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幻月のセレナ -世界と記憶と転生のお話-  作者: 佐倉しもうさ
第三章 而して浮生は夢のごとし
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二十五話  西日川光検定免許皆伝(光白帯・勲一等旭日光花大綬章)

 受付嬢も言っていたように、アクアラクナに繋がるリーズ海は氷河が浮いていて寒そうだったので、泳ぐのは不可能。結局迂回して、ジガティラ山の傍を通ってテレセテネス森林を歩く、行きと同じルートを辿ることになってしまった。

 

 その間も……俺は、数十秒置きに後ろのヒカリの様子を確認する。


「……。……」


 目が合うと、頷いて、ふわりと笑うヒカリ。


 大丈夫、問題ないよ、の笑顔。


「……!」


 眉をキリッとさせて、ぞいのポーズをするヒカリ。


 50メートル先に魔物がいるから気を付けようね、の仕草。


「……?」


 上目遣いで俺を見ながら、首を傾げるヒカリ。


 道こっちで合ってるよね? という疑問。


「案外問題ないもんだな」


「……!」


 うん、と首を縦に振るヒカリ。


 ヒカリは俺の未熟な異術《The Forgiven》の影響で、声が出なくなってしまった。この魔術は童話を元にした魔術。脚の痛みと声を代償に払うという本来の術の効果を、消しきることができなかったのだ。

 《海神眼(わだつみのまなこ)》で御魂を視たところ、人魚に戻せばすぐに治る症状っぽいので、この世界に居る間はそのままでいいかという話になった。


 すると問題になってくるのが、コミュニケーションなのだが――


「…………、……、……!」


「『中史くんの影響で私もなろう小説読んでたから、実はこの状況、結構楽しんでる自分がいるよ!』」


「……、……!」


「『好きなモンスターはスライム。ぷよぷよしててかわいいから!』」


「……、……!」


「『すごいすごい、通じる! なんで!?』」


「…………!」


「『これなら普通にお話できるね!』」


「……、…………?」


「『中史くん、私の好きな食べもの知ってる?』」


「……。……、……! ……」


「『ポム〇樹のハヤシオムライスだよ。あと手前味噌だけど、自分で作ったカレーはちょっと自信がある! いつか中史くんにつくってあげたいな』」


「-・・- -・・ ・-・- -・・-・ --・ ・・- --・ ・・-・・ ・・・- ・- ・-・ ・-・-・ -・ ・・ -- ・-・-・- ・-・ ・-・・ --・-・ ・・・- ・-・-・ ・-・-・- ・-・・・ -・・ ・・ -・--- ・-・-- -・--・?」


「『まほろも料理得意なんだよ。中史くん、覚えてる?』……いや、覚えてないな」


「……! …………っ!」


「『中史くんなんでも分かるんだね! なんだか嬉しいよ!』」


 ヒカリはぱああぁっと顔を輝かせた。嬉しそう。いや、実際嬉しいのか。


「だいたい通じるな」


「……!」


「『ばっちりだね!』」


 ――という感じで、あまり問題はない。


(てかヒカリ、身振り手振りだとめっちゃ流暢に喋るな……)


 もう俺相手の時はジェスチャーだけでコミュニケーションとった方がいいんじゃない?

 なんかいつもより、表情豊かだし、身体の動きが機敏だし。いつものおどおどのろのろした雰囲気が払拭されてて、正直遠くから見たら欠点のない美少女だ。


 言語を介すとアレなだけで、今の感じがヒカリの素なのかな。そういうのやめてほしいよ。正統派美少女のヒカリとか、本気で惚れる。惚れてしまう……!

 いっそのこと、この場で告白を――


「ハッ――違う……信じるというのは、そういうことではない……!!」


 グサッ!


「…………!?(きゅ、急にどうしたの!?)」


 顕現させた十束剣を太ももにぶっ刺して、痛みにより情欲をかき消す。


「むしろそれは、俺に寄せてくれた信頼を裏切る行為に等しい……!!」


 グサグサッ! バキバキバキッ!

 

 太ももから盛大に血が溢れ、大腿骨が折れる音が響く。


 今は『中史』としての仕事中だぞ……kool(クール)になれ中史時……!


「ダメだ……この程度の痛みじゃ足りない――自己啓発せよ、中史時――《月降(つきおろし)》ィ!!」


「………………!(自傷行為はダメだよ、中史くん!)」


 ヒカリの無言の圧力によって、俺の喉の痛みは引いていった。



   ☽



 オールラウンダーの俺に、後方支援のヒカリ。戦闘の組み合わせとして、実は俺たちはかなりバランスがいい。

 出くわした魔物の群れを俺が《月降(つきおろし)》で一掃しつつ、残った数匹を光の《光矢(こうし)》が射抜く。このコンビネーションを打ち破れるモンスターはテレセテネス森林にはいなかった。

