主人公は誰ですか?
毎度のことながら思い付きのつなぎ合わせ。
時系列飛んでるのはわざとです。読みづらいかもしれませんが、他に表現しようがなかった。
空には暗雲が立ち込め、辺りはどんどん暗くなっていく。
目の前のオークが大鉈を携えて笑っていた。
大鉈を染める赤い血は、私の腹から出たものだ。
呼吸が上手くできない、口から血があふれてごぼごぼと不快な音を立てる。
…痛いなぁ。
視界が突然横倒しになった。
力が抜けて、とうとううずくまることさえできなくなったようだ。
腹部はひどく熱くて痛いのに、倒れた衝撃はあまり感じなかった。感覚がマヒしてきているのだろうか。
辺りはさっきまで悲鳴であふれていたが、今はそれも良く聞こえない。
オークが再び、とてもゆっくり大鉈を振り上げる。
私に見せつけるように、私の最期を楽しむように。
…結局こうなったか。
後悔と言うとちょっと違うけれど、一番悪い予想が当たってしまったことを少し残念に思った。
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ふと目に入ったポスターを見て、私はもしかしたらゲームの世界に転生しているのでは?という疑いを持った。
うん、頭がおかしい人の発想だ。うっかり他人に話せない。
でも私は正気だった。
「今まで特徴的なものが無かったんだよねぇ…」
これはちょっと確かめた方がよさそうだ。
ポスターが貼られていたのは馴染みの軽食店だった。
買い物ついでに話を振ってみる。
「ああ、あのポスターね。すごいよねぇ、王太子がお妃選びに舞踏会だなんて。」
「こんな辺境の田舎までお触れが来るなんてね。」
「俺は、王族って子供のうちから婚約者がいるもんだとばかり思ってたなぁ。」
「身分を問わずに参加可なんて、おとぎ話じゃあるまいし大丈夫なのかね?」
「でもこの町で参加者なんているか?一週間はかかるから、行くだけで一苦労だろ。」
「いやいや、平民がいきなりお妃とか無理だろう?その辺のご近所の娘さんに、王妃の仕事が務まるとは思えないぜ。」
「そもそも『身分を問わず』なんて上辺だけの話でしょ?どうせ城の前の広場までで、貴族連中だけ城内でさ、王族は最初だけ外に挨拶して終わりと見た。」
「へー…」
カウンターでちょっと「表のポスター…」まで口にしたところ、たむろしていた常連客が喜々として参加してくれた。
みなさん噂話がお好きである。
まだがやがややっているところに肝心の質問。
「王太子の名前ってなんだったっけ?」
「えーと、あれ?なんだっけ?」
「あー、ちょっと待て。ここまで出てる、出てるから…」
和気あいあいと騒いでいたのが、途端にみんなでうんうん唸りだす。
即答できる人が一人もいないと来た。
そうだよね、下っ端平民は御上の皆さんの個人名なんて知らないよね。
だって直接関係無いもの。
日々の暮らしが滞りなければ、生涯関わらない可能性が高い人種だもの。
私だって、前世で総理大臣の名前は知ってても、他の各種大臣の名前なんてほとんど覚えてなかったもの。
「そうだ、たしかディオルじゃないかな?」
「いや、待て…もう少し長かった気がするぞ。」
「ディ…ディで始まるのは確実なような…」
王太子の名前談義はまだ続きそうだ……
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私はいわゆる転生者というやつだ。
元は日本の一般家庭で生まれ育った、本とゲームが大好きで割とブラックな会社で社畜やってた以外は平凡な女だったと思う。
飛行機事故で死んだと思ったら、異世界で赤子になっていた。
そして良いのか悪いのか、前世の記憶は最初からあった。
わけが分からない状況ではじめはパニックを起こしたけれど、赤子なので当然言葉は喋れないし満足に動けない。
それはそれは良く泣き這いずり回る元気な赤子だった。
考える時間だけはたっぷりあったので、ある程度育ったころには二度目の人生を謳歌してやろうとすっかり開き直っていた。そんな幼少期。
そして現在、15歳。問題のポスターである。
王太子の似姿がでかでかと描かれていたのだが、その顔が前世で遊んだとあるゲームの登場人物まんまだった。
そして『ディ』で始まる名前……
「たしか『ディードリッヒ』だっけ?」
うん。ここが本当にそのゲームの中なら、王太子の名前はディードリッヒのはずだ。
ゲームの大まかなストーリーはこうだ。
・主人公は各地を転々と武者修行する身(一般人男性)で、旅の途中で魔王復活をもくろむ邪教の存在を知る。
・邪教をつぶすため東奔西走し、仲間がどんどん増えていく。
・なんやかんやで国も巻き込んでの騒動に発展し、王太子も仲間に加わる。
・最後は邪教を潰して魔王復活を無事阻止。
・凱旋&結婚パーティーでエンディング。
そしてこの『結婚』は主人公&王太子の合同結婚式だ。
このゲームは主人公と王太子が毎回の戦闘に強制参加し、他の戦闘メンバーを大勢の中から選ぶ形式だった。
主人公は一番戦闘に参加していた女キャラと結婚し、王太子は二番目に戦闘に参加していた女キャラを妃に選ぶことになる。
結婚相手は単純な戦闘参加回数で決まるので、どうしても使い勝手のいいキャラで固定されてしまうのがやや不満だった記憶がある。
さて、ここまで思い出したところで、色々疑問だらけだ。
「なんで『結婚相手を決める』舞踏会?」
わざわざ探さんでも、そばに候補がいるはずなのに。
というか、ゲームでは邪教の存在が明らかになって、世界的に大騒ぎだったはずなんだ。
「邪教のじゃの字も聞かないんだけど…」
どうしよう。
王太子が似てるだけで、全然関係無い世界なんだろうか?
