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幻月のセレナ -世界と記憶と転生のお話-  作者: 佐倉しもうさ
第三章 而して浮生は夢のごとし
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三十話   リュケイオン

 俺が目を覚ました時には、すべてが終わっていた。


 セレスティア遺跡の最深部には月神の姿はなかった。


 俺は心配そうにこちらを見ていたヒカリに膝枕をされて目を覚ました。人魚の鱗のあたたかい体温に包まれて、このまま永眠してしまうかと思った。ヒカリは保育士さんとか向いていると思った。


「ずっとこのままじゃダメか……?」


「……そんなこと言ってたら……一生このまま、だから……!」


 膝枕の延長を頼んだのだが、断られてしまった。


 その後《青海波(せいがいは)》の水も引いて、泳ぐより足で立った方が都合がよくなっていたので、二度目の《The Forgiven》をヒカリに掛けたら今度は無事成功して、人の姿のまま喋れるようになった。


 十数時間ぶりに聞くヒカリの声は、なぜか前よりぐんとかわいいように思えた。ヒカリは声優も向いていると思った。


「え、あ、え、えっと、ね……中史くんが、気を失ってから、わ、私、人魚になって、あ、そ、それで……」


 沈黙状態であれだけ元気溌溂だったヒカリはどこへ行ってしまったのか、声優も目指せるかわいい声で喋るヒカリは、普段のおどおど陰キャ女に戻っていた。ヒカリは陰キャ男が「こいつのかわいさに気づいてるのは俺だけだからな……」とか思ってる裏でヤ〇チ〇陽キャに寝取られている陰キャヒロイン役も向いていると思った。


 そんなわけで、俺は久しぶりに話すせいか前より難化した光語のリスニング音声をなんとか聞き取りながら、俺が気絶してから起こったことを把握した。


 人魚に戻ったヒカリが俺を介抱してくれて、月神と一対一で戦って、あと少しのところで惜敗。魔力量が減っていた月神は俺たちを放置して、すぐにセレスティアに転移していった――と。


 だいたいそういうことだった。

 

「そうか……」


「……うん」


 事態を把握した俺とヒカリが、認識を同じくする。


「――ここまでは、気味悪いくらいに上手く行ったんだな」


「……うん」

 

 俺たちと戦ったライトメアナイト――月神が、セレスティアに向かい輝夜と合流した。


 輝夜と月神で《月鏡》の数が合わないことや、ツクヨミとライトメアナイトが思ったよりも親しそうだったことなど、いくつか気になる点はあるが……


 それはおそらく大した不都合ではないだろう。


 あとはこの事態がどう推移して、どこに着地しているのか……


 それは輝夜の元に戻れば、全部分かることだ。


「…………」


 そして。もし俺たちの思った通りに、事態が進行していたら。


 その時は……その時、俺は……


「……だ、ダメ、だよ……中史くん……」


 ――ぎゅっと、ヒカリが手を握ってくれる。


 深みに嵌りかけていた思考が、クリアになっていく。


「……私が、いるよ……」


 俺とヒカリを繋ぐ手が、とてもあたたかい。


 なにがあっても、世界を越えても、この手だけは離してくれなかった。

 

