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二十二話  クラス内戦争

リアルの方が一段落したので、今日からまた投稿していきます!

 ルリとのデートから二日経って、月曜日の朝。輝夜と共に通学路を歩きながら、俺はルリのことについて考えていた。……この部分だけ切り取ると、ハーレム王みたいだな俺。


 (魔術師との戦闘の中で負傷。頭に深い傷を負い、記憶障害――)


 一昨日ルリから聞かされた話を要約すれば、こんなところだろう。


 真相を知ってしまえば、なんとあっけないことか。

 ただの事故。魔術師間ではよくあるトラブルだ。


 しかし……それを知って俺は、一体どうだ?


 ルリとの記憶を思い出せないのが悲しいか? ルリの期待に応えられない自分が悔しいか? 空波家を狙っていたという謎の集団に憤っているか? 


 どれもイマイチ、ピンとこない。


「トキ?」


 今の俺は依然、ルリと過ごした四年間の記憶を失っているままだ。一昨日のデートを経て、少しはルリへの理解も深まったのかもしれないが……それでもまだ、今の俺にとって空波ルリは、つい五日前に会ったにしてはちょっと仲が良すぎるだけの友人、という感じだ。


 俺は確かに、あの頃の記憶を取り戻したい――どこかでそう願ったはずだ。一昨日のデートではっきりとした。失われていても、それは今でも俺にとって大事な思い出だから。

 

 だが……記憶を失った要因が判明したというのに、イマイチ燃え上がらないのはどうしてだ? 

