがるように問いかけた。

「もちろんです」

じゃんじゃん祈って下さい、と毅然と答える彼女は、天の御使みつかいのようだった。


 その後、私が気を持ち直そうと四苦八苦していると、私が持ったままになっていた火打ち石を、ロレアが奪うようにした。

「先生、これの良い使い道がありました!」

彼女が赤くした目で、それでも笑って宣言した。彼女は懐から、なにやら上質そうな羊皮紙を取り出すと、薪の上へと乱暴に放り投げた。

「こいつが腹立たしかったんですよ、私は。ルフナの友人になれ!なんて書いてありましてね。もう必要無いので、こうしてやりましょう」

彼女が一度、火打ち石を大きく打ち鳴らすと、赤い、大きな火の粒が飛んだ。よく乾いた落ち葉から、ゆっくりと、薄く煙が上がりだす。

「あなたは恐れを知らぬな。。。」

ヴァレンが呆れたように声を漏らした。小さな火が、ゆっくりと薪を舐める。私もまた、どこか愉快な心地でそれを眺めていた。

「これでやっと、すっきりしたわ。私も、自分の意志でここに居られる」

ようやく燃え始めた命令書を見て、ロレアが呟いた。私も晴れやかになった頭で、もう一つ決心して、ロレアの前に立った。

「丁度良い。あなたに任せたい仕事があるのですよ」

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