 ヒカリの手だけが、離さないでいてくれた。


「……そうだな。一緒にいてくれ、ヒカリ」


 だから同じように、これから何があっても傍にいてくれるだろうと、俺は信じていた。


「じゃあ、セレスティアに戻ろう。ヒカリ」


「……うん……二人で、ね……」


 それから街に戻るまで、俺たちは片時もその手を離すことはなかった。



   ☽



 そうして戻った、セレスティアの教会では――


『…………、……』


 ――天帝メダカが、胸から血を流して気絶していた。


『……ゆ……許さない……あんたたち、絶対に許さないから……!』


 ――月神ライトメアナイトが、力なく倒れていた。


 ステンドグラスを通した青き月光が、地に伏す彼女らを冷たく照らす。


「…………」


「…………」


 俺とヒカリは天帝と月神の横を通って、教会の中を進んで行く。


「――遅かったな、勇者よ。たった今、すべてが終了したところだ」


 その奥に立っているのは、キトンと呼ばれる無地の布を体に巻き付けた髭の長い男。


 哲人アリストテレス。


 この惨状の首謀者だろう。


「……そうでもない。想像通りのタイミングだ。……アレックスも、な」


 そのアリストテレスの横に立つ、この街の冒険者。


 アレックス、ロクサネ、ヘパイスティオン。


「君は……驚かないんだな。俺が、ここにいることに……」


「まあな」


 特にアレックスの手には、いつかの黒剣が握られており。


 その剣身は、赤黒い鮮血に染まっていた。


 天帝と月神を斬って付着したものだろう。


 そして――


「そいつは今、どういう状態だ?」


「……輝夜……」


 アレックスとアリストテレスの間で、感情を失ったような無表情で佇む少女。


 その首に、あれは――天女の羽衣……と表現するしかないストールをかけた少女。


 天帝と月神がアリストテレス達から守ろうとして、そして守れなかった少女。


 月見里輝夜。


 輝夜が、アリストテレスに羽衣をかけられ、心を失ったように呆然と立っていた。


「……分からぬな」


 俺を見て、アリストテレスがそう呟く。


「君はなぜ、動揺も狼狽もしない? 守ろうとしていた《月鏡》保持者を、奪われかけているというのに……」


「質問に答えろ。そいつは今、どういう状態だ」


「……羽衣に複製していた王女殿下の記憶と、同期している……そのため、一時的に夢遊病状態に陥っているだけだ、が……?」


 俺の剣幕に呑まれたか、アリストテレスが質問に答える。


「次の質問だ。アリストテレス、そいつを……《月鏡》を使って、どうする気だ」


「……それは、今君がこの場で聞くべき問いとして些か……」


「ああ、訊き方が悪かったな。じゃあこうするか。……アリストテレス。お前は月見里輝夜に危害を加え、《月鏡》で世界を滅ぼすつもりか? それだけ教えてくれればいいよ」


「――なに?」


 俺の質問の真意が読み取れなかったか、アリストテレスが訝しがる。


「よく考えて答えろよ。お前の進退がかかってる」


「質問の意図が、よく分からぬ」


「時空転移のしすぎで頭がトロくなったか。――お前をこの場で殺すか、それともお前に協力するか。俺はそれを決めかねてるって言ったんだよ」


「…………!」


 九年前のあの時点ならともかく、今の俺たちはこんな老人と駆け出し冒険者に後れを取るレベルにはない。その気になればいつでも輝夜を奪い返せる状況だ。


「……否だ。我の目的(テロス)は、ただ一つ。――この世界の中心である一なるもの(ト・ヘン)――《不動の動者(デミウルゴス)》への到達。……《月鏡》はそのための道具(オルガノン)に過ぎぬ……」


 言っていることはよく分からないが、ともかく――


「俺たちの目的とは、競合しないわけか」


「……そうなるな」


「よし」


 その確認ができれば、それでいい。


 もはや今回、こいつと敵対する理由は、たった今なくなった。


「『互いの衝突は避けては通れぬ道』……だったか? よかったな、今回は迂回路があったみたいだぞ」


 そう言って、俺は笑いながらアリストテレスに歩み寄り、手を差し出す。


「協力しよう、アリストテレス。黙って見逃してやる。《月鏡》保持者を連れて消えろ。その代わり、今の発言は守れ」


 差し伸べられた手を、アリストテレスは不気味そうに見つめる。


「君は一体……何を考えている? 忘れたわけではないだろう……我は、君の想い人を殺し、今まさに再び君から守るべき人間を攫おうとしているんだぞ……そんな相手と、なぜ手を結ぶことなどできる……?」