 なんとしてでもルリの記憶を思い出すために奮闘しようと思えないのは……俺がそれだけ薄情ということなのだろうか。


「トキ、聞こえてる?」


「――ん。ああ」


 無意識に俯いていた顔を上げると、胡乱な目をした制服姿の輝夜が俺の顔を覗き込んできていた。


「昨日からトキ、ずっとそんな感じでぼーっとしてるわ。どうしたの?」


「すまん。少し考え事しててな」


「一昨日の……ルリとのデートのこと?」


 ……鋭いな。輝夜みたいな奴にも、女の勘とかいうホームズの推理力すら凌駕する万能チートスキルは内蔵されているのか。


「気になるのか?」


 ここで素直に頷いてくれれば、今更輝夜相手に隠すこともないので、話してやろうかと思っていたのだが――


「……分からないわ」


 などと、玉虫色の御言葉(おんことのは)(たっと)き輝夜姫より賜ってしまった。


 そういえば、ルリとの一件ですっかり忘れてたが……こいつもこいつで今、なんかおかしいんだっけ。


 思い返してみれば、昨日も勉強中に俺の顔を見たまま顔を赤くしたり、食事中に偶然俺と手が触れて、慌てて箸を落としたりしてたな。


「輝夜、ちょっと止まってくれ」


「なに?」


 立ち止まった輝夜の正面に立った俺は、輝夜の前髪を上げて――


「わわわっ、トキ――?」


 いろつやのいいおでこに手のひらを当ててみるが……ううん。別に体調不良というわけでもなさそうだ。


「えっと、あの、トキ……」


「え? あ、悪い」


 輝夜が目を丸くしているのに気づき、おでこから手を離す。


「流離世界では、ああしないのか? 熱があるかどうか確かめるのに、今みたいに額に手を当てるんだよ。こっちの世界では」


 額に手を当てて熱を測る文化を知らない場合、俺の今の行動は輝夜にとって奇行にしか映らないということに思い当たり、そう説明する。が……


「そ、それは分かってるわっ、あの世界にもあったから…………今のは、そうじゃなくて……その……」


 どうやら、そういうわけではないらしかった。

 ので、輝夜がびっくりしていた理由を説明してくれるのを待ってたんだが……しばらく経っても口をもにょもにょと動かすだけで、言葉らしい言葉を発してはくれなかった。


「…………??」


 熱がないわりには、やはり様子のおかしい輝夜だった。



   ☽



 さすがに週を跨いだとあって、美少女転校生に大騒ぎするあの薄気味悪いブームは去ったようだ。

 クラスメイトたちの会話も、比較的理性的なものに戻っている。


 ……だが、俺としてはかぐや姫かぐや姫連呼してた先週の方がよかったかもしれない。だって……


「クソ……土曜のデートを阻止できなかったのは大失態だったな……」「ああ、だがどうする? 力ずくでは中史を止めることができないことが分かってしまった。今後もああいうことがあった時、俺たちはどうすればいい?」「いくら中史時といえど、魔力を封じられればただの人だ。誰か、魔封じ系の魔術か魔法具を持ってる奴はいないか」「アズマ、お前ならどうだ。《如意(にょい)》なんてすごい結界を張れるんだから、それぐらいできるだろ」「いや……確かにそういう結界術はあるけど、あのトキ相手に通用するかどうかは賭けだね」「そうか……ならば寝込みを襲うしかないか……?」「いや、生物は食事中、最も油断すると言う。昼食の時間がねらい目だろう」「「「ううむ……」」」


 ――理性が戻ったら戻ったで、理性的に殺人の計画を企てられるだけなのだから。


「こら、みんな? ダメでしょ?」


 と、教卓で次の授業の準備をしていた七海先生が奴らをたしなめてくれる。


 おお女神よ。もっと言ってやってください。


「「「だって、七海先生……」」」


「だってじゃない。――そういう話は、本人のいないところでしないと意味ないでしょ?」


「「「なるほど、一理ありますね」」」


 ああ忘れてた! 七海先生、普段はおしとやかな女性という感じだから騙されるが――実は父親が職業軍人、母親は有名な神社の武装巫女という――純然たる戦闘狂一家の出なんだ。


「ミッ、ミズ!」


 大人に助けを求めることを諦めた俺は、隣の席のミズを頼る。

 こいつは一昨日こそ俺の強大な壁として立ちはだかった敵だったが、アレはアズマも言っていたようにその他大勢のアホ共のノリに合わせていたに過ぎない。つまり、真の意味ではミズは敵ではないのだ。


「……別に不純異性交遊が禁止されているわけでもない。僕個人としては、お前を怨む理由はないが……」


「そ、そうだ。だから俺を擁護してくれ」


「さる生徒に金を積まれてな。手出ししないようにと言われている。時津風がクラスで孤立している今、救いの手を差し伸べられるのは自分だけです――と、意気込んでいたぞ」


「と、時津風って……俺のことをそんな風に呼ぶ奴なんて、一人しか――」


 頭の中に一人の生徒の顔を思い浮かべていると、上履きの底を摩擦ですり減らしながら猛スピードで廊下を走ってきたらしい女生徒が、息を切らしながら現れた。


「クラスでひとりぼっちの時津風! はこべと一緒にラップランドの気候にも負けない熱い熱い愛を育みましょう!」


「……ミズがダメとしたら、あとは……」


「えぇ、無視はひどいですよぉ……」


 勝手に登場して勝手にいじけるピンク髪は放っておいて……ミズが敵……というよりは傍観者の立場に回った今、俺は次なる協力者を探す。

 ……と、そこに一昨日気まずい感じになって別れたデート相手、ルリを見つけた。


「ルリ! 助けてくれ!」


 俺は土下座も辞さない勢いで頭を下げる。ルリと協力すれば、2のAの悪の勢力を壊滅させることも決して絵空事ではないだろう。


「あ……トキ。ごめんね、ちょっとこの後用事があって……」


「用事?」


「その……ほら、ボク、転校生だから。書類関係で、呼び出しがさ」


「そうか?」


「うん、ごめんね」


 胸の前で手を合わせて謝り、ルリは教室を去っていった。


(……)


 俺はその姿に――違和感を覚えた。

 ……なんだ? 一昨日までと比べて、なんだかルリの態度がよそよそしく感じたぞ。


 まあ、デートの最後があんなことになったんだから、どう接していいか戸惑う気持ちは分からないでもないんだが……


「妖術を使うのはどうだ? 確か、日下部(くさかべ)さんが得意だっただろ」「いや……トキは霊力も高いみたいだから、それは悪手だよ」「はぁ? なんだよアイツ、チート主人公じゃねえか」「むしろ何なら苦手なんだよ」「……女か?」「「「……それは俺たちも苦手だ」」」


 などと考えている間にも、クラスメイトが中史時惨殺計画について話し合う声が聞こえてくる。


「とにかく……クソッ、ここに俺の味方はいないのか――!」


 三十六計なんとか。

 俺はこのクラスからの退出を余儀なくされた。


 だがしかし、俺があいつらに負けたというわけではない。そこは勘違いしてもらっては困る。これはそう、戦略的撤退というやつなのである。

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