そもそも、私が今まで全くゲームへの転生を考えなかったのは、生まれ育ったこの町の名前に聞き覚えが無かったからだ。
あと、世界地図どころか国の地図も見たことが無い。
田舎で生涯スローライフの予定だったから、地図が無くても気にしなかったし、大きな町の情報とか全く調べてなかったのだ。
さすがに住んでる国の名前くらいは知ってるけど、これはゲームの方の国名を覚えてなかったというオチだ。
だって中学生くらいにやったゲームなんだ。細かいことまで覚えてるわけ無い。
まぁ、言い訳はともかく。ゲームの国名が思い出せないのはちょっと困る。
ゲームは国内だけでおさまっていたし、街は10個も無かった。それに対し、この世界には大小沢山の町・村・他国がある。
今いる町がゲーム上は存在しないのを、ゲームと関係無い世界だと見るか、ゲームではストーリーと関係ない町・村は省略されていたと見るか。判断に迷うところだ。
でも、もしもここが本当にゲームの世界で、邪教の存在が公になっていないのだとしたら。
「『主人公』が邪教をつぶすために旅をしていない……?」
やばくないか?
だって魔王復活を阻止してハッピーエンドなのだ。
ゲーム序盤は全滅すると単に『ゲームオーバー』なのに、ゲーム終盤で全滅すると『魔王が復活して世界滅亡ムービー』が流れるという演出の細かさなのだ。
主人公が邪教退治してない→仲間も王太子も動いてない→誰も何も対策しないまますんなり魔王復活
「ギャース!」
思わず叫ぶ。
家族が心配して様子を見に来たが、とりあえず手を振って何でもないアピールで追い返した。
嫌だよ世界滅亡とか勘弁してください。
え、でもこれどうすればいいだろ?
今主人公どこで何してんの?!
「なんとかゲーム内の時間軸と進行具合を思い出さないと…。」
とにもかくにも主人公の現状と、ゲームストーリーの進み具合の確認が重要だが……。
「あ、マジで積んだわこれ。」
思わずその場でくずおれる。
床に膝を強打。結構痛いしうるさかった。
足を抱えて転がる私を家族がものすごく不審な顔して見ているが、それどころじゃなかった。
「デフォルト名も細かい年代設定も無いやつだった…。」
そうなのだ。主人公の名前は最初空欄で、自分で決めないとオープニングが始まってくれない。ランダム設定とかも無い。
ついでに明確な日数とか全然出てこないやつだった。ゲームスタートがいつなのかすら分からない。
どうすれば……
「……うん。とりあえず、王都に行こう。」
膝の痛みが引いてきたので、ゆっくり起き上がる。
そうだ、王太子が主人公と出会っているかどうかをまず確認しよう。
王太子が似てるだけで全然関係ないという可能性もまだ残ってるし、そこをまずはっきりさせる。
主要な都市の名前ならちょっと知り合いに聞けばすぐわかる。ここがゲーム世界なら一つや二つ一致する地名があるだろう。
逆に全く一致しなければ、関係ない可能性が高くなる。
今住んでいる場所が世界のどこなのかは分からない。けど、王都へは定期馬車を乗り継げば行けるはずだ。
幸いゲーム内の世界地図は覚えているから、王都まで行けばゲームとしての地理は大体把握できるだろう。
「でも王太子のそばに主人公がいるかどうか、どうやって確認しよう…。」
…………。
うん、何も思いつかない。
確認方法はおいおい考えるとして、とりあえず仲間になっているのなら、多少の誤差はあってもゲームストーリーは進んでいると見ていいだろう。
だって、主人公一般人だし。邪教の件が無ければ、王族と知り合う機会なんて無いだろうし。
もし仲間になっていないようだったら、主人公らしき人を探さそう。
主人公と王太子が仲間になるまでの道筋を、王都から逆走していけばどこかで見つかるはずだ。
「主人公っぽい人…見過ごしてすれ違いは嫌だな。」
何しろうろ覚えなところが多い上に、名前が全く分からない。
外見的特徴と、武者修行している(多分)という情報だけで、見つかるだろうか?
「どうにも上手くいく気がしないけど、やるだけやるしかないよね。」
せっかくの第二の人生だ。
世界と心中はご免こうむりたい。
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以上、回想終了。これって走馬燈かね?
そんなこんなで結局間に合わなかったわけだ。
王都に向かおうと決意したはいい物の、先立つものが無かった私はすぐに出発できなかった。
しかも、舞踏会に出るつもりなのか王妃になりたいのかと揶揄われるは笑われるは、腹が立つったらない。
まごまごしていたら一か月もしないうちにこれだ。
もうすぐオークの大鉈が振り下ろされる。
首が飛ぶかあるいは胴体が真っ二つか。
あれだけ大仰に振り上げておいて、生かして嬲るってことは多分無いだろう。
もう動けないのでどうにもならない。
なんでか視界はやたらとクリアなので、せめて最後はしっかり目を開けていよう。
スローモーションで迫る刃に、三度目の人生は無いんだろうなぁなんてぼんやり思った。
RPGモブ転生、間に合わなかったバージョンでした。
あ、タイトルを「何処」ではなく「誰」にしたのはわざとです。誤字じゃないので念のため。
薄暗いお話しは読む分には結構好きです。
書くのは難しいですが、定期的にやりたくなる




