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『七行詩集』

七行詩 681.~690.

作者: s.h.n


『七行詩』


681.


音楽室から 漏れて聞こえるアラベスク


私は 誰が弾いているのか知っている


私にも 他の友達にもできないことに


自分のことではないのに 得意げになりや


盗み聞きながら 応援している


この壁の向こうには 姿勢を正して


没頭する貴方が 居るのでしょう



682.


いつか貴方が 私のためだけに美しかった頃


果てない海図を 貴方の前に広げた時


あまりの幸せに酔い 私は葡萄酒をこぼしてしまった


時が経ち 今ではその染みの在り処にこそ


宝は光っていたのだと思う


この手に留めておけなかった奇跡を


もう一度掴むため 船を出す



683.


誰ともぶつかることのない本気は


きっとまだ本気じゃない 自分の中だけのもの


口出しするな そこをどけ、と


1,000,000マイルの道を突き進む


けれど 自分の中で守ることも必要で


せめて芽を出し 葉を広げ始めるまで


その手で守り抜かなくては



684.


負けず嫌いな 私たちはまるで


変化球ばかりの キャッチボールをしているみたいに


その場では 受け止めきれないことばかり


顔色一つ変えず 平気で試すような嘘をついたり


思わせ振りな態度を取ったり


それでも走り 休みながら


終わらないゲームを続けている



685.


一本の腕に 掴めるものは一つだから


鉄屑に手を伸ばしている時間はない


そんな私も 転がる鉄屑に過ぎないけど


私が欲しがるのは純金だけ


たくさんのガラクタを漁るより


本当に価値のあるものだけを


いつまでも追い続けていたい



686.


花屋の前を 通る度に思う


以前とは 違う花が並んでいる


どんなに香り高い花も 美しさは長くもたない


これでは 貴方に渡せる日までに枯れてしまう


けれど もし明日 貴方に贈ることができたら


その花は 貴方に出会うのを待って咲いたのでしょう


小さな命いっぱいに 貴方を祝福するために



687.


いつか貴方と 移り住みたいと 見上げていた


天空の島が 楽園が 私の上に落ちてくる


愛情を伴う夢が ただの絵空事で済ませたなら


実体はなく 痛みもなく 消えていったでしょう


私は 夢で済ませることができなかった


私は 虚飾で固めた真実の


重さにより 身を滅ぼすのです



688.


貴方には 嘘も真実も通用しない


貴方は最初から 私のことなど見ていないから


通りすぎる街の看板と同じ


どんなに明るく飾っても


視界に入ることはできても


その足を止めることはできない


イヤフォンから流れる音楽を 止めることはできない



689.


夏の終わりに 一歩踏み出す時


まだ聞こえてくる虫の音が


空に打ち上がる花火が


少し早く 寂しさを連れてくる


それは私達が 次に訪れるものを知っているから


一年後が どうなっているかなんて分からない


けれど 訪れる季節や 私の行き先は変わらない



690.


雨の夜のホーム 明かりはいつもより明るくて


屋根を叩く音は 鳴り止まない


楽器のケースは 水を弾いて


いつもより光って見えたりする


電車はまだ人を乗せている


私も乗せて運んで行く


これから翌朝帰るまで 雨は降り続けるでしょうか



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