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傍観者ルフナ エレス-ダム 5/10 10:00~

 魔獣の強襲ときいて、私は恐ろしい光景を思い浮かべた。

「15年前。。。!エレスの、アルスダム緊急発動か!」

何かを察したように、ヴァレンは声をあげた。

「アルスダムって、確か昨日、あなたが。。。」

「私の名前の話ではないのだ。。。いや、関係はあるのだが。。。」

ヴァレンはなにか言い淀んで、結局、何も言わずに首を横に振るだけだった。

「アルスダムは彼の家名でしょうが、その元となったものがエレス、ダムです。この街、エレスの発展とエレスダムの建設、これは切って離せない関係にあります。エレスダムからアルスダムへの呼び名の変遷は諸説ありますが。。。」

アレンさんがヴァレンにちらっとだけ視線を向けると、咳払いのような、ため息のような息遣いを残して話を戻した。

「とにかくはアルスダムです。ダムという名の通り、それは水を貯めるための堤防です。ですが、実際は防衛機構、兵器とも呼べるものでした」

再び物騒な単語が飛び出して、耳を塞ぎたくなった。ダムと聞いて私が思い出せたのは、もっと平和な感じのものだ。

「防衛機構。。。?ダムというと、西にある湖のことですか?」

私が尋ねると、アレンさんは小さく頷いた。

「そうですね。あの湖はその片割れになるでしょう。そして、エレスの東側、下流にも水門があります。今は解放されていますがね。下流の水門を閉じ、上流の水門を全解放すれば、エレスダムの発動状態となります。通常であれば2日ほどで、エレスの回りの窪地全てを水が覆い、エレスは水上都市となります。古語で、エレは上を、スは水を表します。とにかく、発動状態のエレスの回りは、大河のようになります。陸上の魔獣は、わざわざそんな所に入ることはしませんからね」

水上都市と聞いて、私が想像したのは凄く美しいものだった。防衛という言葉とは程遠いものの気がしたけれど、何かを守るためのダムならば、悲劇に繋がる理由がわからなかった。それでも、アレンさんの表情は暗いままだった。

「そのアルスダムとカレンさんとが、どう関係するんですか。。。?」

私は恐る恐る、アレンさんに尋ねた。

「15年前の魔獣の強襲は、大規模で、進行も異常に早かったと聞いている。そして、アルスダムも通常の手順では発動出来なかった、と」

でも、その質問に答えたのは、ヴァレンだった。ヴァレンは既に、この先にある結末を知っているような雰囲気だった。

「そうです。緊急手順。。。湖側の水門部分を決壊させることにより、素早く水上都市に戻さざるを得なかったのです」

決壊という言葉で、さすがの私も話が理解できた。と同時に、この先の話を聞くのが恐ろしくなった。

「そうしなければ、魔獣が街を襲う、とんでもない事態になったでしょう。その決断は、結果的に最善であったと言われています。私も、そう思います。しかし、それに巻き込まれたのが、カレンを含む、6人の行方不明者です。このあたりの事情は、前都市長であるベンさんから聞いた方が確実かもしれません」

私はもう十分だと思った。これ以上アレンさんの古傷を抉るような真似はしたくはなかった。なにより、アレンさんの静かで温かな弔いを、私が現れたために滅茶苦茶にしてしまったことが、悲しかった。

「つまり、あなたはカレン、さんが生きていることを望んで、彼女の幸福を祈っていたのだな?」

ヴァレンも私と同じような考えだったのか、その確認の声にはもう、尋問するような気配はなかった。

「もちろんです。私が愛するのは、カレン一人きりですよ。ルフナという名前に込めたのは、彼女のように、気高く美しくあってほしいという、私の勝手な願いです。あなたには、ただ生きて、幸せになってほしいのです」

アレンさんは、私を見てそう言った後、右手に持っていた教典を閉じた。そして、ヴァレンの方へと体を向けた。

「カレンがアルスダム発動に巻き込まれるまでについての事情も、前都市長が詳しく知っておいでです。彼女は、都市長直轄の孤児院で働いていましたから。話を聞かれるようでしたら、なにとぞ、彼の心情にご配慮下さい」

アレンさんの言葉に、ヴァレンは軽く頭を下げた。

「承知した。。。アルスダムに縁のあるものとしても、事情は聞きに行きたい。だが、あなたへの疑念は、もはや私の中には無い」

そう言ってから、さらに、ヴァレンは跪き、顔を伏せた。

「謝罪すべきは、あなたの大切な過去を、無惨にもあばいたことだ。誠に、すまなかった」

「許します。それに私も、ようやく決断できました」

ヴァレンの言葉に、アレンさんはすぐに答えた後、礼拝堂の外へ向けて歩きだした。私もよく分からないまま、それに続いた。

ただ、歩き出す時に見えたアレンさんの決意に満ちた顔が、泣いてるようにも見えて、私の心を揺さぶった。

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