「客観視が得意なんだな、さすがは哲学者だ。……その通りだよ。お前がルリを殺した仇である事実は揺るがない。今も殺したい気持ちでいっぱいだ。――だがそれと《月鏡》の件は別だろ? 俺は『この件に関わるお前』と協力しようと言ってるんだ。分からないか?」


 その俺の説明で、アリストテレスには十分だったらしい。


 得心が行ったとばかりに嘆息し、俺の手を取った。


「万学の祖とまで謳われた我の頭脳がたった今、君を形容するに相応しい言葉を導き出したから心して聞き給え。――君は『頭がおかしい』」


 いつかのように、ニヒルな笑みを浮かべるアリストテレス。


「ありがたい御言葉だ。心に留めておく」


 ……俺とアリストテレスの話は、それで済んだ。お互い無駄な詮索を嫌うタイプだったので、すんなりいったよ。


「ど、どういう……気でいるんだ……?」


 だが、俺たちより少しばかり感情的な人間が横にいた。


「勇者、ナカシトキ……君は、何を考えてるんだ……?」


 俺と、彼が「先生」と呼ぶ男のやり取りを見て――アレックスが唖然としている。


 心から困惑している、理解できない……そういう顔だ。程度こそ違うが、ロクサネやヘパイスティオンも同様の表情を浮かべている。


 自身のしていることの重さが分かっているからこそ、それに何の反応も示さない俺とヒカリが理解できないのだろう。


「考えてることか……そうだな」


 俺はヒカリの許へ戻りながら、いくつか思い浮かべたことを口にする。


「――アリストテレス、発信機代わりにしていた天帝の反応が途切れて嬉しかったか? ――アレックス、俺の方から輝夜を預かるよう提案されて、手間が省けたか? ――自分たちの邪魔をしにきた月神がたまたま弱ってて、助かったか? ……とか、考えてるぞ」


「な……」


 アリストテレスはもはや感づいてたようだが、アレックスには衝撃の内容だったのか……


 どこかショックを受けたように、固まってしまう。


「それも、別に特別なこととかじゃ、ないよ……中史はみんなそうやって、動くから……」


 これらのことは、俺とヒカリの間では言葉を交わす必要すらなく通じていたものだ。


「そんな……それじゃあ、君たちは……全部、全部知ってたのか……?」


 一歩前に出たたアレックスが、信じられないものを見るような目で俺とヒカリを見つめる。


「全部ってのは……どこからどこまでで全部だ?」


「《月鏡》が……セレスティア王家の、血に、受け継がれる、宝具で……だから輝夜は、セレスティア王家の人間だって、ところ、まで……?」


「それとも、その輝夜がこの時代の人間ではなく、時空転移者だってところまでか?」


「ほう。そこまで知り得ていたか。恐ろしい一族だな」


 アリストテレスが、感心したように口を出す。


「なんだ、どっちも正解だったのか。あてずっぽうだったんだけどな」


「知ってた、じゃなくて……ただの……妄想、なのに、ね……」


『な……なにそれ……ふざけないでよ……』


 俺とヒカリが喜びを共有していると、背後から声がかかる。


 血に伏して口から血を吐き、涙を流している、月神ライトメアナイト。


 伏臥体勢で俺たちの話を聞いていたようだが、その内容が我慢ならないものだったらしい。


『それじゃあ、あんたたちは――最初から全部分かってて!? この子が攫われるってっ、最初から分かっててっ、メアの邪魔をしたのッ!?』


「そうだよ」


 ノータイムで肯定する俺に、月神は唖然とする。


「この二人でも、さすがに万全の月神には勝てないだろうからな。俺たちと戦って、程よく弱ってもらった」


 そのためには月神に強力な魔術を使ってもらう必要があった。だから敢えて生意気な態度を取り、神の尊厳を傷つけ、俺たち相手に神術を使ってもいい理由を与えてやった。月神は打てば響く単純な性格だったから、助かったよ。


