二話 英雄の誕生(後編)
それから、実に6日の時が経ち。
物事はとんとん拍子に進んでいく。
――魔王が討たれた。
この事実は瞬く間に国中に広がり民草を騒がせた。
長年人類を苦しめ続けていた巨悪が倒れたとあって、セレスティア王国はすっかりお祭り騒ぎだ。
そこかしこで盃を乾す音が響き、町は笑顔で溢れ、花火が空を彩っている。
そして今、俺がいるのは金や赤が眩しい絢爛豪華な一室。セレスティア王国の中央に位置する王城・ソラネシアの謁見の間だった。
俺が立つ赤の絨毯の先――朗らかな笑みを湛えて玉座に坐するのは、若き賢王・セイクリッド・セレスティア。
今日は魔王討伐を祝う、平和記念式典の日だった。
それがここ、ソラネシアの謁見の間で厳かに敢行されようとしていた。
「転移者ナカシ・トキ」
セイクリッドが俺の名を口にする。
「此度のそなたの魔王討伐の功績をここに称え、『勇者』の称号を贈りこれに叙すると共に、恩賞として褒賞金5000000テルを授ける」
俺はセイクリッドの前に片膝をつき、頭を下げた。
それを見ていた謁見の間への入室を許された百人ほどの貴族たちから、拍手が送られる。
式典の最初にあったのが、授与式。
俺を『勇者』に叙爵し、正式に魔王討伐を果たした英雄として認めるためのものだ。
この『勇者』というのはそのまま爵位でもあり、王族の下、公爵の上に位置する地位。
つまり、俺は王族の次に偉い存在となったのだ。
異世界に転移してきてから、一週間。
この日をもって俺は、召喚士さんが言う通りの、仮ではない正式な『勇者様』になったのだった。
☽
「勇者様……!」「ナカシ卿、是非一度ご挨拶を……」
正式な授与式が済むと、謁見の間にいた貴族共がわらわらと虫のように群がってきた。
その誰もが勇者に顔を覚えられようと必死な様子で、中には押し合い圧し合いの喧嘩をしているものまでいる。
「――失礼」
その喧噪を、一声で静めた者がいた。
「く……ミッドナイト殿か」「悔しいが、ここは引くしかあるまい」
そいつはカツカツと靴音を鳴らして俺の元まで歩み寄り、慇懃な動作で礼をした。
「お初にお目にかかります、ナカシ卿。私は、この国の議会で議長を務めさせていただいております、クライン・ルード・ミッドナイトです」
クラインと名乗った男は……
……ッチ。女なら一目見ただけで心を奪われかねない、イケメンフェイスだな。羨ましい。
議会の長ってことは、相当偉いんだろうな。それで、他の奴らは道を空けたってとこか。
クラインは開いてるのかどうかわからないほど細めた目を向けて、俺の返答を待っている。
「初めまして、ミッドナイト卿。ナカシ・トキです」
適当に話を合わせて、その場を切り抜ける。
勇者になると……こういう機会増えるのか。だとしたらイヤだなぁ、俺基本的にコミュ障だし。