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行商人A ある噂 ある晩

 今日は久々に酒場に繰り出し、気分が良かった。店では吟遊詩人だったという男と意気投合し、さらに気分よく酒を酌み交わしていた。

隣国から行商に来ていた私に、彼はこの国のことを様々に語ってくれた。吟遊詩人だったというだけあって、彼は喋り出すと止まらないたちのようだった。しかし、その話は面白いものばかりで、やはり酒が進んだ。

「次はこの国の、王族の話を聞かせてやるよ。九年前に亡くなった王弟様には、二十歳を過ぎた頃に病死したってぇ嫡男様がいた。王弟様のお子は、そのお方一人きりだったんだ。だからその訃報に混じって、暗殺されたんじゃねぇかって噂が、当然たった。王弟様はすげえ将軍の一人でもあったからな。内乱が起きるんじゃねぇかと王城は荒れに荒れた。だが結局、内乱は起きなかった。何故なら王弟様は国民に慕われる国王様を、変わらず支持し続けたってぇんだ。本当は、後暗い取引があったかもしれねぇ。だが、王弟様のあの厳めしい顔を知ってるやつは、そうは思わなかったんだろうな。不正には、そりゃもう厳しかったんだ。そんな噂はすぐに消えちまった」

よく舌が回るものだと感心した。男は酒を煽って更に続ける。

「そんでだよ、代わりに新たな噂が流れたんだ。病死されたってぇ嫡男、アレキサンダー殿下は城下で生きている、ってやつだな。ありがちだろ?だけどその噂は中々消えねぇで、今も俺達みてぇなもんの、酒の肴になってるってわけだ。エレスの酒場じゃあ、殿下はエレスにいる!だなんて言われてんだろうなぁ。元々社交的じゃあ無い方で、あんまり顔も知られて無かったからなぁ。吟遊詩人だった頃、名を売ろうとしてな、娘と駆け落ちした話に仕立て上げたもんだ。ま、王弟様が亡くなってからは、ウケねぇんで止めちまったがね。なんなら今、一節唄ってやろうか?」

男がようやく口を閉じたかと思えば、次は唄いだした。音程も節取りもめちゃくちゃで、周りの酔客達が嫌な顔をするのが分かった。私も同じだった。彼が吟遊詩人をやっていたと言うのは、きっと嘘に違いない。

「ありがとう、楽しかったよ」

彼にそう言うと、私は席を立った。私は酒場の主人に礼を言って、チップを渡そうとした。しかし彼は、何故だか固辞した。

「あんた隣国から来たんだろう?お人好しなのかも知れねぇが、あの男に捕まるとは災難だったな。お詫びにチップは取っといてくれ。この国の奴らが皆、あんなだと思われちゃあ困るからな」

どうやらあの男は、行商人に絡むので有名なようだった。行商人仲間に、面白い話ができたと思うことにした。


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