「……でも……ま、まさか中史くん……直撃もらうなんて、思ってなかった、から……本気で、心配したんだよ……! ああいうの、やめてほしい……!」


「いや、月神の全力っていうからどんなもんかと思ってな。戦闘で気絶するのなんて久々で、びっくりしたよ」


「次からは、一言断ってからにして……!」


「ああ、そうするよ。……そこら辺が、俺に足りないものなんだろうからな……」


「そうやって……変わろうとしてくれるのは、嬉しい、な……」


 俺とヒカリの会話を聞いて、それが冗談じゃないことを悟ったのか……

 月神は項垂れて、独り言のように小さな声でこう呟いた。


『なんで、よ……最初遺跡に来てくれた時は、ヨミの子孫だっていうから……味方だと思って……嬉しかったのに……』


「お前多分、一回こいつらを仕留め損ねただろ? ただの哲学者と冒険者が二度も神に襲われるなんてかわいそうだ。だから、勝てる勝負を用意してやったんだよ」


「アレックス達には、感謝してほしい……」


 恨めし気に俺たちを睨むライトメアナイト。


『なんであんたたちが、そのこと知ってんのよ……』


 どうやら事実だったようで、そう訊いてくる。


「……別に、知らない、よ……でも……」


「まず《月鏡》の関係から、お前とアリストテレスが敵対してるだろうことは想像がついた。もしかしたらもう一回くらい合ってるかもしれないな、とかなんとなく思いながらな」


「そ、れで……国王から、あなたがわざわざ、祠に籠ってるって聞いて……その理由を考えて……」


「いくつかの理由のうちの一つとして、なんらかの理由で疲弊した御魂を回復させるためなんじゃないかという予想を立てた。あくまで無限にある可能性の一つとしてな」


「で、で……遺跡で好き放題暴れても、そっちから、出てこないから……その理由の一つに、やっぱり、弱ってるんじゃないかって、いうのを……あくまで仮定の一つで、考えてて……」


「その次に、血のつながりがあるはずのお前が輝夜の居場所が分からないと聞いて……お前が満身創痍なんじゃないかというあやふやな可能性が、形ある疑いに変わった。ツクヨミなら俺たちの居場所が分からないなんてこと、ありえないからな」


「中史くんが……エンテレケイアって、言ったらあ、あなた、すぐに転移しようとしたから……アレックスと、あなたの繋がりも、分かって……。……念のため、『エンテレケイア』と『アレックス』って、両方名前出してたの、中史くん流石だな、カッコいいなって、思った……私には、できない……!」


「決定的だったのは、お前の……《月航(レトラシオン)》だったか? 転移の神術の構築が、遅すぎたことだよ。術の編纂を見てから妨害が間に合う構築速度なんて、万全の神じゃありえない」


「だから、それで……あなたが弱ってるのは、確定して……その理由は、またいくつか思い浮かんだ、けど……」


「ここに来てお前が悔しそうに倒れてんの見て、まあこれが理由で合ってるだろうと思った。結局確信するには見なきゃいけない。百聞は一見にしかずってやつだ。な、別に特別なことじゃないだろ」


 この単純な営為。

 それが、中史のやり方だ。 


 別に裏付けとか証拠とか、そんなもの必要ない。

 使うのは頭だけ。


 あらゆる仮定を思い浮かべておくだけ。


 あらゆる可能性を常に模索しつつ、自分と周囲が行動する中で変化するその確率を完璧に把握ながら、考えて先手を打ち、あるいは流れに身を任せるのが最善ならそのように、動く。今回は後者だったな。


「こ、ここまでストイックなのは……中史くんくらい、だけど……ね……」


「だから『頭がおかしい』と言ったのだ」


「うるさいな」


 狂ってる? それが誉め言葉になるのは中二病だけなんだよ。


「……まあ、そんな俺たちでも、分からないことはあるけどな」


「……ほう?」


 と言って、俺は嘆息一つ……今までずっと無視していた、大穴、大番狂わせ、理論の瑕疵に、目を向ける――


 ――ああ。

 