 というわけで、行きは4時間かかった森林の攻略が、帰りは1時間半で済んだ。


 進〇の巨人のウォールマ〇アみたいな外壁を抜けて、セレスティアの国内へと戻る。


「……!(ここがセレスティア……!)」


 初めて見るなろうタウンに、目を輝かせるヒカリ。


「…………」


 ホントに中世ヨーロッパみたいな街並みだね、と無言ではしゃいでいた。


「ここを道沿いにいくと、大通りに出るんだ。バザーみたいな出店が並んでて、セレスティアの特産品や他国からの輸入品もそこに集まる」


 すると、ヒカリは困り眉でお腹をさすった。


「安心しろ、責任はとる」


「!」


 ペチン。叩かれた。


「分かってる分かってる、お腹空いてるジェスチャーだろ。俺もだ。輝夜たちに会うのは、先に腹ごしらえを済ませてからにしよう」


「…………(中史くんのいじわる……)」


 これは了承のサインなので、俺とヒカリはそのまま大通りに出た。


 セレスティアのメインストリートは今日もお祭りみたいな賑わいで、様々な人でごった返している。その中の2割くらいはエルフ族。なんとか法を制定するのが云々とクラインが言っていたが、人間とエルフの仲は良好なようだな。


「…………!」


「『エルフの魔力量、すごいね。今の強そうな女のエルフ、中史の平均の半分くらいの魔力量だったよ』……そうだな。やっぱり種族差があるんだろうな。なろうの例に漏れず、この世界のエルフも魔法に特化してるみたいだから」


 目新しいものばかりのヒカリは、異世界の光景に興味津々。今のヒカリは動きが活発なので、一々興味を示したものを指差したり、俺の袖をクイクイ引っ張ってきたりする。俺はその姿に癒されながら、ヒカリの質問や要望に出来る限りこたえていく。数か月前の京デートよりよっぽどデートっぽい。楽しい。


「……!」


「『あれが食べたい』? ……おお、焼き鳥か」


 鳥のももを串に刺し、焼いて、タレで味付けされた所謂焼き鳥。

 鳥と言っても、グリフォンだが。


「……?」


「グリフォンは肉食獣じゃないかって? ……そうだけど、体内の魔力の巡りの関係で肉食獣特有の臭みが消えて、食用として出回ってるんだよ」


「……!」


 食べたそうな顔をしているので、買うことにする。2本で500メル。高級な地鳥だ。


「毎度アリ!」


 店員のおっさんからグリフォンの焼き鳥を受け取って、ギルドに向かって歩いていく。


「……!」


 一口食べて、おいしい、と目をキラキラさせて無言のアピール。

 ヒカリが満足そうなのを見て、俺もぼちぼち焼き鳥を食べ始める。

 

 メフィ・輝夜と宿屋に泊まっていた時にたまに食べていたきり。久々の異世界の料理は、なんだか特別においしかった。



   ☽



 その後冒険者ギルドに移動した俺たちは、一足先にセレスティアに着いていた輝夜、メダカと合流した。


「ご主人様っ!」


 俺を見つけた天帝がドタドタ足音を立てながら走り寄ってきて、勢いよく抱き着いてくる。


「うぉっ……急に抱き着いてくるな、後ろにぶっ倒れる」


 慣性に従った銀髪のツインテールが、俺の顔を鞭のように叩く。

 ふわりと甘い香りがして、よくない感情が胸の内から湧き上がってくる。


「ご、ごめんなさい……」


 目を潤ませて、しょんぼりと落ち込んでしまうメダカ。


 タックルを受け止めた都合、メダカの小鹿のように細くしなやかな背に手を回すことになったんだが……これもダメだ。メダカの柔肌から生の体温が伝わってきて、よくない。非常に。


「お前の忠心は嬉しい。次からは、一声かけてくれ」


「はい……ご主人様……」


 俺とメダカが見つめ合い、我慢できなくなったメダカが先に目を逸らしてしまう。

 俺たちにとっては普通の、勇者と竜の和気藹々とした馴れ合い。


 だが……


「……! ……!?」


 それを横で見ていたヒカリは、口を鯉のようにぱくぱくさせて……吃驚していた。


「……、……?」


 次に不安そうに眉を落として、俺のコートの袖をちょんとつまんでくる。

 まるで、ご主人様に捨てられるんじゃないかと怯える、飼い犬のように。


「どうしたんだ、ヒカリ。言葉にしてくれないと、分からないぞ」


 俺がそう訊ねると……


「…………」


 ヒカリはちょっと涙目で、恨めしそうに俺を睨んできたよ。ちょっと意地が悪かったか。ごめんごめん。


 俺が平謝りすると、ちょっと機嫌を直してくれたヒカリが、天帝を見て訊いてくる。


「……(じゃあ、その女の人、誰?)」


「人じゃなくて竜だ」


「メダカです」


「……(ホントに誰なの……?)」


「天帝と呼ばれる、ドラゴン種のメダカだ。今は《義態(ぎたい)》という術で、主人と同じ種族へと変化してる。信じられないかもしれないが、(メス)じゃなくて(オス)だ」


「……(信じるよ。こんなにかわいい子が、女の子なわけないもん)」

 

「お前みたいな美少女がそれ言うとただの嫌味なんだぞ」


「…………!(ご、誤魔化されないよ!)」


 いくら動作が溌溂になったとはいえ、褒められることへの耐性は元のヒカリのまま。あわあわと頬を染めて、それ以降は語気(?)が弱くなっていった。



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