入学
大学時代は人生の夏休み。
この言葉は、よくできた例えだ。
あっという間に過ぎていき、儚く終わる。
「あれは、夢だったのかも知れない。」とも考える。
くたびれたスーツから、タバコを取り出し、火をつける。
遠くに見える観覧車は、色とりどりに輝いて、ライトアップされている。
中心に時計があり、「21:00」と輝いている。
「12時間後、またこの景色を見るのか」
一人タバコを吸いながら、つぶやく。
新卒で、横浜に配属されてからもう3年目になる。
現状の仕事に不満がある訳では無いが、満足もしていない。
あの頃の俺が、今の俺を見たら、何て言うのだろう。
======2014年======
九段下の駅を降りると、高校時代からの友人が待っている。
「わり!待たせた・・・」
いつもの心ない謝罪。
仏頂面をした男が、こちらを見ながら、イヤフォンをはずす。
『おせーよ』
この人が、俺の友人、「田口」あだ名は「タグ」。
綺麗な顔立ちで、一見モテそうなイケメンだが、彼女もいない童貞。
理由はとてつもない、めんどくさがり。
家にいるのが一番と考え、周りとも交流しようとしない。
高校の頃、通学路が一緒じゃなかったら、話してもいないだろう。
「入学式何分後??」
『15分後、急げ』
「早めに待ち合わせて正解だな。急げば5分だ」
『30分遅れといてよく言えるよ。』
タグは、呆れたように吐き捨て、俺のあとについて来る。
本当に良いやつだ。
30分も待ったなら先に行けばいい。
そう思う人もいるだろう。
それでもタグは、待っている。
なぜなら彼は、自他共に認める、方向音痴だ。
高校生の頃、地元駅の反対口からの帰り道が分からなくなり
タクシーを使った伝説の持ち主である。
地上に上がると右にはお堀、左は靖国通りがある。
何本か門をくぐると大勢の人が見えて来る。
みんなつい先日まで、高校生だったとは思えない、大人な感じがする。
カリアゲ、金髪、セカンドバック、スーツ、化粧、女の子….
最後に関しては、俺とタグの免疫がない。
中高一貫の男子校に入っていた俺らは、女の子と喋る事はもちろん
目を合わせられるかも、微妙である。
「お前がいてくれて良かった」
『なんだよ、きもちわりーな』
「あ、すまん、なんかこの人たちと仲良くなれる気がしなくて」
『そうか、俺も今それ言おうとしていたところだ』
「まずいな…」
春だと言うのに、ふたりの背筋は凍っていた。