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傍観者ルフナ カレン 5/10 10時前~

 私がスープを食べ終えてから、四人みんなで礼拝堂までやって来た。そのまま中に入ろうとしたところで、姉さんとハゼットが少し離れた所で立ち止まっているのに気が付いた。

「誰かが入ってきてもまずいでしょう?私達は、ここで聞かせてもらうわ」

私は姉さんに目で返事をした後、ゆっくりと扉を開く。中ではアレンさんが一人、祭壇の前で跪いていた。祭壇の上には、なぜか教典がふたつ、寄り添うように置かれていた。

「アレンさん」

なんと言えば良いのか分からなくて、私はただ、呼びかけた。アレンさんもまた、覚悟を決めたように、ゆるりと立ち上がってこちらを向いた。その表情は晴れやかなもので、私は少し不安なような、落ち着かない気持ちになった。

「今日は遮る者も居まい。私も最後まで聞かせてもらう所存だ」

「ありがとうございます。私も全てを話す覚悟です。ここでなければ、話す勇気も出ないことが情けないのですが」

私の後ろから、ヴァレンはアレンさんに声をかけた。アレンさんはゆっくりと礼拝堂を見渡してから、最後に私を見た。

「あなたの名前について話す前に、長い前置きのようになりますが、順を追って話します。ですか先に、嫌なことから言ってしまいましょう。私はこのジュラの国の、現国王陛下の甥にあたります。昔はアレキサンダー、アレックスなどと呼ばれていました」

アレンさんはアレックス、と言う所でひどく嫌な顔をした。

「私は当時、王族にも、市井にも、それほど興味はありませんでした。座学に励む私に、伯父上様が、それはもう目をかけて下さいましたので、ますますそれに夢中になったものです。そんな私でしたが、教会には足を運びました。そこで出会ったのがカレンです」

カレンという名前が出てくるので、私は、一体なんの話が始まるのかと訝しく思った。

「カレン?ルフナではないのか?」

それはヴァレンも同じだったようで、私と同じ疑問をアレンさんに投げ掛けた。私も"ルフナ"という名前の由来について聞きたかった。

しかし、アレンさんは目線でヴァレンを制して話を続けた。

「ええ、私の愛する。。。愛した、カレンですよ」

私はやっぱり納得がいかなかった。しかし、ヴァレンが黙っていたので、とりあえず私も黙っていることにした。

「彼女と会ったのは、たった5回です。しかも、男女の、淡い逢瀬のようなものは、一度きりでした。夏至祭りに二人で行っただけです」

この世界の夏至がいつなのか、少し気になったものの、今は全くもって、どうでも良かった。

「最後の1回に至っては、ただのお別れでしたからね。それ以来、会えていません。ですが、先ほど言った、一度きりの夏至祭りの最中に、彼女がかつてルフナであったのだろう、と知ったんですよ。()()は」

「かつてルフナであったとは、どういうことなんでしょうか?」

「彼女はかつて、異教徒狩りに巻き込まれたのです。その時の怪我か、その恐ろしい経験によるものかは解りませんが、記憶を失ったのです。私と出会った時、彼女はカレンという名前でしたし、その後も名前を変えたことはないと思います」

そう言うと、アレンさんは黙って聞いている私達を順に見てから、振り返って教典の一つを手にした。

「こちらの教典は、別れの際にカレンから頂いたものです。これは、彼女が記憶を失う前から持っていたものです」

アレンさんは、教典の最後のページを開いて、こちらに見えるようにしてみせた。そして、ゆっくりとヴァレンの方に目を向けた。

「ヴァレンさんには見つかってしまいましたが、これは、これまで私が何よりも大切にしてきたものです。誰にも見せたことはありません。ここに、古代文字で、ルフナと書いてあります。そうですね?」

「間違いない。子供の書いたような文字だが、そう読める」

「カレンも、彼女の回りにいた者達も、この古代文字は読めなかった。これを知っていれば、彼女にルフナという名前を再び与えたことでしょう」

ここでようやく、私にも話の筋が見えてきた。カレンという女性と、名前を確認し合ったであろうことも想像できた。

次に、アレンさんは右目の上あたりを指差した。

「そして、カレンには、このあたりに少し大きな傷痕がありましてね。私にとってカレンは、赤髪の少女ではなく、顔に傷痕のある。。。いえ、傷痕を隠さない少女でした」

私の心に、光が一筋差し込むのを感じた。

確かに、女性の、それも顔に傷痕があれば、誰だってそう思うかもしれない。

「その、カレンという少女。。。いや女性は生きているのか!?」

後ろからヴァレンが口をはさんだ。

私はなんと残酷な質問だろうと憤りながらも、カレンさんの生死については、やはり知っておきたかった。

「。。。分からないのです。いえ、本当はもう。。。生きていると!私がそう思いたい、だけなのです。。。」

アレンさんは苦しげに、でも、決断するように声を荒げた。私はその言葉に、アレンさんは今も、カレンさんをこそ、愛しているんだと、はっきりと理解した。

"ルフナ"という名前について、気味の悪い話を聞いてから、私はアレンさんの顔を見ても、何故だか別人のように思えてならなかった。でも今は、目の前にいるあの人は、間違いなくアレンさんだと思えた。そうなると私は、途端に疑ってしまった自分が恥ずかしくなった。

「死んだという確証はないのだな?」

しかし、ヴァレンはまだ納得いかないようだった。彼の低い声には、アレンさんへの疑いが滲んでいる。そこで、アレンさんはひとつ頷くと、悲しい目をしてヴァレンを見た。

「これには15年前の、魔獣の強襲が関わっています」

カレンさんは、魔獣に殺されてしまったのだろうか。

外から、10時を告げる鐘の音が聞こえた。

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