 本当に、切実に、確実に。


 どれだけ思考を巡らし、思索の海に潜り、ホームズをこの身に降ろしても――ついぞ答えの見つからぬ、その理由というのは――と。


 俺は、ロクサネの横に立つ――そいつを指差して、極めて純粋な気持ちから、こう訊ねた。


「なんでメフィがそこにいんの……?」


「ああ良かったちゃんと見えてたんですね……! 最後まで触れられず終わるかと思って無駄に心臓ヒヤヒヤでしたよ……!」


 そう。

 

 俺とヒカリが教会に着いたときから「アレックス率いる冒険者パーティの一員ですがなにか?」みたいな顔でずぅーーーーーーーーーーーーと黙ってそこに突っ立っていた、そいつ。


 上質の絹のような白のロングヘアーに、優れた目鼻立ちの儚げな美人。のような何か。


 こっちの世界に来てから会えず終いで消息不明だった、異世界の召喚士。


 召喚士さん改め、メフィス・フェレスト。


「なにお前、また裏切ったの? 性懲りもなく?」


「し、失礼な! 別れる直前、もう勇者様を裏切ったりしない的なこと言ったじゃないですか! 忘れたんですか勇者様!」


「そういえば」


「そういえば!?」


 割と忘れてた。今、言われて思い出したけど。


「むしろ私は、勇者様に会うためだけに《リュケイオン》の一員として行動してたんですよ!? 惚れた男にはとことん献身的な美少女召喚士であるところのこの不肖メフィス・フェレストを褒めてください勇者様!」


「うっさ」


 こいつなんも変わってない。逆に安心するよ。


「ということなので、アリストテレスさん、これまでありがとうございました。ただ今より私は、勇者様陣営に寝返らせていただきます!」


 ――は? なに?


「うむ。確かに裏切られた」「敵対しても、私たち友達だよ、メフィ……!」


 …………????


「はいロクサネさん! アレックスさんたちも、ありがとうございました! 明日からは敵同士、仲良く戦いましょう!」


「うーん……俺は何を見せられてるの……?」


 目の前で繰り広げられる意味不明なやり取りに、俺は頭を抱える。


 さっきのアレックスは、こんな感情だったのか……?


「アベンエズラさん、アルテミスさんも、お世話になりました!」

 

 さらには姿を見せないが気配だけはしていた――恐らくはアリストテレスの仲間にも、天井に向けて声をかけていた。


「え、あ、あの、西日川、光です……初めまして……」


「あ、はい。えっとメフィス・フェレストと言います。あ、そのぉ……よろしくお願いします……」


 そして最後に……わ、コミュ障同士が挨拶してら。


 ぷぷぷっ、実はアッパー系陰キャでコミュ障なメフィがキョドッてんのおもしろ。


「……それでは、ここで為すべきことはすべて終えた。我々《リュケイオン》は時空歩行者(ペリパトス)として、この場を去ることにしよう。ナカシトキ君、それで構わないな?」


「ああ。ついでみたいな感じで組織名っぽいのをばらすのはどうかと思うけど、もう用はないしな。もう一度言うが、輝夜を傷つけるなよ」


「分かっている」


「あとは、そうだな。そいつが輝夜であれ、その、王女殿下であれ……名前を、大事にしてやってくれ。お前風に言えば……それがあいつの観想(テオーリア)を促し、幸福追求に繋がることになるものだから」


「ふむ。相分かった。その言葉、確かに遂行するとしよう」


 そうしてアリストテレスが、いつかも使った魔術を構築する――


『ま、待って! その子をどうする気――!!』


 ライトメアナイトが、輝夜に手を伸ばす。


「《形相(エイドス)》」


 しかしそんな制止も意味はなく、アリストテレスの漆黒の魔力がアレックス達と輝夜を包み――


『………………』


 その魔力が消えた後には、何も残らなかった。


『……あ、ああ……』


 月神が、か細い声を上げる。


『メアは、また……守れなかったの……っ?』


 ――そうして月見里輝夜は、《リュケイオン》と名乗る組織に連れ去られてしまった。

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